11 アイスクリームの出会い
「つ・い・たー!」
「ちょっミユ……」
馬車から降りるなりいきなり叫び出すミユキ。連れの奇行にナルヤまで恥ずかしさを覚え、静止させようとしたのだが、彼女の楽しそうな横顔を見て止めるのを辞めた。
「どうしたの? ナルヤ」
「いや、君は君だなと思って」
ミユキは「ん?」と首を傾げる。それから少し考えた後……
「それより観光しない? 明日までしかいられないんだし」
諦めたようだ。
「ナルヤは行きたい場所とかない?」
「行きたい場所か、何かあったような……」
ナルヤは手を顎にのせ、記憶を辿った。確か冒険者を始めてすぐだった気がする。確か依頼主が
……
「あっ! アイスクリーム!」
◆◆◆◆◆
この町は知の都ルウ。世界中から様々な学者が集められ、日々研究に勤しんでいる。そして、ヘルイスへの中継地点である。
ここで馬車を乗り換えてヘルイスへと向かうのだが、次の便は明日出発という事もあり、今日はこの町で一泊する事となった。
「ナルヤが来たかった場所ってここ?」
「ああ、冒険者時代に依頼主の人に聞いて、一度来てみたいと思ってたんだ」
ナルヤ達の目線の先には、一つの屋台があった。看板にはアイスクリーム屋と書かれており、店前には既に行列が出来ている。
「アイスクリーム? 聞いた事がない食べ物だね」
「話によれば、ここの店主が作ったオリジナルの魔道具で色んな食材を和える事で出来る、冷んやりして甘い新感覚のスイーツ? だとかなんとか。それを販売しているのはここだけだって言ってた気がする」
「新感覚かー。それ凄い気になるかも。なんか凄い楽しみ!」
どうやら、ミユキも乗り気なようだ。凄いが二回出て来るぐらいなので、相当楽しみなのだろう。
「よーし、そうと決まればレッツゴー」
「お、おーう?」
もう店の前なような。そんな気がしたのは、店主や行列の人達の視線を浴びまくった後であった。
◆◆◆◆◆
「完売しました!」
並ぶこと一時間。ちょうどナルヤ達の直前で、店主の無慈悲な一言がこだました。
「嘘……」
「ミユキ、大男に襲われた時より絶望的な顔になってるよ」
最初はナルヤが楽しみで並び始めた筈なのだが、いつの間にか逆転。つい数分前まで味の妄想をしていたミユキは、膝から崩れ落ち、世紀末の様な顔をしている。
「現実は非常だ……」
「……そうだね」
明らかにキャラじゃないその言葉に、ナルヤも同調するくらいしか出来ない。アイスクリームとは、ここまで人を狂わす物なのだろうか。
明日はこの店が開店するよりも早く町を出る予定なので、もうチャンスはない。明らかに危険な顔をしているが、こういう事もあるのだと受け入れるしかないだろう。
「いや、そんな凹むか普通」
ミユキが項垂れていると、横から声が聞こえた。彼女のいる方向とは逆方向だ。
二人は声の方へ顔を向けた。
「ああ、すまんすまん。お前らが面白くてな」
紅色の長髪を揺らし、そう問いかけたのは長身の女性だ。力強い淡黄色の目と上に跳ねた毛先から、強者の貫禄の様なものが感じられる。
肩には大剣を背負っている事から、恐らくナルヤと同じグランドマジックの出場者だろう。そして右手には、ナルヤ達が追い求めたアイスクリームのカップを持っていた。
「そんなに欲しいなら、あんたらにやろうか?」
「ほんと⁉︎」
ナルヤが答えるよりも早く、ミユキが飛び上がり返答した。さっきまでへたり込んでいたのが嘘の様な動きである。
「ああ、ただし代金は頂くぜ」
「ありがとーう。あなたは救世主だよー」
「救世主は言い過ぎだって。まあ、嬉しそうで何よりだよ」
ミユキは女性からカップを受け取ると、そこに乗ってある白い塊を頬張った。
「はあ〜」
幸せそうに息を吐き、食べ続けるミユキ。代金を払ったのは彼女なので、ナルヤに口答えは出来ない。彼女が幸せそうに食べているので良しとしよう。そう言い聞かせ、心を落ち着ける。と……
「はいナルヤ」
そう言って、ミユキはスイーツを乗せたスプーンをナルヤへと寄越した。
「いいの?」
「勿論。こういうのはおすそ分けだよ」
「……ありがとう」
差し出されたスプーンを口の中へと入れる。冷たい感覚と、ミルクの甘い香りが口の中に広がり、顔がとろけそうになる。
「はあ〜」
「幸せそうで何よりだな。あたしも譲った甲斐があるってもんだ」
「ありがとうございます。でも本当に良かったんですか? あなたも長い時間並ばれていましたが」
「まあ、あたしは暇を潰してただけだからなー。別にアイスなんとかってやつにそこまで興味もなかったしな。ただ、どうしてもって言うなら、一つお願いを聞いてくれねぇか?……」
「「お願い?」」
「あたしと、組み手してくれ」
カウントダウン
25day