3 覚醒
「そこで何をしているんですか?」
ナルヤは男に静かに語りかける。ここで早とちりして攻撃してしまったが実は親子でした。なんてこともあり得るからだ。
「何って? みりゃ分かるだろ。そこに中々良い女がいるんでな、ちょっとこう、な?」
男はそう言いうと、襲う仕草を行う。
これで彼の行動が悪意による物だということが分かった。ならばやるべきことは一つ、この男から彼女を守ることだ。
ナルヤは早速男の前に立ち塞がろうとする……が、足が動かない。否、正確に言うならば、足が震えて動かせない。
思えばナルヤは格上と対峙したことがない。冒険者をしていた時も、命がかかっている以上達成出来ないような依頼は受けてこなかったし、他の冒険者からも嫌味を言われるだけで直接攻撃されることはなかった。
男はナルヤよりも遥かに鍛えられた肉体をしており、更に魔法も使えるのだろう。彼と対峙すれば、自分はどんな目に遭うのだろうか。そう考えると震えが止まらないのだ。
動けと思う自分と、動きたくないと思う自分がいる。情けなさと恐怖で心が押し潰されそうになる。
「はっ怖気付いたか。安心しろ、そのままじっとしてたらお前は見逃してやるよ。……だからさっさと失せろ」
男は脅すような眼光を向けそう言いうと、少女に押し迫る。
その迫力に、思わず後退りをするナルヤ。どうしようもない無力感がナルヤを襲う。
「助……けて……お願い」
懇願する様にナルヤを見る少女。その目にはうっすらと涙が浮かべられている。
(助けに行きたい。今すぐ彼女の元へ駆け寄って大丈夫だと言いたい。でもあそこに行けば何をされるか分からない。死んでしまう可能性だってある。でも、ここで動かなければ彼女は──。でも……でも!)
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ナルヤは一歩踏み出した。そしてすぐさま次の一歩踏み出す。止まってしまえばまた動けなくなる。心が再び恐怖を感じる前に、早く彼女の元へ行かなければ!
迫り寄る男に割って入り、彼女への道を塞ぐ。
「ちっ、さっさと消えれば良かったのによ!」
「う、う、ううるさい! ここを通りたければ、ぼ、僕を倒してからにしろ!」
生まれたてのシカのように足が震えて止まらない。心臓は今にも張り裂けそうな程脈打っている。
だが、ここで投げてしまえば、彼女は酷い目に遭ってしまう。守らなければいけない。あの時勇者に守って貰ったみたいに。今度は自分が!
「絶対にここは通さない。僕が彼女を守んだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ドクン!
叫び声を上げると同時、ナルヤの胸から鼓動が聞こえた。鼓動自体はさっきから嫌と言うほど聞いているが、今までのそれとは違う。
強いて言うなら、何かに共鳴している。それも、すぐ近くの物に。
ナルヤは後ろへ振り返る。そこには少女──の手に縦長の袋があった。
これだ! 何故だか分からないが、これが自分と共鳴している。そう確信出来た。
「それを貸してくれ」
「えっうん」
ナルヤは袋を受け取ると、その中に入っていた物を取り出した。
それは剣だった。柄が黄色い模様に彩られている傷一つない両手剣。初めて見るはずなのだが、直感的に使い方が分かる。不思議な感覚だ。
「へっ、そんな大層なもん出した所で俺様にはかないっこねぇよ!」
拳を大きく振り上げ、迫り来る大男。不思議な事に、恐怖心を一切感じない。その上、彼の行動がどこかゆっくりに見える。ナルヤは男の胸に手を当てる。
「シャイニングスマッシュ」
ナルヤが言葉を発した途端、男は少し後ろへと下げられた。
これで間合いが出来た
ナルヤが剣を構えると、剣心に眩く光のような物が集められた。
「シャイニングブレイク」
ナルヤは言葉と共にその場を一閃。剣に封じられていた光が衝撃波となって男に放たれる。
「なっ! ぐぅあっ」
衝撃波をモロに受けた。男は後方に吹き飛び、意識を失いその場に倒れた。
一瞬殺してしまうかもしれないと思ったが、どれくらいの力なら最小限で無力化出来るのか、なんとなく分かった。……気がする。
念のため男に近づき様子を確認してみたが、ただ気絶しているだけのようだ。
ほっと胸を下ろすナルヤ。
今更ながら、信じられない光景に唖然とする。スキルがないナルヤが、魔法? を使い大男を倒したのだ。何かの夢だろうか?
考えても何も分からないので、とりあえずこの場は丸く収まったので良し、とする事にした。でないと頭がパンクしてしまう。
カウントダウン
29day