8 崩壊の序曲【ギルド視点】
「なんということだ!」
ギルド長サイハンは強く拳を机に叩きつけた。ドンッ! と鈍い音がギルド長室中に響き渡る。
その怒りの理由は、つい昨日発売された新たな魔道具、解体マンとモンスターバスターXだ。
「いつかはこうなるとは思っていたが、まさかこんなにも早く完成するとは」
サイハンの見込みでは、後十年はここまでの水準の魔道具は出ない筈だった。それまでは冒険者に一定の仕事が来るだろうと、たかを括っていた。
「この前は財政難を理由に無能を追放したが……今度は本当に不味い」
数日前、ナルヤに話した内容は半分は真実だった。生存圏の拡大、魔道具の発展により依頼数が減少し、利益が右肩下がりだ。ただ誰かを辞めさせなければいけない程ピンチだった訳ではない。
そもそも、本当に倒産寸前なのならばナルヤ一人を解雇にした所で状況が変わる筈がない。不利な状況を、無能を追い出す為の口実にしたに過ぎない。
しかし今回の件は本当に不味い。依頼の減少スピードは今までの比にならず、何よりギルドが専門的に行っていたモンスターの解体を、たかが魔道具一つで済ませてしまう。
「どうすればいい……どうすればこの状況を打破出来る……」
頭を抱えて考える。そこで、机に置かれている書類が目に写った。
「……グランドマジック」
グランドマジックはこの国、サハスラール王国を守る象徴である勇者を決めるべく、五年に一度開催される武闘大会だ。
全国十五箇所で開かれる予選を勝ち抜いた猛者に現役の勇者を加えた十六人が王都に集い、本戦を行う。
流石に今代の勇者ルイは別格だが、SSランクのスキルを持つマルクスならば容易いだろう。
SSランクのスキルを持つ者はこの国でも十人いるかいないかだ。それにマルクスは冒険者としての経験もある。勇者以外なら負ける事はない。
「本来なら強制する事ではないがやむを得ない。あやつらもクビにされるよりかはマシな筈だ!」
本戦で良い成績を収めればギルドの宣伝に繋がる。少しでも多く依頼を集めるにはそれしかない。
サイハンはグッと拳を握る。絶対に成功させるという決意を込めて。
カウントダウン
28day