71 マルクス
ふと窓を見ると、さっきまで青かった空が朱色に変わっているのに気付いた。どうやら、かなりの時間こうしていたようだ。
ユノも大分待たせている筈だ。早く行かなければ……とは思うものの、どうしても動く気になれない。彼女の想いを継ぎ、優勝しなければならないのに、何故か体が動かない。
「答えは出てる筈なのに……どうして……」
コンコン
扉が聞こえる。遅すぎるから、ユノが帰ってきたのだろうか? いや、ユノは部屋に入る前に扉を叩いたりしない。なら今度は誰が……
「どうぞ」
扉が開き、ノックの主が姿を現す。暗めの赤髪が特徴的なA級冒険者、マルクスだ。
「マルクスさん⁉︎」
「久しぶりだな。予選の時以来か」
「どうしてここに」
「国からの呼びつけがあってよ。んで、せっかく王都に来たもんだから、どこぞのマジックロスに挨拶でもと思ったんだが……何かあったか?」
◆◆◆◆◆
「ハッハッハッ! そりゃ傑作だ!」
「笑い事じゃないです!」
「そうか? まあなんで王様に呼ばれたかは分かったわ」
「マルクスさん……」
「まあ、とりあえず俺は王城まで行くわ。お前の事はお前で決めろ」
マルクスは扉の前まで行き、そこでピタッと止まった。そして「そうだ、最後に一つ良い事を教えてやろう」と言って振り返る。
「大会で惨敗した事で、何人か冒険者が追放された。中には最近結婚したばっかの奴もいたな」
「どこが良い事なんですか」
不満げに言う。むしろ悪いニュースである。ナルヤが大会で勝ったせいで、人が不幸になっているのだから。
「どんな道を歩もうが、必ず人に影響を与える。悪い影響もな。だから良い悪いで決める必要はない。大切なのは、お前が最も欲するものは何かだ」
「僕の……欲するもの?」
「ああ、それさえ分かれば、自ずと答えは見えてくる」
それだけ言い残し、マルクスはその場を後にした。
カウントダウン
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