58 影薄き勇者
「あんな奴に任せて大丈夫なのかよ……」
家の中で身を隠していたユウはふと呟いた。ユノは安心として、ナルヤの方は不安でならない。あんな弱そうな人間がワーウルフを対処出来る筈がないのだ。
「まだナルヤが嫌いなんだね」
「別に……」
そうだと答えたかったが、自分のプライドが許さなかった。
分かっているのだ。彼の優勝という結果が出た以上、少なくとも姉にも引けを取らない実力があるだろうと。
だが、ユウにとってユノは憧れ。そんな姉を越える人間がいるという事を認めたくない。
「ちょっとナルヤの戦いを見に行こうか」
「危険だ! もしこっちに来たら……」
「大丈夫だよ。私を信じて」
「…………」
◆◆◆◆◆
柵の外では、次々と襲い来るワーウルフの群れを、倒し続けるナルヤの姿があった。話通り、びっくりするぐらい強い。
「なんであんなのがこれだけ強いんだよ。おかしいだろ……」
「うーん、一番の理由はスキルだろうね」
ミユキはナルヤへと視線を向けたまま、話を続けた。
「ナルヤのスキルはすっごく凄いんだ。私もびっくりするくらい」
「スキルなら姉ちゃんだって……」
「そう。強いスキルなら持ってる人は持ってる。もしナルヤが他の人と違うとしたら、それは守りたいって想いなんじゃないかな」
「想い?」
「うん。ナルヤは昔モンスターに村を襲たんだ。だからもうあんな目には誰にも遭わせないって想いでいつも戦ってる。見て、ナルヤの顔」
言われてナルヤを見やる。一切笑う事なく、ただ淡々と魔法を放っていく。そこにさっきまでのヘラヘラとした甘さはない。何者も通さないという気迫に満ちた表情だ。
人はあんなにも変わる事が出来るのか。いや、出来るからこそ強いのだろう。その考えに至った時、彼の口から自然と言葉が漏れた。
「スゲェ……」
「どう? カッコイイでしょ」
顔をユウへと向け、そうミユキは微笑みかけた。まるで恋人を自慢する彼女のようだ。
「シャイニングブレイク!」
叫び声が響き、遠くに光の柱が現れる。決着が着いたようだ。
◆◆◆◆◆
「まあ、少しぐらいは認めてやっても良いぜ」
「は、はあ……」
村を出る直前、突如そう言われたナルヤは困惑した。昨日まで散々言っていた筈なのだが、何か心変わりする事でもあったのだろうか。
「それじゃあ母さん、ユウ、賞金持って帰ってくるから、楽しみにしといてくれよ!」
「それ僕にもプレッシャーかかるんだけど」
「大丈夫だよ。ナルヤなら」
三人は馬車に乗り込み、窓から手を振る。それに応える様にユズルとユウも振り返した。
カウントダウン
7day
 




