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1 ナルヤ追放

「キリョォォォォア!」


 ナルヤの目の前にいる紫色の体躯をしたトカゲのようなモンスター、ムーンライトリザードが雄叫びをあげる。


 このモンスターには追い詰められると、仲間を呼ぶ為に雄叫びをあげるという習性がある。本来なら好ましくない状況なのだが、今回そうでもなかった。


 ムーンライトリザードが雄叫びをあげてから数分、一向に援軍は現れない。それもそのはずだ。ナルヤにとっては強敵のムーンライトリザードだが、ギルドに所属している他の冒険者にとっては、簡単に仕留められる雑魚でしかない。とっくに彼らに狩り尽くされ、この個体以外は残されていない。


 痺れを切らしたムーンライトリザードがこちらへと向かってくる。


「ここが正念場だ。チェーンロック!」


 ナルヤの右肩に魔法陣が現れ、そこから一本の鎖がモンスターめがけて飛び出した。そして指示通り、右足を絡め取る。


 足を取られ、盛大に転んだムーンライトリザード。その隙を逃さず、持っていた剣で首元を切断する。


「……ふぅ」


 なんとか一体倒すことが出来た。他の冒険者が積み上げたのだろう大量の屍を見ながら、ナルヤは小さく息を吐いた。


◆◆◆◆◆


「ムーンライトリザードの討伐終わりました。これ、冒険証です」

「お預かりします。……確かに一匹討伐出来ていますね。死骸の方は残っていますか?」

「はい。なので業者に頼んでもらっても大丈夫ですか?」

「分かりました。では連絡を入れておきますので、業者の鑑定が終わり次第、報酬を準備しますね」


 受付の女性はそう告げ、奥へと入っていった。ナルヤも空いている席に腰掛ける。


「なあ聞いたか? 一体だってよ一体」


 ナルヤがロビーで寛いでいると、辺りからそんな声が聞こえてきた。声の主はマルクス、今ギルド長に最も信頼を置かれている赤髪のA級冒険者だ。

 彼の言葉に続くように他の冒険者も口々に話し出す。


「俺らはとっくの前に三十は処理したってのにな」

「まあしょうがねぇよ。マジックロスだし」

「魔法が一つも使えない無能だもんな」

「だっはっはっはっはっはっ!」


 いつも行われているナルヤの貶し合いだ。

 人は十五になるとスキルを一つ授かることができる。基本的に魔法はスキルがなければ扱うことが出来ないため、どんなスキルを貰うかは人生を左右すると言ってもいいほど重要だ。


 だが、ナルヤは違った。十五になった日、彼はスキルを貰うことができなかったのだ。

 スキルが貰えないということは、魔法が使えないということとほぼ同義。一応試してみたものの、ナルヤの魔法陣から魔法が出現することは無かった。


 それから二年、努力の末、鎖一本なら扱うことが出来るようになったが、鎖のスキル持ち主なら授かった瞬間からその何倍もの鎖を同時に扱えるのだから、その意味は薄い。


 結果、ついた二つ名はマジックロス。冒険者になった日から今日まで、他の冒険者からの揶揄され続けている。


「ナルヤさん。報酬の支払い準備が整いました」

「はい。今行きます」


 受付嬢の声を聞き、ナルヤは受付に戻った。


「では、討伐料銅貨二枚と、死体料銅貨一枚、計銅貨三枚となります」

「ありがとうございます」

「それとナルヤさん。ギルド長がお呼びですので、応接長室へ行って下さい」

「ギルド長が? 分かりました。今から向かいます」


 受付嬢に言われた通り、ナルヤは階段を登って応接室へ向かう。

 しかし、応接室は余程のことがない限りは、冒険者が使うことはない部屋である。


 一つは指名依頼が来た時。クエストは基本クエストボードに貼られるのだが、報酬を上乗せすることで、クエストを受ける冒険者を指名することが出来る。だが、わざわざナルヤに依頼を任せようなんて人間がいるとは思えない。これはないだろう。


 もう一つは冒険者が何か重大な過失を行った場合。これについても心当たりはない。なんならマルクス達の方が派手にやっている。


 他にもお偉いさんが来た時等があるが、冒険者が使うのは主にこの二つだ。しかし、どちらもナルヤが呼ばれるような覚えはない。一体何の用なのだろうか?


 疑問を抱えつつも、ナルヤは応接室の扉を叩く。中から「入れ」という言葉が聞こえた。


「失礼します」


 扉を開け中に入ると、ふんぞり返りソファに座るギルド長がいた。


「立ち話もなんだ。そこに座れ」

「失礼します」


 ナルヤはギルド長の向かいの席に腰を下ろした。すると、ナルヤが要件を聞くよりも早く、ギルド長は語り始める。


「さて、いきなり本題だが、お前には今日限りで冒険者を辞めてもらう」

「え?」


 想定外の出来事に、思考が追いつかない。クビ? 確かにギルド長はクビだと言っていた。だが、冒険者にそんな制度はないはずである。あるならとっくにクビになっている。


 そんなナルヤの疑問に答えるよう、ギルド長は言葉を続けた。


「残念だが、もうお前に依頼を回す余裕は、このギルドに残されていない。それはお前も薄々感じていたんじゃないのか?」


 言われてハッとする。言われてみれば、最近依頼の数が減ってきている気がする。しかも、内容も簡単な物が多くなったように思う。まあ、ナルヤにとってはどれも難しい依頼なのだが。


「凶暴なモンスターが暴れていた時代、冒険者は大変重宝された。しかし三百年前、英雄グランドによって魔王が倒され、次々と実用的な魔道具が生まれ、人類の生活圏が拡大し、今ではモンスターと人間の勢力図は完全に入れ替わった。依頼も冒険者も日に日に減り続け、倒産するギルドも後を絶たない。そろそろウチも、なりふり構っていられなくなった」

「……なるほど」


 ナルヤは唸った。ギルド長の話通りであれば、スキルが無く、依頼達成率も低いナルヤを解雇したいのも納得である。


 だが、ナルヤにとって冒険者は理想の職場だった。己を鍛えながら、人助けが出来、更に報酬が貰える。当然、ナルヤにこなせる程度の報酬なので大した物ではないが、勇者や騎士団等の特別な手順でしか入ることが出来ない職業を除けば、最も理想に近い職業と言える。


 だが、それが他者の負担になるのなら仕方がない。ナルヤは冒険者証をギルド長に差し出した。冒険者証を失えば、冒険者としての活動は出来ない。ギルド長はそれを受け取り、懐に入れた。


「うむ。用は済んだ。行け」

「今まで……ありがとうございました」


 ナルヤは会釈し、会議室を出た。その後、受付にも挨拶を済まし、冒険者の元へも行く。

 冒険者達は散々ナルヤを虚仮(こけ)にしたものの、今回のクエストのように、彼らが暴れてくれたから達成出来たクエストもあった。挨拶もせずに出て行くというのは失礼というものだ。


「皆さん、今までありがとうございました」


 冒険者達は何のことか分からず釈然としない様子でナルヤを見つめる。だが、ナルヤはすぐさまその場を立ち去り、ギルドを出た。理由を話せば、絶対に嫌味を言われるからだ。


「おいナルヤ」


 しかし、ギルドの扉を開いた直後、後ろから声を掛けられた。ナルヤ弄りの筆頭格、マルクスだ。



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       33day

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