72 欲するもの
「僕の欲するもの……」
そんなの決まっている。十二年前から、この夢をずっと追いかけて来た。そう……ナルヤの最も欲するもの、それは……
『ナールヤ!』
英雄。そう叫ぼうとした時、頭の中に、ミユキの声がこだました。
「違う! 僕が欲しいのは英ゆ……」
『私は、ナルヤがナルヤだから信じてる。それだけだよ』
「違う!」
『ただ、守れなかったものだけじゃなく、守れたものも見て。じゃないと、自分を追い詰めちゃうから』
「違う違う違う違う!」
『そんな君に英雄の資格がないなんて、私が許さない。だから責任を取る為じゃなくて、ナルヤの為に戦ってきて。私達の旅の目標は、ナルヤが英雄になる事なんだから』
「違ぁぁぁぁう!」
否定するも止まらない。彼女との思い出が、次々とフラッシュバックしてくる。
「なんで……僕は……」
彼女に導かれ、励まされ、気付かされ、今この場所にいる。彼女に出会ったから、ナルヤの人生はここまで変わった。
大切なものを沢山貰った。数えきれないぐらいの恩ができた。
還元したいと思った。力になりたいと思った。そして何より、一緒に居たいと思った。
十二年の想いすらも超えてしまう程、世界すら敵に回せる程、大切なものが出来てしまった。
「僕の最も欲するもの……それは…………」
自分が壊れていく感覚。だが、これで良い。この想いこそが、今のナルヤの本心なのだから。
ナルヤは意を決して、その少女の名を呼んだ。
「ミユキ」
◆◆◆◆◆
準備を済ませたナルヤは、部屋を後にした。やるべき事はもう決まった。なら後は、行動に移すだけ。
今のナルヤには聖剣がない。昨日、ルイに奪われたからだ。きっと、こうなる可能性を考慮して回収したのだろう。抜け目がない。
この状態で乗り込んでも、門番一人倒せない。だが、一つだけ当てがある。
『これで、魔王の力がわたしの手に。とうとう、本当の復讐の始まりだぁぁぁはっはっはぁ!』
ザイはあの時、確かに魔王の力と言っていた。そして、ナルヤの魔法を吸収する事で、それに至ろうとしていた。
魔王は勇者の魔族版。ならば、スキルも同じ『勇敢なら者』である可能性がある。つまり、ナルヤでも魔王の力を扱える。
問題はどこにそれがあるかだが、幸いな事に、ナルヤには魔族の知り合いがいる。
その場所に向かう為、馬車乗り場へ向かうナルヤは、思わぬ人物によって阻まれた。
「ギルド長……どうしてここに?」
かつてナルヤが所属していたギルドの長、サイハンがそこにいた。
カウントダウン
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