86 ナルヤvs
ユノとマルクス、二人のSSランクスキルの持ち主と対峙していたザイは、攻撃を躱しながらも、王城の変化に勘づいていた。
さっきまでは窓から光やら闇やらが漏れ出ていたが、今はそれが一切ない。決着が着いたという事だろう。
だが、どちらが勝ったのかが分からない。ルイが勝ったのなら、すぐ様撤退すべきだろう。しかしナルヤが勝ったのなら、ここを通す訳にはいかない。
もうそろそろ制限時間な事や、最後に漏れ出たのが光だった事から、ルイが勝ったと見るのが妥当だろうが、推測だけでこのチャンスを逃していいものか。
考え抜いた末にザイが出した答えは……
「もう暫く貴様らと遊んでやろう。かかってくるがいい」
「はっ、こっちはもう飽き飽きしてんだよ!」
それぞれの想いを抱えながら、三人は城外でぶつかり合う。
◆◆◆◆◆
「魔王が出たって言うから気になっていたんだ。ナルヤだったんだね」
「うん。この儀式を止めに来た」
倒れ伏した状態からふらふらになりながらも立ち上がり、ナルヤは答えた。
その言葉を聞き、ミユキの顔が曇る。こうなる事は理解していた。彼女がどれだけの想いでここにいるかを知っているから。
「私言ったよね。絶対に優勝してねって」
「うん」
「約束を破るんだ」
声は落ち着いているが、そこには怒気が篭っている。思えば彼女が怒った所を見た事が無かった。どこまでも知らなかったんだと痛感させられる。
「それはごめん。でも、それよりもミユキ、君に生きて欲しい。それが僕の願いだ」
「私が死ねばみんな助かるんだよ。それでいいじゃない」
「駄目だ。僕は君に生きて欲しいんだ」
「それが私の願いだとしても?」
「君の願いはみんなの為に死ぬ事じゃない。もっと旅を続ける事だ」
消える前日に屋上で語った夢、それを忘れたとは言わせない。
「そんな身勝手な事出来ないよ!」
「身勝手なんかじゃない! 君は犠牲になる必要なんて無いんだ。世界から魔力が消えるのは宿命。君一人が背負う事じゃない、人類みんなで向き合うべき問題だ!」
「そうだとしても! 逃げたら私が許せない。救えた命を見殺しにしてしまった事を一生後悔し続ける」
「なら僕がその何倍も許し続ける。君は生きていていいんだと言い続ける。だからミユキ、一緒に行こう」
「私は……私は…………」
さっきまでの勢いが消え、言葉が途切れた。考えている。これからどうするのかを。
「本当に生きていていいの?」
「ああ」
「世界の全てを敵に回しても? 多くの犠牲を出すとしても?」
「勿論」
「私に……私一人にそんな価値があると言える?」
「ああ、当然だ」
ミユキの目を見つめ、力強く言う。
彼女の目から涙が溢れ落ちた。
「行こう、ミユキ!」
そう叫び、ミユキに向かって手を伸ばす。ガラスケースに阻まれて触れる事は叶わないが、今それを行うべきだとおもったのだ。
それに対しミユキは……
「…………はい」
涙ぐみながらそう言った。
彼女は両手をナルヤの方へと向ける。
「セイントヒーリング」
そう唱えた瞬間。さっきまで動かす事も満足に出来なかった体が、一瞬にして元の調子に戻った。
「これが……聖女の魔法」
「私の最初で最後の魔法だよ。ありがたいでしょ」
「うん、すっごくありがたい」
そう言い返すと、彼女が「へへっ」と笑った。久しぶりに見た彼女の笑顔に昇天しそうになるが、まだ天に召される訳にはいかない。説得に成功しただけで、救出してはいないのだから。
「はぁぁぁぁぁ!」
ナルヤが投げた剣は勢いよくガラスを叩き割り、人がギリギリ通れるくらいの穴が出来た。そこをくぐり、ミユキが魔道具の外に出る。
「ミユキ!」
「ナルヤ!」
飛び降りたミユキを受け止めるナルヤ。そして二人はそのまま抱き合った。
これからは過酷な日々が待ち受けているだろう。暫くは国に追われる事になる。お金だって殆ど残っていない。
(でもきっと大丈夫だ。二人一緒なら、どんな事だって乗り越えられる)
カウントダウン
5minutes




