49 さよならユノ
「すまねぇが、あたしはここで降りる」
宿に戻ってすぐの事である。突然ロビーに集合させられたナルヤとミユキに、ユノはそう告げた。
「……どうしてか教えてほしいなー」
そう言ったミユキの声は、台詞を読むかの様に平坦だった。きっと、こうなる事は分かっていたからだろう。
「あたしは弟の治療費を稼ぐ為に大会に出た。負けちまった以上、新しい稼ぎ先を見つけねぇといけねぇ。だからもう、旅は……」
最後の一言が言えず、ユノは押し黙った。いつもは勝ち気な顔をしている彼女だが、今は見る影もない。ミユキもまた、いつになく暗い表情で床を見つめていた。
「提案があるんだけどいいかな?」
そんな様子を見て、ナルヤは声を上げた。
彼女が負ければ、旅をする理由はなくなる。そんな事は分かっていた。そして、それを回避する為の方法も思い浮かんでいる。
「ユノ、君には僕のコーチになって欲しい」
「「コーチ?」」
二人の声が重なった。今まで、ナルヤとミユキや、ナルヤとユノでならこういう事もあったが、このペアは初である。
ナルヤは「ああ」と首肯し話を続けた。
「今のままじゃルイさんには勝てない。あの人に勝つ為にも、もっともっと腕を上げないといけないんだ。だから、ユノにはその特訓を付き合って欲しいんだ」
「でも、あたしには弟が……」
そう、これだけでは意味がない。彼女と旅を続けるには、彼女にとって儲け話である必要がある。つまり……
「五十枚だ。もし僕が優勝したら、優勝賞品である金貨五十枚を全て君に託す。これでどう? 良い取引じゃないかな?」
「お前……」
元々これを目当てに参加してきたのだ。なら同じ額支払えば断る理由はない。状況は今までと同じである。
「ありがとう……恩に着る」
ユノは涙を浮かべながら、目を閉じ頭を下げた。
「一応、成功報酬だからね。流石に金貨五十枚も手持ちがないから」
「おう!」
「ねえねえ、なら今日は祝勝会しようよ。私憧れだったんだ。仲間と祝勝会するの」
「ミユキは相変わらずだね」
「でもまあ、今日はめでたい日だからな。パーっと打ち上げようぜ」
「そうそう。楽しめる時に楽しんどかないと、人生損するよ」
そう言ってウインクするミユキを見て、何故だかドキリとしてしまう。前まではこんな事はなかった筈なのだが……
「それじゃあ、準備は私とユノちゃんでやるから、ナルヤは買い出しお願いね。超凄い飾り付けにするから期待してて」
「えっあっうん」
ナルヤはどんどんと強くなる胸の高鳴りに疑問を覚えながら、買い出しへと出かけるのだった。
カウントダウン
17day
 




