9 信じるということ
「準備は出来た? ナルヤ」
「うん。元々持ってる物自体少なかったから」
「じゃあちょっと早いけど「ちょっと待って」……どうしたの? 忘れ物?」
「いや、ちょっと武器屋に寄りたいなと」
その言葉にキョトンとするミユキ。どうやら意図が伝わっていないようだ。
「この剣はあくまで旅の間預かっているだけだから、昨日みたいな有事の際には仕方ないけど、大会みたいな私的な理由では使えないなと思って」
「なるほどー。気を使ってるんだ」
その後一白開けて言葉を続けた。
「いい? ナルヤが大会で優勝するのが旅の目的なんだよ。だからこの目標は私の目標も同然。だから遠慮なんてせずにどんどん使って。きっと剣もその方が嬉しいからさ」
ミユキはそう言うと左目をウインクしてみせた。彼女は随分自分を信頼してくれているようだ。ナルヤは久しぶりの感覚に戸惑った。
両親が死んでから、ナルヤをしっかり見てくれる人間などいなかった。スキルを授かった時には周りに白い目を向けられ、ギルドでも嘲笑の対象にされていた。
ふと疑問に思う。さっきから彼女がやたらと自分を信頼しているのは、強力なスキルを持っているからだろうかと。
実際彼女と交友を深めたのはスキルが出てきた後だ。神父の人に関しても、あれだけ懇願されたのもスキルがあったからである。なら、今の状況は全てスキルのおかげなんじゃないだろうか。
「ミユキ」
「なーに?」
「君は僕がこの剣を持って消えるかもとか思わないのか?」
「ぜーんぜん」
「なんで? スキルがあるから?」
『スキルがないのは過去に悪行を重ねたからに違いありません』
ナルヤが十五になった日、村の神父に言われた言葉だ。
『お前が俺の財布を取ったんだろ? マジックロスだしよ』
ある冒険者が財布を無くした時、その冒険者に言われた言葉だ。
全てスキルが原因だった。スキルが無かったから蔑まれ、信頼されなかった。なら今信頼されているのは、スキルがあるか「違うよ」
ミユキはさも当たり前の様に、ナルヤの問いに否と示した。そして続ける。
「ナルヤはあの時、私を助けてくれたでしょ。怖くて怖くて仕方ないのに、足がぶるぶるなのに、私を助けようと来てくれた。だから一緒に旅をしたいと思ったし、大切な物でも安心して預けられる。力なんて関係ないよ。私は、ナルヤがナルヤだから信じてる。それだけだよ」
予想外の言葉に頭が真っ白になる。そこまでべた褒めされたのは生まれて初めてだった。胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じる。
「さあ、早く馬車乗り場へ行こう。乗り遅れ……はしないけど、早く行きたい!」
謎だらけで、自由奔放で、テンションが高い。そんな少女と、今日旅に出る。
いつぶりだろうか……ナルヤから自然と笑みが溢れた。
「ああ、行こうか」
「うん。あっ乗り場に着いたら旅の予定を確認しよ? 馬車乗り場で予定を確認するの楽しみだったんだー」
「本当に楽しみな事が多いね」
「だって今は、あらゆる事が楽しくて仕方ないんだもん」
その時見せた笑顔に、思わずドキリとしてしまったナルヤ。本当に、彼女には敵わなそうである。
そして、今から馬車が発車しようとする時、その目の端に、冒険者ギルドが写ったのを見逃さなかった。
カウントダウン
28day




