52 魔族の住む村
「着いたよー。ここがルナーの村だね」
ミユキの声で目を覚ましたナルヤは、窓の外へ目をやった。確かにそこには、眠りにつく前の森ではなく、木造の建物がポツポツと並んでいる。
「ユノ、ここには何があるの?」
「何もねぇな」
「ないんだ……」
今までがかなりデカイ町だったが故に、無性に物足りなさを感じてしまう。慣れとは怖いものである。
「まあまあ、観光名所だけが旅じゃないよ。どんな所でも、素敵なものが沢山あるんだから」
「……そうだね。僕が間違ってた」
稀にミユキは卓越した見方をする。言っている事としては当たり前かもしれないが、素直にそう思えるのは、彼女の人格故だろう。
「あー、それでなんだが、今日だけ別行動でいいか?」
「? いいけど、何か用事?」
ユノの提案に、ミユキが聞き返す。
「まあな。弟に土産を買って帰りてぇんだ」
「なら私達も一緒に「それは無しだ!」なんで⁉︎」
珍しくミユキが会話の主導権を握られている。だが、ナルヤも分からない。何故彼女は別行動をしようとしたのだろうか。
「って訳だ。二人はその間、この村名物の心霊スポットでも行って暇を潰してこい」
そう言ってユノは去っていった。
「どうする? ユノはああ言ってたけど」
「……心霊スポット行きたいかも。少し怖いけど」
◆◆◆◆◆
ナルヤとミユキは、村から少し離れた心霊スポット、嘆きの洞窟へと足を踏み入れる。
話によれば、この洞窟では嘆き声のような音が聞こえるらしい。それが幽霊の声なのではという事でこの名前がついたらしい。
「って感じでかなりこじつけ感がするから、そんなにくっつかなくても良いと思うよミユキ」
「でも……本当にお化けだったら……」
ミユキはナルヤに抱きついたまま離れない。そんなに怖いならここに来なければ良いと思うが、そうはしないのが謎である。
「引きかえすなら今だよ?」
「いや……行く。だから私から離れないで……」
「分かったよ」
ミユキに掴まれながら、ナルヤは奥へと進んだが、特に変化はない。今の所はただの洞窟。
「やっぱりただの噂みたいだね。嘆き声なんて……」
『が……え……せ……』
何か聞こえた気がし、ミユキに目をやる。しかし、彼女は目を瞑ったままナルヤへとしがみついているだけである。
「ミユキ、念の為聞くけど、今何か喋ったりした?」
「……えっ私何も……」
『が……え……せ……』
「ヒッ!」
彼女も気付き、聞いた事もない声を上げる。
「ミユキ、少し目を瞑ってて」
「うっうん」
目を閉じたのを確認すると、ナルヤは剣を抜く。それを地面に刺し、魔法の名を叫ぶ。
「シャイニングフラッシュ」
剣から強い光が溢れ、その場を照らす。ガタッという音が聞こえた。
「そこか!」
ミユキを抱えながら音のした方へと向かう。シャイニングフラッシュが通じたという事は幽霊ではないだろう。そうなると声の正体は一体……
そこには体が赤紫に染まり、漆黒の羽を生やした二体の少年少女。魔族がそこに居た。
カウントダウン
14day




