75 ホワイトパニッシュ
ナルヤ森の中をズカズカと進む。本来ならモンスターに気付かれないように慎重に進むべきなのだが、今は一分一秒が惜しい。危険を承知で前に進む。
地図も詳しい位置までは載っていないため、ここからは自力で探すしかない。ただでさえ見栄えの変わらない森の中、捜索は困難を極めるだろう。
「ぎゃぁぁぁぉぅ!」
咆哮が聞こえ振り返る。狼型のモンスターが、赤く光る瞳でコチラを睨みつけている。モンスターに合ったらやる事は一つ…………
(逃げろぉぉぉぉぉぅ!)
ナルヤはモンスターに背を向け走り出した。それを、炎の玉が次々と追い抜いていく。
「という事はアレはバーンウルフ」
バーンウルフは炎魔法を扱えるモンスターだ。その他にも狼型らしく足が異常に速いという特徴も持っており、追いつかれるのも時間の問題そうだ。
「なんとか……なんとかする術は……」
最近は光魔法しか使ってこなかったせいか、シャイニングエンチャントだのシャイニングプロテクションだの、使えない方法ばかり思い付く。
つくづく自分がどれだけスキルに依存していたのかを思い知らされる。
と、そうこうしている内にバーンウルフがどんどんと距離を詰めてきている。近ければ近いほど魔法の命中も上がる。バーンウルフが口を大きく広げた。中に炎が集約され、それを勢いよく…………放たれない。
「ん?」
そしてそれを境に、バーンウルフのスピードが一気に落ちた。依然ナルヤよりは速いものの、精々魔法の使えない狼型モンスター程度である。
「まさか」
ホワイトパニッシュ。魔力の消滅が限定的に起こっている状態。残っている魔力もその周辺に割り当てられるため、この場所には一切の魔力が存在しない。
今まさに人類を、ミユキを苦しめている現象だが、今だけはナルヤの味方をしてくれたようである。
ナルヤは逃げるのを止め、剣を引き抜いた。冒険者時代、ナルヤが使っていたものだ。聖剣を預かってからは使っていなかったが、持ってきておいて良かった。
バーンウルフがナルヤへと飛びかかる。だが、魔力のない戦闘においては、ナルヤ程修行を重ねた者などいない。
がら空きの脇腹を剣で一閃。血しぶきを上げ倒れ伏す。すかさず剣を突き立て、心臓を勢いよく突き刺した。
「先を急ごう」
絶命したのを確認し、ナルヤは更に奥へと進む。
カウントダウン
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