29 ザイの研究
「ナルヤ、今日は特訓お休みなんだよね?」
一人部屋で一夜を過ごした三人は、ミユキの部屋に集まり予定を立てている。
「ああ、今日は軽めの運動だけして、筋肉に負担をかけ過ぎないようにするよ」
「ユノは?」
「あたしもだ。明日筋肉痛になんてなったら洒落にならねぇしな」
「なら、今日は個別で観光にしようよ。たまには町をぶらぶらするのも良いでしょ?」
ミユキなら、「みんなで観光しよう」と言い出すかと思ったが、今回はそうでもないようである。ナルヤはややミユキらしくない提案に疑問を抱きつつも首肯した。
◆◆◆◆◆
観光……と言っても特に当てもなく、ぶらぶらと町を歩く。昨日部屋の中でも思った事だが、ほんの一週間程前まで当たり前だった筈なのに、あの空気に慣れたせいか寂しく感じる。
旅が終わったら、この生活に戻るのだろうか。そう考えると、ぎゅっと心が熱くなる感覚がした。
「んっ? そこに見えるのはナルヤ君じゃないか」
感傷に浸っていたナルヤだったが、聞き覚えのある声が聞こえ、後ろに振り返る。そこにはいたのは黒髪黒目の長身の男、ルウの町で出会った魔法研究者ザイだった。
「ザイさん!」
「いやー久しぶり。……と言っても、数日しか経過していないか」
「そうですね。四日ぶりです」
「そうか四日か。うーむ、時間感覚が曖昧になっているようだ」
前の魔道具をナルヤが壊してしまったので、恐らくその改良に時間を当てていたのだろう。目の下にある隈からそれは察せられた。
「ザイさんもこの町に来てたんですね」
「まあね。何が研究のヒントになるか分からないからね。行き詰まった時は、他の町を見て回ってるのさ」
全く関係ない事がその人に新たな気付きを与えるというのは良くある話だ。魔道具を改良するに当たって、新たなアイデアがないかを探しているのなら、効果的な行動と言えるだろう。
「まあそんな所さ。君はグランドマジックに出るんだったね。差し詰め、今日は休暇中という所か」
「はい。今日は明日に向けて、体を休めている所です」
その言葉を聞いたザイは顔を少し強ばらせた。何か不都合な事があったのだろうか。
「どうかしたんですか?」
「いや、君に少し研究を手伝ってもらおうと思ったのだが、明日大会があるならば頼むのは野暮かと」
「一応休暇中ですけど、少しぐらいなら大丈夫ですよ」
あまり根を詰めすぎるのは良くないが、少し研究を手伝うぐらいなら問題はあるまい。実際、少しは体を動す予定だった。
「ふむ。だがせっかくの休暇を奪うのも心が傷む。君の聖剣を調べさせてくれればそれで済むのだが」
「聖剣……ですか?」
「ああ、明日には返す。大会には支障がないようにするさ」
そう言って手を差し出したザイ。ナルヤはその手を掴まず、頭を下げた。直角四十五度の綺麗なポーズである。
「すみません。それは出来ません」
「ほう、何か不都合が?」
ナルヤは下げた頭を元に戻し、ザイの問いに答えた。
「不都合……ではないんですけど、約束したんです。この剣は僕が預かるって、だからすみません」
いくら頼み事とはいえ、約束を破るのは頂けない。まあミユキなら承諾しそうだが、憶測だけで判断するのは軽率だろう。
「でも、僕も一緒なら大丈夫です。明日までは無理ですけど、夕暮れまでなら」
「……ふむ」
ナルヤの答えを聞き、ザイは少し考え込むような仕草を取る。それから数巡……
「ならよろしく頼もう。ナルヤ君、君の力を貸して欲しい」
「はい」
カウントダウン
18day




