42 最後の抵抗
「まだだぁ!」
何度も返り討ちにあったユノは、尚も突撃を繰り返していた。彼女もただ闇雲に攻撃していた訳ではない。
度重なる突撃の中で、相手に出来るだけ手の内を見せさせ、その能力を暴こうとしていたのだ。そして、ようやく納得のいく結論が出た。
彼女は、機械の龍から発せられる岩の雨を避けながら男に問いかけた。
「ようやく読めたぜ。その機械の龍が、飲み込んだ能力を好きなタイミングで使う事が出来んだろ?」
どんな魔法を使えるかさえ分かれば、攻撃の予測はまだ容易になる。岩の雨を避け切り、今度こそ龍の背後に移動する。
魔法を放ってすぐの状態では、続けて魔法は使えない。それも今までの戦いでわかっている。今なら攻撃を当てる事が出来る。
「業炎け……うっ……」
だが、いざ斬りかかろうという所で、腹に強い痛みを感じ、後ろに下がった。今までのダメージが、戦闘に支障をきたし始めたようだ。
だが、この程度で根を上げる訳にはいかない。今も弟は病と戦っているのだ。その苦しみに比べれば、こんなもの、大した痛みではない。
ユノは再び突撃する。それに反応して、相手も魔法の準備を始めた。
「アイスニードル」
氷魔法。三回戦の相手が使っていた魔法だ。だが、この程度であれば簡単に……
「んくっ……」
横飛びで回避する筈だったが、一瞬痛みに気を取られ、反応が少し遅れた。完全には避け切れず、左足に氷の棘が直撃した。
それによってバランスを崩したユノは、着地に失敗しそのまま倒れ込んだ。
「まだまだぁ!」
すぐに起き上がり、攻撃を再開する。今度こそ背中を捉え、その剣に炎を纏わせた。しかし……
「雷電」
後一歩という所で、相手の魔法が間に合い、ユノに雷が直撃した。「あがっ」という断末魔が上がり、静かに地面に倒れ落ちる。
「十、九、八、七」
審判がカウントを始めた。地面に倒れてから、十秒以内に起き上がらなければ、戦闘不能と見なされ敗北する。
「六、五、四」
「まだ……だ……」
「三、二……続行」
剣を立て、それを支えに立ち上がる。満身創痍とはこの事だろう。このボロボロの体では、一発魔法を撃つのがやっとだ。
「なら……この一撃で……決めるだけだぁ!」
ユノは飛び上がり、剣を上に構える。この状況、唯一の勝ち筋は一つだけだ。最大火力で持って、相手の吸収力を上回る。
これは賭けでしかない。普通なら、躱されて終わる話だ。だが、あの男は機械龍に全幅の信頼を置いている。ならば、この攻撃を受ける可能性も十分に存在する。
弟を元気にする。その想いを込めて、ユノは全身全霊の魔法を放つ。
「空炎剣! 一点集中バァァジョォン!」
ユノの放った斬撃が、鋭い槍となり男へと向かう。空炎剣一点集中バージョン、本来広範囲に攻撃する空炎剣のエネルギーを一箇所に集中させ、相手を貫く彼女の奥の手。
それを龍が喰らいにかかり、炎と龍が激突する。流石の龍も吸収に手間取っているのか、いつもならバクバクと食らっていた魔法を噛み砕けずにいた。
後は炎が吸収されるか、それとも龍を破壊するか。単純な性能勝負である。
声を上げる余力は残っていない。後は貫くのを願うのみ。ユノは落下しながら、その行く末を見届ける。
炎の槍はギュイイン音を立てた後…………
すっぽりと吸収された。
着地と共に地面にへたり込むユノ。それを見た男が魔法を放つ準備をした。龍の口が光りだし、炎の槍を形成する。
「空炎剣一点集中バージョン」
龍の口から、凝縮された炎の塊が飛んでくる。
「……ユ……ウ…………」
弟の名を溢たユノは、盛大な爆発を起こし、場外へ放り出された。纏っていた膜がパチっと弾け飛ぶ。
自分は負けた。そう自覚すると共に、彼女の意識は深淵の底へと落ちていった……
カウントダウン
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