31 サハスラールの伝承
設定解説回です。退屈かと思われますが、温かい目で見てください
「さて、前にわたしが魔王の使っていた魔法について調べている事は伝えたね」
「はい。確か再び魔王が出現した時の為に備えているんですよね」
「ああ、光魔法の使い手が一世代に一人現れるように、闇魔法の使い手が今後また現れてもおかしくはない。まあ、杞憂かもしれないがね」
ザイは魔道具のボタンを弄りながら話を続ける。
「まずは魔力の起源から話そうか。一千年程、当時魔力が存在していなかったこの世界に、大きな災害が起こった」
「確かその時、疲弊しきった人々を見た一人の少女が、神フレシンに祈り、人々とモンスターにスキルが与えられたんですよね」
この国で生きている者ならば、誰でも知っている逸話である。この時に神が魔力を発生させ、一般的に成人とされる年齢の全ての生物にスキルを与えた。
「その時祈った少女には『聖なる者:聖魔法』が与えられた。このスキルは現代的観点で見ても規格外だ。能力としては治癒魔法と同じだが、性能は桁違いと言う他ない。瀕死の人間を瞬時に回復させるのは勿論、失った腕が生えてきたなんて話もある」
高ランクの治癒魔法でも、大きな怪我を負った者を時間をかけてゆっくり癒やす程度しか出来ない。いや、それもかなり凄いのだが、その少女の行った所業に比べると見劣りするのは確かだ。
「彼女はその能力を使い多くの人間を癒し、いつしか聖女と言われるようになった。まあ、わたしの研究はここからだね」
「はい」
「その時、神が人間に授けたのが二本の聖剣。光魔法の使い手しか扱う事の出来ない聖なる剣だ」
聖剣──勇者ルイが持っているのが一本目、そしてミユキから預かった物が二本目だ。どうやらこの時に生まれた物らしい。
「そして魔族に与えられた二本の剣が魔剣。闇魔法の使い手しか扱えないと推測される聖剣の対となる剣だ」
「何故魔族と人間だけ?」
「研究者達の間では、知能が高いというのが条件ではないかと言われているね。まあ魔族のサンプルがいないので確認のしようもないが」
三百年前の大戦で敗れた魔族は、そのほとんどが殺された。僅かながら生き残りがいるとかいないとか言われているが、その真偽は定かではない。
「まあ簡単に言えば、魔王とは、魔族版勇者って事らしい。ただでさえ人間の数倍の身体能力を誇るとされている魔族の勇者版なのだから、とんでもない強さだったとの事さ。魔王を倒した勇者グランドも、国の支援、仲間達の協力、時の運、全てが重なってようやく勝てたらしい。正直、今復活しても、引くほど強いだろうね」
勇者グランドと魔王との戦いは何度も読んだが、そこまでシビアな戦いだったとは。ナルヤは聞くのに夢中で、相槌を打つことすら忘れていた。
「そんな魔王が万が一復活した時の為に、少しでも闇魔法の能力を解明する。それが、わたしのしてきた研究さ。どうだい、良い暇つぶしになったかな?」
「貴重なお話をありがとうございます。何というか……昔色々な冒険譚を読んでいた時を思い出しました」
「喜んでくれたなら何よりだ。では、この剣を返すよ」
話を聞いている内に、解析が終わったようだ。思ったより早かった。
ナルヤはザイさんから剣を受け取り、袋に入れた。
「お陰で良い魔道具が出来そうだ。感謝するよ、ナルヤ君」
「いえ、お役に立てて良かったです」
「ではこれから部屋に籠って開発に取り掛かろう。まあなんだ……出来れば帰ってくれると助かる」
ナルヤは何かがパンパンに押し込まれているであろうクローゼットに目を向けた。ここから先は、見てはいけない場所な気がする。
「はい、帰らせて頂きます。お邪魔しましたー」
そう言って、即座に帰路へついた。
カウントダウン
18day




