69 無情
「この作戦は、最も世界が弱りきったタイミングで無ければ意味をなさない。作戦の五分前から魔道具を起動し、五十九分に魔法は発射される。もし失敗すれば、二度と魔法は使えない」
魔力がなくなればどうなるか、そんな事は考えなくても分かる。少なく見積もっても数万人、もしかすれば数十万単位で死人が出る。
この世のあらゆる機器が機能を停止し、人類史で未だ見ない程の被害が起きるのは目に見えている。
だが、だからといってミユキが犠牲になっていい筈がない。二つ救う方法があるかもしれない。
「もう遅いよ。この辺りは調べ尽くした。何百回もね。今から彼女を救う方法なんて残されていない」
「ルイ様は本当に頑張られた」
さっきまで隣でじっとしていたカルロスが声を上げた。
「今回のあなた達の旅も、この人の助力あって出来た事ですよ」
ここまで話を聞けば、ナルヤにもなんとなく分かってきた。今までの謎の全てが。
「この事実を知ったルイ様は、ミユキ様に、やり残した事を聞きました。すると彼女は旅をしたいと言ったのです」
「白馬の勇者の様な人と……ですね」
カルロスは「ええ」と頷き、話を続ける。
「しかし、旅は危険が付き纏う。国からの許可はおりませんでした。そこをルイさんが必死に説得を重ね、二ヶ月前、ついに許可が降りたのです」
「そして様々な町を巡って、僕が経験した様な事を繰り返した」
「彼女は、危機に陥った自分を助けてくれる人物を探しておられましたから」
そして、初めて彼女を助けようとしたのがナルヤだったという事だ。つまり初めて彼女と出会った時の出来事は芝居。ミユキに試されていたという事になる。
「勿論、騎士団から数名、彼女の護衛として、影ながらついていました」
「……時々ミユキが居なくなっていたのは、あなた達に会っていたからなんですね」
無言でコクリと頷くカルロス。
「本来なら、この事実は、作戦終了後まで明かしてはならない筈でした。ですが、彼女の最期を知らずに過ごさせるのはあまりにも酷だということで、ルイ様が極秘に会いに来られたのです」
「ありがとう。気持ちは分かるが、そこまでにしてくれ」
ルイに静止され、カルロスは後ろに下がった。
「さっきカルロスが言った通り、今回は極秘で君達の元へ来た。当然、城に君達を入れる事は出来ないし、彼女の最期に立ち会う事は出来ない。だがせめて、ここから彼女の生き様を見届けて欲しい。では失礼するよ」
そう言って部屋を去っていった。しんと静まり返った部屋に、ナルヤとユノだけが残された。
カウントダウン
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