73 倒産しそうだから戻ってこい?すまないが本当の夢を叶えるので勝手に倒産しといてください
「ナルヤ、お前に話があってきた」
「すみません。今は時間がなくて」
「話はすぐだ。もう一度ギルドに戻ってこないか?」
ギルドが経営難に陥っているのは知っている。大方、本線まで上がったナルヤをもう一度引き入れる事でイメージアップを狙っているのだろう。
悪くない申し出だ。それでギルドが助かるのなら喜んで引き受けていただろう。……少し前までならば。
「すみません。それはお引き受け出来ません」
「どうしてだ? ギルドの所属にさえなってくれれば何をしても構わん。旅でも勇者でも好きにしていいんだぞ?」
残念な事に、それをすると余計に悪化してしまうのだ。何故なら、今からナルヤが歩もうとしているのは栄光ではない。覇道なのだから。
「すみません。僕には本当の夢が出来たんです。それを叶える為にも、今はそんな事をしている時間はありません」
ナルヤはそう言い残し、馬車乗り場へと向かう。後ろを見ると、呆然とナルヤを見るサイハンの姿があった。
「ハーベル町行きの馬車はここですか?」
「ああそうだ。乗るなら早くしな」
「ありがとうございます」
ナルヤは急いで乗り込み、地図を確認する。若干判りづらいが、この方向で合っている筈だ。
ナルヤを乗せた馬車はゆっくりと動き出す。目的の場所は向けて
◆◆◆◆◆
夜もふけ、空には綺麗な正円の次が浮かんでいる。その優しい光に当てられ、ナルヤはその目を覚ました。
起きられるかは心配だったが、上手くいけたようだ。これ以降睡眠を取れるタイミングはないだろう。ここで仮眠を取れたのは大きい。
「そろそろか」
地図によれば、この辺りから森へと入れば、彼らの隠れ家へと辿り着く筈である。
「運転手さんいいですか?」
「どうしたんです?」
「ここで降ろしてください」
「ここで⁉︎」
驚くのも無理はない。夜も遅く、周りには森しかない道の中だ。ここで降りようと思う人間などまずいない。
「ここで大丈夫です。お願いします」
「…………分かりました。代金はしっかり頂きますよ」
「ありがとうございます!」
ナルヤは財布からなけなしの金を取り出し、運転手へと渡す。
今まではミユキが出してくれていると思っていたが、話によれば、国から支給されていたらしい。通りであんなに払えた訳だ。
ナルヤが降りると、すぐ様馬車は去っていった。
ここからはモンスターもいる危険地帯だ。聖剣のない今のナルヤでは、手も足も出ないだろう。
「でも決めたんだ。絶対に彼女を死なせない。その為なら、どんな事でもして見せると」
ナルヤは森へと踏み込んだ。先は全く見えない深い森の中を。
カウントダウン
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