20 マジックロス
「うっ……う……」
背中に強い痛みを覚えながらも、ナルヤはその体を起こす。
周りには木々が生い茂っており、奥もそれが続いている事から、恐らく森の中なのだろう。
何故自分はこんな所に……、順に記憶を辿って行く。風龍が町を襲撃し、応戦したが逃げられ、ミユキが連れさら……
「ミユキ! ミユキだ!」
意識を無くす寸前。うっすら見えた風龍の足には、まだミユキが捕まったままだった。そして、風龍もこの辺りに落下している筈である。
ナルヤはミユキを捜索すべく、森の奥へと進んでいった。
◆◆◆◆◆
ミユキを捜索してからどれだけ経ったか。詳しい時間は分からないが、結構な時間が経過したように思う。
剣が有れば心強いのだが、風龍に突き刺したままになっているので、この場にはない。
そして、剣がない影響なのか、今まで湧き上がっていた力の様なものを感じなくなっている。
まるで、スキルを手に入れる前に戻ったかの様な、そんな感覚だ。
それからまた暫く進むも、一向に見つからない。
「これだけ探したんだし、そろそろ見つかっても……あれ……」
ナルヤの視線の先には、何十本もの倒れた木々が見える。あれが風龍の墜落した跡なのであれば、あそこにミユキがいる可能性は高い。
急いで向かうナルヤ。予想通り、そこには倒れたミユキの姿があった。すぐに駆け寄り、安否を確認する。
息がある。どうやら眠っているだけのようだ。
「ミユキ!」
その言葉を聞くと、ミユキはゆっくりと目を覚ました。
「……ん……ナルヤ……そうか、ナルヤが助けてくれたんだ」
「ああ、とりあえず逃げよう。風龍が起きる前に」
風龍はミユキから少し離れ場所で倒れていた。今がチャンスだとも思ったが、剣がなくなっていた上に、ナルヤの調子も悪い。下手に行動せず、まずは生き延びる事を優先するべきだと判断した。
ミユキを背負い、風龍から距離を取る。
「ごめんナルヤ。私が捕まったばっかりに……」
「そういうのは後で聞く。まずはここから逃げ延びよう」
風龍がかなり弱っているのは間違いない。町にに戻れば、討伐隊を編成してもらい、一気に叩けば……
「ぎぎゃぁぁぁぉぅ!」
背後から叫び声が聞こえた。もう目覚めてしまったらしい。
あのモンスターのスピードから考えて、逃げ切るのは不可能。ならば、ここで撃退するしかない。
ナルヤはミユキを下ろし、魔法を発動する準備をする。
まずはあの動きに対応する為に、シャイニングエンチャントで移動速度を上げるべきだろう。
「シャイニングエンチャント」
その言葉と共に、光がナルヤの体を包……まない。
「シャイニングエンチャントが使えない?」
他の魔法ならどうだろうか? そう思い試すも、そのどれもが失敗した。
「どうして⁉︎」
何故突然魔法が使えなくなってしまったのか。まさか、噂のホワイトパニッシュが今起こったのだろうか?
そう考えたナルヤだったが、その考えはすぐさま否定された。風龍が魔法を使い、風を巻き起こしていたからだ。
そうなるとますます分からない。ホワイトパニッシュでないとなると何が……
「まさか!」
そこである仮説が思い浮かんだ。初めてナルヤが魔法を使った時、剣に共鳴する感覚を覚えた。つまり、ナルヤのスキルの発現にはあの剣が必要なのではないだろうか。
体に違和感を覚えたのも、剣から離れてからだ。この仮説は、あながち間違っていないように思う。
だが、抜け落ちたのか、風龍の翼に刺さっていた剣はどこかに消えてしまった。このままでは、撃退はおろか逃げ延びる事も出来ない。
そんなナルヤの事情を知る由もなく、風龍は彼らを視界に捉えた。
カウントダウン
24day




