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ヴァンパイアワーク  作者: 神谷 ほたる
8/10

二人の協力者


「まだ、亨くんは目覚めませんか?」


重昭がやつれた顔でルーファス宅にやってきた。近頃は毎日来るので、まるでここに住んでいるかのようだ。


「まだ身体が馴染んでいないのだと思います。あと数日間は目覚めないでしょうね」


「そうですか」


そう答えながらも、重昭は今にでも倒れるのではないかというぐらい、酷い顔をしている。目も心なしかうつろで、どこを見ているのかわからない状態だ。


「それにしても、加納さん日に日に顔色が悪くなっていますよ。青白くて、まるでで私たちのようじゃないですか」


「本当に最近寝てなくて…その上食欲もないので。ダメですよね、自己管理も仕事のうちなのに…」


重昭は、亨の母親の一件以来、上司に呼び出されて経緯を細かく聞かれたようだ。まるで取り調べかのように。ルーファス達の事を隠しつつ説明するのに骨が折れたらしい。終いには、亨も行方不明だと警察内では騒がれていて、それの件でも一苦労したようだ。


「…それにしたって無理し過ぎではありませんか?」


「はい…せめて他に事情を知ってる人がいれば協力してもらえるんですが、そうもいきませんし…」


「なるほど。ちなみに加納さん、当てはありますか?」


「へ?」


重昭が理解できずにマヌケな声を出した。恐らく、寝不足のせいで頭が働いていないのだろう。


「加納さんが信頼出来て、我々の協力をしてくれそうな人物ですよ」


「い!います!二名ほどですが」


「どんな方たちですか?」


「まず、私が目をつけているのは倉田 修斗(しゅうと)です。科捜研で働いていてます。彼が学生の頃からの仲です。私が無茶なお願いをしても、多少目を瞑って協力してくれます。この前のルーファスさんに頼まれた件も、彼が調べたものです。気になる事はあったようですが、深く追及されていません」


「なるほど。是非お会いしてみたいですね。ここにある設備だけでは、あまり多くを調べることはできないのですが、彼の研究所があれば出来る事の幅が増えます。そして何より、わかっていても追及してこないという人柄が素敵ですね。人間は、訳もなく知りたがる貪欲な奴が多いのに…」


「は、はい。そうですね」


「二人とおっしゃってましたが、あとの方は?」


「もう一人は、田口 (かける)です。彼は私の職場の後輩に当たります。今回の事件も二人で周ることが多く、話せないことが多い中協力してくれています。現場経験はまだ浅いですが、細かい事に気が付く奴です。真面目な性格なので、秘密を外部に漏らすような事はありません」


「そうですか。まぁ、加納さんが信頼している時点で私は安心できますので、問題ありません。近々、二人をこの家に連れてきていただけますか?それとなく、私たちの話をしておいてください」


「わかりました。明日連れてきます」


「お願いします。あ、それと加納さん、少し休まれてはいかがですか?一時間程したら、声をかけますので。こちらの部屋でお休みください」


そう言って、以前は物置だった部屋へと案内した。綺麗に片付けて、簡易ベッドを一つだけ置いただけのシンプルな部屋だ。棚には不思議な色をした液体の詰まった瓶が大量に並んでいるが、それは物置として使っていた時の名残である。


「ルーファスさん、この部屋は?」


「仮眠室ですよ。危険ですので、置いてあるものには手を触れないでください」


「は、はい。わかりました」


重昭は警戒きつつも、ベッドに横になると一瞬で眠りについてしまった。


「余程疲れていたんですね。その方が好都合です。加納さんには実験台になっていただきましょう」


ルーファスは不敵な笑みを浮かべて、右手には淡黄色の液体の入った瓶を構えている。注射針をセットし、寝ている重昭の身体にその液体を注入した。







一時間後、予定通りルーファスは重昭に声をかける。すると、重昭は凄い勢いで起き上がってきた。


「おはようございます、今何時ですか!?」


「まだ十二時ですよ。先ほど眠りについてから、一時間程しか経っていませんので安心してください」


「一時間しか?それにしては、ありえない程、身体が回復しているのですが…」


その言葉を聞いてルーファスは満足気に微笑んだ。


「こちらの薬が効果覿面だったようですね」


「そ、その手に持っている奴ですか?」


「はい、そうです。これは吸血鬼の血液から遠心沈殿させて上澄みを集めた血漿を元に作った回復薬です。成分としては問題ないと思っていたのですが、どうも我々吸血鬼には効果が見られなくて。人間には効くことがわかって安心しました」


「そ、それってもしかして…人体実験…」


「人体実験、そうですね。でも安心してください。すでに人間以外の生物では実験を終えているものなので。近々、製薬会社に高値で売る予定です。十億くらいで売れると良いのですが」


「じゅ、十億ですか!?ルーファスさん、一体どんなお仕事をされてるんですか?」


「貴方もご存知でしょう?私は便利屋ですよ。以前この仕事で協力した方が、大手製薬会社の社長さんだったんです。私は薬品作りが趣味なので意気投合しまして。今でも付き合いがあり、たまにお手伝いしてるんです」


「便利屋ってそういう仕事も有りなんですね。私との仕事ぶりしか見てないので、探偵の様に難解な事件の解決を得意としているのかと思ってました」


「それでは、便利屋ではなく探偵ではありませんか。普段はもっとゆるーくお仕事していますよ。加納さん、そう言えば急いでらしたようですが、お時間は大丈夫ですか?」


「そうでした、また上司に呼び出されてしまいまして・・・バタバタしてしまい申し訳ありません。では、お邪魔しました」


慌てて事務所を出る重昭を、ルーファスは笑顔で見送った。





◇◇◇◇◇






「加納さん、俺たちマジで今から吸血鬼に会いに行くんっすか?」


倉田はキラキラした眼差しで興奮気味に重昭に詰め寄った。


「何回そうだと言えば気が済むんだ、お前は!!」


「いや、だってね?そりゃ興奮もしますよ!!俺、吸血鬼めっっちゃ好きなんです。小学生の頃に、ちびちび吸血鬼って本が大好きで何回も読んだし、親に頼んで吸血鬼図鑑やらカーミラの本やら買ってもらったり!いわば憧れの存在なんです」


重昭はその熱弁を聞いて不安になった。こいつをルーファスさんたちに合わせて大丈夫なのだろうか…。


「お前、あんまりはしゃぐようだと連れて行かないぞ。俺は、お前らが信頼するに値する人物だと思って、ルーファスさん達に紹介するんだ。それに、遊びに行くんじゃない、仕事のパートナーとして紹介するんだ。本人の前で、絶対にそんな風に騒ぐなよ?」


そう言われて、倉田はしゅんと小さくなった。


「加納さん、大丈夫ですよ。倉田さんだって、普段は不真面目でだらしない女好きですが、仕事には真剣に向き合ってるじゃないですか!!」


「あれ、たぐっちゃん?俺、それフォローされてる?それともけなされてる?」


「全力で褒めてます!!」


「あ、うん。なら良いの」


二人のやり取りを聞いて、重昭はさらに不安になった。

事務所に到着すると、ランドルフが玄関から出迎えくれた。


「どうぞ、上がってください」


いつもの応接室に通されると、既にルーファスが座って待っていた。


「ルーファスさん、連れてきました。昨日お伝えした二人です。私の横にいるのが、倉田。その隣が田口です」


「お初お目にかかります。加納さんから伺っていると思いますが、私がルーファスです」


「は、初めまして。倉田 修斗(しゅうと)です。科捜研で働いてます」


そう言って、倉田は手を差し出した。ルーファスもその手を取って握手を交わした。


「初めまして。田口 (かける)と申します。加納さんと同じ課に所属居ています」


倉田と同様に握手を交わす。一通り挨拶を終えると、ソファに皆で腰掛けた。大の大人が三人座っても余裕がある程度ある広さのソファだ。そこに、ランドルフが人数分のお茶とお菓子を運んでやってきた。


「みんな、自己紹介は終わったの?僕はランドルフ。ランドールって呼んでね!ルゥちゃんと同じく、吸血鬼でっす」


その瞬間、キュンっとどこかで音が鳴った。その音の正体がわかるのは、もう少し先の話だ。


「今回、皆さんを御呼び立てしたのには訳があります。巷で騒がれている連続殺人事件はご存知ですね?あの事件には我々と同じ、吸血鬼が絡んでいます。私と加納さんとで独自に捜査していたのですが、二人だけでは、警察の目を盗んで捜査を続けるのは限界です。そこで、お二人にもご協力願いたいのです」


「お任せください!!ルーファス様のお望みとあらば、この倉田なんでも致します!!んぎゃっ」


重昭が倉田の太ももをギュッとつねった。


「お前、はしゃぐなと言っただろう?」


小さい声で重昭が倉田を叱咤する。


「ふふっ、はしゃいでいたのかい?いけない坊やだ」


妖艶な笑みを浮かべて、ルーファスは倉田を数秒間見つめた。


「そんなっ、目でぇっ!んっ俺を、見ないでっくださぃ」


倉田が意味不明な言葉を発しながら気を失った。重昭がルーファスと倉田を交互に見た。


「ルーファスさん、こいつに何したんですか?」


「え?僕の事が気になってるみたいだったから、見つめただけですよ」


重昭は頭を抱えた。


「ルーファスさんすみません、こいつ、とんでもない阿保なんですが、仕事の腕は確かなんです」


「この前の調査資料を見れば、わかります。大丈夫ですよ。ところで、その隣の彼…田口さんはかなり落ち着いてますね」


気絶した倉田を完全に無視して、田口は姿勢を正して座っていた。


「いえ、とんでもないです。緊張して、固まっていただけです。すみません」


「亨くん発見時、一緒に居たんですよね?病院では、なんと説明されたんですか?」


「それは、自分たちが駆け付けた時には既に傷を負っていたので、その時の様子を伝えただけです。私は、お子さんの姿も見ていなかったので」


「なるほど。その後、田口さんは上からの呼び出し等はなかったのですか?」


「いえ、私も呼び出されましたが、事件現場付近で聞き込みをしていたら、気になる家があったので、自宅に訪問したとだけ伝えました。加納さんが、まだ詳しい事は上にも伝えていないとの事だったので」


ルーファスは、その言葉を聞いて重昭の人選に間違いがなかったことを確信した。




◇◇◇◇◇




倉田と田口に、今までの出来事を順に話していく。


「え、今までの殺人事件って土竜の仕業だったんですか?」


「簡単に言えばそうですね。直接手を下した犯人は…ですが。その土竜を裏で操っていた者が真の犯人です。更に、今までの事件現場の付近では、数名の学生が間接的に被害にあっているとみて間違いありません。現に地下室で眠っている亨と言う少年は吸血鬼に血を注入されて、半分吸血鬼になりかけていました。そして、その子ども達は共通して、同じ予備校に通っています。恐らく、その予備校に何かあるのではないかと私たちは睨んでいます」


ここまでルーファスが伝えると、田口が遠慮がちに口を開いた。


「実は、加納さんが忙しそうにしていたので、ここ数日独自で動いていました。この生徒さんたちは、ある一人の講師と親しくしているようです。予備校の生徒たちの間では、それが話題になっているそうで。中には、その教師と付き合っていたとか、そういう関係にあるとか…」


「その人物の名前はわかりますか?」


「はい、名前はわかったのですが、その…」


「どうした、田口?」


「加納さん、すみません。予備校のパソコンをハッキングしました。それで…その講師の経歴や住所などを調べたのですが、情報は全て出鱈目でした」


「田口…お前ハッキングは犯罪だぞ!?」


「すみません…」


「まぁまぁ、加納さん。そんなに怒らないでください。彼はその情報を悪用するわけじゃないのですから」


「しかし…」


「今は、犯人特定が先です。何かしらの処置が必要であれば、後でお願いします。私は警察の決まりごとに付き合うつもりはありません」


「…わかりました。田口、その人物の名は?」


「ダニエルという、在日外国人に向けて指導している講師です。母がアメリカ人の方で英語も交えて勉強を教えているとか。まぁ、その情報もどこまで本当かわかりませんが。その予備校に在籍しているのは確実です」


「なるほど。その人物に会う前に、先に拠点としている場所の確認からしましょう。そこを調べれば何か出てくるかもしれない」


「ま、待ってください。相手はまだ犯人と確定した訳ではありません。そうすると、警察は公に動けません」


「何を今更。そもそも、法で動けない警察の代わりに私達がいるのではありませんか」


「私は、そんな危険な事に巻き込もうと思っていません。…まさか、以前私がした話は本当だったんですか?上層部の人間が、何でも屋と繋がっているという噂…それが、ルーファスさん?」


重昭が驚いて目を見開き、ルーファスに視線をやった。


「あー…すみません。今のは忘れてください」


「そうもいきません。私たちが今後協力していくなら、私たちには聞く義務がある」


その言葉を聞いて、ルーファスは観念して話し始めた。


「今から、ほんの三十年程前の話です。警察には、しがらみがあり、手を出せない連中や、表沙汰に出来ない事件も沢山あります。そんな人たちを相手に、私は仕事をしていました。上層部の方たちとも繋がっていたので、記録等には全て、私が関わったことは書かれていません。しかし、ある事件をきっかけに、私の正体が公になってしまうという事態が起きました。上層部の人間だけではなく、本当に大勢の人たちが…。そのせいで、今までの事件に私が関わっていた事もバレて、一時警察内は大問題になったのです。そして、上層部の人間は自分の保身のために、皆の記憶を消すという判断を下しました。我々吸血鬼は、記憶の操作さえ可能なのです。私は指示通り、皆の記憶を消しました。そして、最後に上層部の人間たちからも私に関する記憶を消し、その場から去りました」


「そんな過去が…しかし、噂はあながち間違いではなかったという事ですよね?」


「その通りです。恐らく、記憶が残っている者がいるはずです。しかも、その人物は私に会いたがっているのでしょう」


「なぜですか?」


「こんな噂を流す必要がありますか?真面目な人間の多いそのような環境で、そんなバカげた噂を流せば、自分の評価にも関わって来るでしょう。第一私の耳に届けば再び記憶を消される可能性だってあります。その危険を冒してでも、流す理由なんて、他に考えられますか?」


「確かに…そうですね。この噂の出所は、こちらで確認します」


「はい、加納さん。お願いします」


「私とランドルフ、それから田口さんで、明日はその講師を追跡しましょう」


「わかりました」


田口は真剣な表情で頷いた。







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