66 告白
控え室に戻ると、ユノがベンチに座っているのが見えた。ミユキも、監視員もいない。
「やったなナルヤ。ミユキなら、結縁の丘へ行ったぜ」
「そうか……」
「あまりお姫様を待たせてやるなよ。あたしは宿で結果報告を待ってるからよ」
ユノは背中をパンと叩いて控え室を出ていった。完全に成功する気でいるようだ。
ナルヤは宿に戻って変えの服装を持った後、銭湯に行って体を清める。汗だくのままで告白する訳にはいかない。
◆◆◆◆◆
全ての準備を終え、ナルヤは結縁の丘に到着した。太陽は沈みかかっており、空は茜色に染まっている。
丘の上には、一人の少女が立っている。艶めく茶色の髪をたなびかせ、じっと空を見上げていた。
「ミユキ!」
彼女の名前を呼んだナルヤは一気に丘を駆け上がった。
「ナルヤ、伝えたい事ってなに?」
「ミユキ……僕は……」
そこまで来た所で言葉が止まる。言いたいのに言えない。だが、言わなければ。
彼女に散々助けられてきた。彼女に沢山の事を教えてもらった。その感謝を、それによって芽生えた想いを、今伝えなければ。
「僕は…………君が好きだ。仲間としてだけじゃない、一人の異性として、君を愛している。だからミユキ、僕と……付き合ってくれませんか」
生まれて初めての告白。恥ずかしさに震えそうになりながらも、彼女の瞳から目を逸らさなかった。
沈黙が流れる。答えを迷っているのか、それとも言えずにいるのか、その真偽は分からないが、今は待つことしか出来ない。
それから暫くして、ようやく彼女の口が開いた。
「私もナルヤから沢山の物を貰ったよ。私がピンチの時には何度も助けてくれたし、誰かを守ろうと頑張る姿に、何度も勇気を貰った。私子供だからさ、恋心ってどんなものなのか分からないけど、多分これは、恋心なのかなって思うんだ。
……でもごめんなさい。私はあなたと、付き合う事は出来ません」
「えっどうして⁉︎」
「それはわたしから説明しよう」
木の影から出てきたのは、甲冑を身につけた一人の男。見覚えがある。さっき控え室にいた監視員だ。
「わたしは王国騎士団副団長サーマル。残念だが彼女は、国の方で預からせて貰う」
「国の方で? 何か彼女が法律違反をしたんですか⁉︎」
「それに答える事は出来ない」
突然連れて行く上に理由も明かせない? そんな事があるのか?
「ミユキ、答えてくれ! これは一体どういう……」
「…………」
ナルヤが問うも、ミユキは顔を伏せたまま答えない。
「理由も分からないのに、連れて行かせる訳にはいきません」
ナルヤが剣を構える。だが……
「シャイニングスラッシュ」
突如来た光の斬撃に吹き飛ばされ、ナルヤは丘を転げ落ちた。
「そんな……」
ナルヤは顔を上げながら溢す。それもその筈。光魔法を使える人間はナルヤを含め二人。なら今攻撃したのは、一人以外考えられない。
丘の上から、勇者ルイが姿を現した。さっきまでの笑顔はどこにもない。ただ無表情に、ナルヤを見下ろしている。
「ルイさん! どうして!」
「すまないナルヤ君。少しの間、その聖剣を返して貰うよ」
ルイが丘を降り、ナルヤから聖剣を奪い取る。体から力が抜けていく感覚がした。
「ルイ……さん……」
「二回戦までには聖剣を返す。なんなら俺の聖剣も付けるよ。俺の代わりに、この国を守ってくれ」
首に強い衝撃を受け、ナルヤの意識はそこで途絶えた。
カウントダウン
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