77 覚悟【ナルヤ】
それから数時間。太陽は沈みかけ、空は紅色と星空で二分割されている。
視界が悪くなっていく中、とうとうそこに辿り着いた。森の中にある祭壇のような物に、錆びた二本の剣が刺さっている。
「これが……魔剣?」
「そうだ。人間達にその力を悟られないよう、外見だけは錆びついたように見せかけている」
ザードが自慢げに言った。ナルヤがそれを掴むべく手を伸ばす。
「それに触るのは止めておいた方がいい。命が惜しいならね」
もうすぐで届くという所で思わぬ横槍が入った。ナルヤは声のした方向へ視線を向ける。
眼鏡をかけた長身の男、スーツを着込んでいるが、所々薄汚れている。ナルヤは悪態をつきながら返事を返す。
「どういう事ですか? ザイさん」
ナルヤから問いかけられたザイは、得意げにそれに答えた。
「君の仮説は概ね正しい。魔王と君のスキルはほとんど同じだ。君でも魔剣を扱う事は可能だろう。だがしかし一つ問題がある」
「問題?」
「光と闇は対の存在。お互いの力は反発し合う。君はこの剣を使う間、壮絶な痛みに耐え続けなければならない」
本来なら他の魔法を扱うなんて芸当はほぼ出来ない。魔法の発動が剣に委ねられているからこそ出来る荒技だが、副作用は大きいようだ。
ザイは笑みを浮かべながら話を続ける。
「たとえ耐えたとしても、人間の体ではそう長くは持たない。四時間もすれば君の体はボロボロだ。まともに歩くことすら叶わないだろうね。それでもその力を手にするのかい?」
問うてはいるが、その表情はとても愉快そうである。彼はどう答えるか分かっているのだ。ナルヤは必ず、自分が望む方に進むと。
「僕は迷わない」
ナルヤは魔剣を掴む。
「ヴッアガッアァァァァァァァ!」
その瞬間、形容し難い痛みが全身に流れた。体が悲鳴を上げている。今にも崩れ落ちそうになる。
だが倒れない。そのまま二本の剣を引き抜く。
「ほーう、抑え込んだか。痛みの方はどうだい?」
「今は大丈夫だ」
「スキルの力で痛みを抑えたようだ。だがあくまで痛みを止めただけに過ぎない。君の体は今も傷つき続けている」
つまり四時間程すれば体が壊れるのは変わらないという事だろう。
「お兄ちゃんすごい! まおうさまになっちゃうなんて!」
「時間はない。ミユキを助けに向かうぞ!」
「魔王だけ使える魔法に、ダークネスオーバーエンチャントというものがある。それをわたし達にかけてもらおう」
「あなたも協力すると?」
「勿論。この国の文明力を千年も退行させられるんだ。むしろやらない理由を教えてもらいたいぐらいだ」
相変わらず思想には賛成出来ないが、彼の行動理由が復讐である以上、これ程信頼出来る味方もいない。ナルヤは魔法の準備をする。
「ダークネスオーバーエンチャント」
ナルヤから邪気のようなものが分泌され、三人へと向かっていった。
「分かる。分かるぞ! 魔王様の力が流れるのが」
「すごーい! メイ、すっごく強くなったよ!」
「さあ、準備は整った。参ろうか、王よ」
ナルヤの服が黒色に変わり、マントが追加された。これも魔剣による仕様のようだ。
「目標は王都。そこで行われる儀式をなんとしてでも阻止する!」
カウントダウン
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