56 そうですユウです子供です
それから幾つかの町を周り、とうとうハール村に辿り着いた。
「ここがハール村か、良い村だね」
「だろ? あたしの自慢の故郷だ」
胸を張るユノを尻目に村の様子を見る。小さい子供達が和気あいあいと田畑を駆け回っている様は、小さい頃の村での生活を思い出す。
炎龍による襲撃がなければ、今もあの村ではこんな姿が見られたのだろうか。
同じく辺りを見ていたユノが驚いた様に声を上げる。
「ユウ⁉︎ ユウじゃねぇか!」
そう言って遊んでいた子供達へ駆け寄る。ユウはユノの弟だ。重病という話だったが、体を動かす分には支障がないのだろうか。
「姉ちゃん……? 姉ちゃんだ!」
「ユーウ!」
「お姉ちゃーん!」
ギシッと抱きしめ合う二人。その光景から、いかに二人の仲が良いかが見て取れる。
「感動の再会だね」
「ああ……」
「そういえば重病って聞いてたけど、走り回って大丈夫なのかな?」
「あ? それなら大丈夫だぜ」
さっきまで抱きついていたユノが、弟を連れてやって来た。
「コイツがユウ。あたしの弟だ」
「あんたらが姉ちゃんの仲間?」
「そうだよー。私はミユキ、横にいるのはナルヤ、よろしくね」
「よろしくな」
ユウが右手を上げて答えた。重病という事で、もう少し大人しいイメージだったが、結構生意気である。
「それで、なんでユウ君は自由に走り回れてるの?」
「おう、そうだったな。ユウの病気は呪い型で、今は症状があまり出てねぇんだ。年を重ねる毎に重くなって、四年もすれば死ぬらしい」
「……そうなのか」
ユウの年齢は十歳らしいので、四年だと十四歳。スキルすら受け取る事なく死んでしまうというのか。
ナルヤもミユキも顔が俯き、空気がどんと重くなる。そんな中、当のユウだけはニコニコとしていた。
「でも、姉ちゃんが優勝して僕の病気を治してくれるんだよー。そう約束してくれたもん」
「ユウ、それなんだが……お姉ちゃん負けちゃった」
「え…………?」
ユウの目がハイライトが消えた様に輝きが消えた。
「でもな、仲間が優勝したら賞金を分けてくれるって言ってくれてんだ。だからお前の病気が……」
「違うもん! 僕は姉ちゃんに勇者になって欲しいんだもん!」
言ってぷくーと頬を膨らませるユウ。ユノは困惑して、何も返さずにいる。
「ミユキお姉ちゃんが姉ちゃんを倒したの?」
「違うよ。優勝したのはナルヤ、横にいるお兄ちゃんだね」
「ネルヤ……ってこれ⁉︎」
ナルヤを指差し、驚いた様に聞き返すユウ。しかも名前を少しまちがえている。
「おう。姉ちゃんのライバルだ」
「ノルヤ……コイツが……」
ぶつぶつと呟きながらまじまじと観察するユウ。それから少しした後、ユノへ振り向く。
「弱そう」
「弱そう⁉︎」
突如出た言葉に、思わずオーバーリアクションで返してしまう。確かにガタイも良くなければ、勇者の様に派手な格好をしている訳でもないが、流石にそれは言い過ぎでは……
「まあ地味だしな」
「ちょっユノ!」
「確かにパッとしないよね」
「ミユキまで⁉︎」
見事にコンプレックスを突かれ、心にダメージを負うナルヤ。全て事実なので言い返せないのが本当に辛い。
「ごめんね。でも嘘はつけなくて」
「大丈夫。大丈夫だからお母さんの所に行こう。きっと心配してるだろうし」
これ以上この話を続ければナルヤの心が持たない。ナルヤの提案を受けた一同は、母に会う為ユノ達の家へと向かった。
カウントダウン
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