37 A級vsE級
観客席からブーイングが起こる。当然だ。不正の筈の魔道具が紛れ込んだだけでなく、それが判明したにもかかわらず、試合が続行されたのだから。
「どうなってんだ運営!」「あの不敬者を排除しろ!」「これ向こうもグルなんじゃねぇのか⁉︎」
様々な場所からヤジが飛び交い、会場にはゴミやら何やらが投げ込まれていく。
『えー、ただいま魔道具持ち込みの疑いがあった。イテルギ選手ですが、コアが見つからなかったため、魔道具とは認められない事となりました』
アナウンスを聞き、会場中が騒めきだす。
魔道具には、コアと言われる魔力を注ぐ部分が必要となる。魔道具協会の規定でも、コアがある物を魔道具と扱うとされている。
つまり、あの一見魔道具としか考えられないあの物体は、分類上は武器扱いとなる。
「でもそんな事が可能なのか……」
「分からねぇ。だが、アレを正々堂々倒すしかねぇのは確かだ」
ユノは拳を強く握った。勝ち進めば、ナルヤは決勝、ユノは準決勝でアレに当たる事になる。彼女の方がプレッシャーは強い筈だ。
そうこうしている内に、Cグループの試合も終了した。次はDグループ、ナルヤの番である。
「次はナルヤのグループだよね?」
「ああ、行ってくるよ」
気になる事もあるが、今は目先の勝利の方が大事だ。相手はSSランクの草魔法を扱い、A級冒険者としてその名を轟かせるマルクスだ。一瞬たりとも侮れる相手ではない。
ナルヤは膜用の魔道具を受け取り舞台へ上がる。それに少し遅れてマルクスも現れた。
「俺は言ったよな? 分を弁えろって」
ギルドをクビにされた時、彼に言われた言葉だ。ナルヤは首肯する。
「はい。でも、諦めたくないんです。例え僕に不相応だとしても!」
「…………そうか」
マルクスは顔を伏せ、暫しの静寂が訪れる。それからそれから数瞬、開始を知らせる音が鳴り響いた。
「なら!」
マルクスは顔を上げ、大剣を振り上げ……
「その夢! 終わらせてやるよ!」
そしてそれを勢いよく地面に叩きつけた。
「ダブルクレーン!」
割れた地面から、二本のつるが出現し、ナルヤへと襲いかかる。
「シャイニングプロテクション」
「何⁉︎ 魔法だと⁉︎」
ナルヤが光の結界を張り、迫り来るつるから身を守る。それを見たマルクスが同様しているのが見えたが、今はそれを気にしている場合ではない。
一時的には凌いだものの、破られるのは時間の問題だ。
結界が破られれば、間髪なく行われるつるの攻撃を躱し続けなければいけなくなり、一気に形勢が不利になる。
このダブルクレーンという魔法は、それが厄介なのだ。
「おらおらどうした! 魔法が使えるって言ってもその程度か!」
「今だ!」
二つのつるが限りなく結界から離れたタイミングを狙い、ナルヤは魔法を解除する。
あくまでも人間が操る都合上、必ずどこかでタイミングがズレる場面が発生する。そこを狙っていたのだ。
攻撃を中止しようと考えた時にはもう遅い。ナルヤは、既に発射された二つのつるを躱し、マルクスへの反撃に出た。
マルクスは地面に打ち付けていた剣を上げ、ナルヤの攻撃をガードする。剣を擦り合わせた二人はせめぎ合いを始める。
「リーフブレイク!」
「シャイニングブレイク!」
「「うぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
それぞれの剣先から光と草が溢れ、しのぎを削る。
だが、パワー勝負であれば有利なのはスキルの強い方である。次第にマルクスは押され、大量にあった葉っぱは光に飲み込まれていった。
「まだだぁ!」
マルクスは両手で剣を抑え、押し切られるのを必死に防ぐ。が、彼は試合開始から一歩もその場を動いていない。つまり、舞台の端に位置したままだった。
「うぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁ!」
「がぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
彼はなんとか踏ん張って勢いを殺すも、微かに後方へとズレてしまい、とうとう足場を失い、勢いよく舞台外へと押し出された。
カウントダウン
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