英雄
時計の針が十二の文字に差し掛かり、各地に異変が起き始めた。
魔力が消失し、王都に聳え立つ王城は音を立てて崩れていった。
それだけではない。魔力の消失により魔道具の一才が鉄屑と化した。電気は消え、通信は途絶え、物流は滞り、世界中がパニックへと陥った。
回復魔法が使えなくなった事により、治療中だった多くの患者が死に絶え、その犠牲者は数百人に及んだという。そしてその数はこれからも増え続ける。
◆◆◆◆◆
それから数日、私とナルヤはどこかも分からない平原を歩いている。
今は国の追手から逃げると共に、立ち寄った町村で復興の手伝いをする日々。国もナルヤを追いかけるどころじゃないから、暫くはこの生活を続けられそうかな。
前を行くナルヤの後ろ姿を見たら考えちゃう。もし彼ではない誰かと旅をしていても、こんな結末になっていたのかなって。
多分違っていたと思う。どこまでも誰かを守る事に真剣で、その為の努力を惜しまない。そんな彼が、他の多数ではなく、私だけを選んでくれた。
自分が死ぬしかないと思っていた私に、生きていて良いんだと言ってくれた。…………それに本当に救われた。
きっと多くの人は認めないだろう。彼自身もそれを認めないだろう。でも、彼がそうしてくれたように、私が何度でも肯定する。彼こそが……
「ナールヤ!」
「ん? 呼んだ?」
私が呼びかけるとナルヤは振り返った。そんな彼に、私はとびっきりの笑顔で言う。
「ありがとう────私の英雄」




