68 真実
今回の話は、「31 サハスラールの伝承」を読んで頂ければより分かりやすいと思います。
「事の発端は三年前。一部の地域で魔力が急速に減少するという現状が起きた。その理由を調べていくと、ある事が判明したんだ」
「ある事?」
「魔力の正体だよ」
「正体……ですか?」
魔力は神によって与えられた産物。その正体とは一体どういう事なのか。
「結論から言えば、神なんて存在しなかった。いや、存在はしているかもしれないが、少なくとも魔力を生み出した存在ではないという方が適切か」
神が魔力を生み出した訳ではない?なら一体……
「誰が魔力を生み出したのか……だろ?」
ナルヤは無言で頷いた。それを見て、ルイは下を指差す。
「この世界さ」
「んん? なんでそんな事してんだ?」
ユノが唸ったような声で返す。ナルヤも全くの同感である。
昔、大きな災害が起きた際に、聖女の祈りによって神から与えられたのが魔力の筈である。それが神ではなく世界だったのであれば、わざわざ災害を起こし、その上で救済を差し伸べた事になる。とんでもないマッチポンプだが、そんな事をする理由がどこにある。
「そもそもの前提が違う。祈りに応えたから魔力が生まれたんじゃない。魔力を生みだす為に災害が起きたんだ」
「魔力を生む為に?」
「ある時世界は、魔力を生み出そうと動いた。その理由は分からないが、多分意味なんてないんだろうね。だが、それには莫大なエネルギーが必要だった。自然の摂理を無視した超常現象を起こそうっていうんだ。それ相応のエネルギーが必要だろう?」
「つまり災害は……」
「そのエネルギーを引き出した時の余波だ。その後彼女が祈りを捧げた事で、それに神が応えたのだと勝手に勘違いした」
「それが、魔力誕生の真相ですか……」
ルイはコクリと頷いた。だが、これはもう過ぎた出来事である。それが分かったからと言って、何になると言うのだろうか?
「そしてここからが重要だ。簡潔に言うと、もうすぐ魔力は消滅する」
「消滅⁉︎ どうして⁉︎」
「いくら世界とはいえ、命には違いない。必ず衰える。その前兆を知っているんじゃないかな?」
前兆。魔力が無くなるなんて異常事態を連想させるような事は起きていないような……いや、一つあった。
「ホワイトパニッシュ」
「そう。あれは世界による魔力の消滅が、限定的に起こっているだけなんだ」
つまりこの世界には、魔力を維持するだけの力は残ってない。
「まだ滅びの時ではないようだよ。魔力なんて超常的な力を生み出す事が出来なくなるだけで、この世界はまだ何億年かは持つみたいだ。だが、人類はそれだけでも大きな打撃を受ける」
この千年間、人間は魔力と共に成長してきた。様々な魔法が研究され、数多くの魔道具が生み出された。魔力が消えるとなれば、それらが全て使用出来なくなる。人類の文明レベルは一気に落ちるだろう。
「しかし、そんな人類を救えるただ一つの方法があった」
「それは?」
「この世界を回復させる事」
「そんな事……」
「普通は不可能だ。ただ、それを唯一可能に出来る人物が発見された」
世界すらも回復させる事が出来る存在。そんな人物が本当に?
にわかには信じられない。
「聖女だよ」
聖女は千年前、神に祈りを捧げ、『聖なる者:聖魔法』を授かった伝説の存在。確かに彼女の魔法なら可能かもしれないが、千年も前の話だ。となると、可能性として上がるのはただ一つ……
「人は十五になると一つのスキルを授かる。ニ年前、『聖なる者:聖魔法』を授かった人物が現れた。君達がよく知る人物だ」
「よく知る……人物……」
「まさか!」
よく知る人物……ナルヤとユノ、二人共が知っている人物は限られている。更にその中で、あらゆる事が今まで不明だった人間が一人いる。
「「ミユキ」」
「正解」
思えば彼女が魔法を使っている所を見た事がない。スキルについても教えてもらった事がなかった。
「教会から知らせを受けた国はすぐ様彼女を保護。協力を申し出た」
これで今までの話は繋がった。だが、ナルヤには一つ疑問が残っている。
「それで、その後ミユキはどうなるんですか?」
「どういう事だ? ナルヤ」
話通りであれば、ミユキが仕事をすればまた旅が出来る。しかし、去り際の彼女はそんな様子ではなかった。
その問いを聞き、ルイは再び語り始める。
「いかに聖女と言えど、所詮は世界からの恩恵を受けている人物だ。ただ魔法を使った所で、世界を回復させるなんて不可能、やるだけ無駄だ」
「ならどうすれば」
「俺達人類は千年、魔法と共に発展してきた。魔法を扱う事に関してはエリートだ。その叡智を結集し、魔力を増幅し、世界の中心へと届かせる為の魔道具を開発したんだよ」
「それだけなら、ミユキが……」
「この魔道具を使うには、ミユキにコアになってもらう必要がある。そして、彼女の魔力、生命エネルギーの全てを使う事で初めて使用する事が出来るんだ」
「って事はおい!」
「ミユキは……」
「死に至る」
ミユキがこの町に来てから様子がおかしかった理由、それは、この旅がもうすぐ終わると知っていたから。彼女は……全て知って……
「なんでだよ!」
気づけばナルヤはルイの胸ぐらを掴み、今までに出した事もない声を上げていた。理性が止めようとするも、溢れ出した感情は止まらない。
「まだあるかも知れないじゃないか! ミユキも、世界も、全てを救う方法が! なんで諦めるんだよ! 僕は……「探したさ!」」
今まで淡々と話をしていたルイが、初めて感情を込めて言葉を発した。
「ミユキも世界も両方救う方法、問題が見つかってから三年間、世界中を飛び回ってそれを探した! でも無かったんだよ……そんな都合の良い話は存在しなかったんだ!」
まるで我慢していたものを解放する様に、ナルヤを捲し立てる。
「君が抱いた感情と同じ感情を、俺は二年前に味わった! 君達が旅をしている間もずっと探していたんだ。だがもうタイムリミットだ」
忘れていた。ルイはナルヤが憧れた英雄である。彼がミユキの犠牲を良しとしない事は分かっていた筈である。
「……タイムリミットっていつなんですか?」
「明日の二十四時ちょうど。それまでに撃たなければ、世界を回復させる事は出来ない」
カウントダウン
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