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ヴァンパイアワーク  作者: 神谷 ほたる
4/10

加納重昭の一日  前編



チュンチュン

朝日が差し込み、素晴らしい一日の始まりを告げる。



「お父さん!!起きてってば!!」


重たい瞼がなかなか開いてくれない。可能ならば、あと三時間くらいは眠っていたい。昨夜は明け方近くまで仕事をしていた為、実質三時間程しか眠れていないのだ。しかし、そろそろ起きなければ職場に遅刻してしまう。重昭は気合いで起き上がった。


「満、おはよう」


身体をぐんと伸ばしながら、娘に挨拶をする。


「お父さん、おはよう。お母さんはもう出てったよ」


妻は保育士をしている為、早番の日はかなり出勤が早い。満が生まれてから暫くは、育児に専念したという事で保育士と言う職を離れていたが、満が高校生になると、いつの間にか再び保育園で働き始めていた。妻曰く「家で大人しく家事して過ごすのは性に合わないの」だそうだ。最近は忙しそうだが、職場の子どもたちも可愛くて、充実した日々を送っているようだった。そんな妻に代わって、最近は娘の満が朝ごはんの支度などしてくれるようになった。優しくて、素直で可愛くて、俺の娘は世界一だと思う。


「はい、今日はトーストね。それと、お父さん。昨日の夜遅くに出かけたでしょ?お母さんは気付いてないと思うけど…一体何してたの?」


まさか、満が気付いてたとは…昨夜はルーファスさんたちと、事件現場の捜査のために出掛けていた。あまり、この事件にはかかわって欲しくないのだが、今後も深夜に呼び出されることはあるだろう。そう考えて、素直に話すことにした。


「満が紹介してくれたランドールくんと、ルーファスさんと、仕事の関係で会っていたんだ」


「ふーん、ランドールって呼んでるの?いつの間にか仲良くなったんだね」


満はじーっと俺の顔を見て、そのままプイっと顔を逸らした。


「あれ、満?怒ってる?」


「べっつにー。この前先に一人だけ帰されたのなんて全然気にしてないもん」


その事か!!うちの可愛い娘、ご立腹だよ!!最近、忙しくて、すっかりこの前の事をフォローするのを忘れていた。重昭は慌てて、思考をフル回転させる。


「満、この前はごめんね。事件の内容は家族にでも話せないんだよ。でも、満が彼らを紹介してくれたお陰で、事件は解決しそうなんだ。ありがとう。落ち着いたら、母さんと三人で旅行でも行こうか」


すると、少し満の表情が明るくなった。


「私のお陰?」


「あぁ、もちろんだよ。本当に助かった」


その言葉に満足したようで、満はご機嫌になった。


「優秀な人材がいたら、紹介するのが当然でしょ。それに、事件の事は家族に話せない事くらい、私もわかってるから大丈夫よ。将来、私も警察官になったら、そうなるんだろうし」


「満、本当に警察官になりたいのか?」


「もちろん!!その為に、柔道も習ってるんだから」


満は鼻歌を歌いながら、自分の部屋へと戻っていった。

あれ、そういえば旅行の話はスルー?せっかく良い案だと思ったのに!!あと、警察官になるって、あれ本気だったんだな…中学生の時、柔道部に入ったのはその為だったのか!?

重昭の頭の中は、悲しいやら心配だわ、色々な感情がぐるぐると渦巻いていた。






◇◇◇◇◇




出勤すると、予定していた取調べを行う為に、取調室へと向かう。複数の身柄を取り調べなければならず、その日一日はほぼ取り調べだけで終わってしまった。仕事を終えると、急いで、必要なものを詰め込み科捜研へと向かう。近くまで行った所で、顔なじみの研究員と偶然鉢合わせた。


「倉田!!良いところに!!」


「加納さんじゃないっすか!久々ですね」


倉田は、科捜研で働いているにも関わらず、昔はヤンチャしていたタイプの人間だ。恐らく、その時の癖が抜けないのだろう。職場の先輩には、しばし口調を注意されるらしい。といっても、大型犬のように人懐っこい奴なので、職場ではうまくやれているみたいだ。



「こんな所にいるってことは…勿論、俺に用っすよね?」


倉田は重昭を探るように見てきた。


「少しだけ、時間もらえるか?」


「俺、今日はもうすぐ上がりなんすよ。加納さんが良ければ飯でも食いに行きましょうよ」


「あぁ、飯は構わないんだが、調べてほしいもんがあって持ってきたんだ。先にその話だけしてもいいか?」


「なんか急ぎなんすね、大丈夫ですよ。ここの部屋開いてるんで入ってください」


倉田は、研究所の横にある小部屋のドアを開いた。中に入ると、ソファとベッドが並んでいるだけのガラッとした部屋だった。


「ここ、仮眠室なんですけど、俺以外で使いたがる人がいなくて。便利なんすけどね」


そう言って倉田はソファに腰を下ろした。


「加納さんも座ってください」


言われた通りに腰を下ろしたが、狭い部屋で大の大人がソファに並んで座っている姿が妙に滑稽に感じた。


「それで、調べたいものって何すか?」


重昭は鞄から、大きなケースを取り出した。


「このケースに、血痕のついた破片や土が入ってるんだが。こちらのパックの血液と同じものか確認してもらいたい。もし、違った場合は、こちらに入っている血液と成分が同じものか調べてほしいんだ」


「そんな簡単なことで良いんすね。それなら一日貰えれば大丈夫っすよ」


倉田は快く引き受けてくれた。最後に重要なことを伝える。


「この事は、誰にも伝えないで、一人でやってもらえないか?ちょいとばかり、厄介な事になってて。俺も独断で動いてるんだ。だから、内密に頼む」


倉田は、一切の迷いもなく頷いた。


「了解っす。加納さんの頼みであれば、俺はなんでもしますよ」


「ありがとう、本当頼りになるよ」


「そしたら、この部屋に置いておきますね。鍵も俺しか持ってないんで」


倉田はニカっと笑って受け取ったケースをソファの下に隠した。

その後は、近所で評判の中華料理を平らげて、たわいのない話を楽しんだ。





◇◇◇◇◇





今日は特に取り調べ等の予定もない為、事件の捜査に時間が取れる。後輩の田口と現場付近を周ることになっていた。普段が珍しくパソコンを開いていると、後輩の田口が不思議そうに横から覗いていてきた。田口はまだ警察官になって、三年と大分経験は浅いが、細かい事によく気が付くので、今回の事件の犯人をまだ追っていると伝えて、一緒に捜査に当たっている。もちろん、便利屋の二人の事は話せないので、隠していることはまだ多い。


「加納さん、何調べてるんですか?」


「学校の裏サイトだよ。学生たちの情報網はすごいぞ。なんたって、俺たちよりもはるかにネットの使い方に慣れてるからな」


「それはそうですけど。今回の事件とその学校が何か関係あるんですか?」


「少し気になることがあってな。その目星をつけるために調べているんだ」


重昭は気になる書き込みがないか、サイトを調べていく。その様子を、未だに不思議そうに田口は見ている。


○○と○○がうざいだの、○○はパパ活してるなど、あまり関係のない事柄で盛り上がっている。見ているだけで、溜息が出てしまうようなくだらない書き込みだらけだ。しかし、暫く内容をさかのぼっていくと、ある人物について気になる書き込みを見つけた。







1053名無しさん。20XX.10.18.23:35

2年C組の安藤って子、最近様子おかしくない?

この前、学校帰りに鳩掴んでる姿見たんだけど…クソこわっ


1054はらぺこちゃん20XX.10.18.23:36

>>1053

え、うちもそれ見たよ。怖くてすぐにその場から逃げたからよくわからないけど


1055クソムシ20XX.10.18.23:38

>>1053

俺もおかしいと思った。てか2年の間では結構話題になってる。

この前なんて、教室で暴れまわったって聞いたぞ。


1056はらぺこちゃん20XX.10.18.23:40

>>1055

え、くそ怖いじゃん。頭おかしいの?


1057クソムシ20XX.10.18.23:40

>>1053

てか、あいつ学校来なくなったよ.......






重昭は、その学校とその生徒の名前、クラスをメモに記入した。その要領で他の学校も調べていくと、同様に数名の生徒が急に学校に来なくなったという書き込みを見つけた。田口と目を合わせる。


「加納さん、もしかして、この学生たちが連続殺人事件に関係あるってことですか?事故の起こった日にちと、その学生が来なくなった日を調べるんですね?」


重昭たちは急いで車へと乗り込んだ。


「加納さん、この事は捜査会議で発表されたんですか?自分は、この事件に学生が絡んでるなんて初耳です」


そう聞かれて、重昭は受け答えに悩んだ。実際学校が関係しているなんて情報はどこにもない。それは、便利屋の二人が見つけたものだったからだ。それに、連続殺人を行っている連中が、人間ではないとわかっている以上、田口にどこまで話していいか、加納はには判断できなかった。


「いや、まだこの事は誰も知らない。俺の独断だ。このことは、まだ誰にも伝えないでくれ」


「加納さん…何か隠してる事ありませんか?最近、様子がおかしいですよ。昨日だって非番明けだったのに、凄く疲れた顔してましたし」


田口は、人を良く見ている。図星を突かれて、重昭は困惑した。


「何もないさ。娘の進学の事で悩んでいる事くらいかな」


実際、満の事で悩んでいる部分もあるので、そう答えておいた。


「そうなんですね。今高校二年生でしたっけ?」


「よく覚えてるな。前に一度話しただけなのに。田口は本当に記憶力がいいな。この前の事件も、お前のお陰でスムーズに捜査が進んだよ」


重昭が褒めると、田口は照れくさそうに笑った。


「高校二年生だと、そろそろ進路決めなきゃいけない時期ですもんね。自分も凄く悩みました」


「田口は、確か高校卒業してすぐに警察学校に入ったんだよな?」



「はい、そうです」


「実はな、俺の娘も警察官希望なんだ」


「そうなんですか!!親子で警察官ってカッコいいですね!進路も決まってるのに、何に悩んでるんですか?」


「娘が本気で警察官になりたいとは思ってなかったんだ。やっぱり、この仕事って危険なこともあるだろう?過保護すぎるかもしれないが、心配なんだよ」


そう言うと、田口は笑顔で答えた。


「親御さんが、心配するのは当たり前です。でも、その心配って、意外と子どもには伝わらないんですよね。自分も当時は、自分のやりたいことに反対されて、親と沢山喧嘩もしました。でも、今頃になって気付くんですよね。あぁ、あの時は心配してくれてたんだなって。だから、加納さんも一人で悩んでないで、ちゃんと娘さんと話して見てください。…って、自分偉そうですよね、すみません」



「いいや、貴重な意見だったよ。ありがとう。娘と、一度ちゃんと話してみるよ」


重昭は、田口の頭をがしがしっと撫でた。





◇◇◇◇◇




「しまった、高校生の下校時間って何時だ!?」


重昭よりも、まだ高校生の時の記憶があるでろう田口に、問いかけた。

その慌てた様子に、田口もつられてあたふたしながら答える。


「ええっと、自分の時は確か…十六時くらいだった気がします!日によってはもう少し遅い日もありましたけど。それと、部活をしている生徒は、二十時とか、結構遅かったです」


「なるほど、とすると…今はまだ十二時前だから、かなり時間があるな」


重昭は、とぼとぼと車の方へ戻った。


「科捜研に顔出してきていいか?個人的な用だから、田口は…そうだな。連続殺人事件の資料を見直して、改めて気付いたことがあれば教えてくれ。十五時に合流しよう」


「わかりました。では、また後程」


田口と別れて、倉田の元へと急ぐ。例の仮眠室を覗くと、倉田がソファで白目をむいて眠っていた。コンコンとノックすると目を覚まして、ドアから出てきた。


「加納さん、お疲れ様っす」


まだ半分眠っているような声で言われた。


「随分と眠そうだな」


「いやぁ、実は加納さんと飯言った後、こっち戻ってきて作業してたんですよ。それが終わって、今まで寝こけてました」


「そうだったのか。急がせてすまなかった」


「いやいや、俺がやりたくてした事なんで気にしないでください」


そう言って、倉田は検査結果の入ったファイルと、検査物の入ったケースを重昭に渡した。


「加納さん、なんか今回の奴やばくないっすか?渡されたうちのいくつかの血液、人間のものじゃないっすよね」


倉田は、心配そうな顔でこちらの様子を伺っている。


「大丈夫だよ、心配するな。これ、ありがとうな」


そう言って笑顔で仮眠室を後にした。遠ざかっていく後ろ姿を、倉田は不安な気持ちで見送った。




◇◇◇◇◇




軽くお昼ご飯を食べてから、重昭は車の中で休憩していた。倉田から受け取ったファイルを手に取る。検査結果を確認しようとしたところに、田口が現れた為、重昭はファイルを後部座席に戻した。



「加納さん、僕の見た目怖くないですか?」


田口は心配そうに尋ねてきた。田口は二十二歳と若い上に元が童顔なせいで見方によっては高校生にも見える。瞳も大きく、ぱっちりした二重な為、全く怖い要素が見当たらない。


「どうしてそんな事聞くんだ?」


「今から学生の子たちに聞き込みに行くので。ほら、刑事とかって怖いイメージありませんか?自分も、最近そう思われてるんじゃないかと思って」


恐らく、田口は本気で言ってるのだろう。重昭は、その様子があまりにもおかしくて、思わず吹き出しそうになった。が、めちゃめちゃこらえた。田口は基本真面目な性格だから、笑われたりしたら、傷つくだろう。重昭はぐっと腹に力を入れた。


「ぐふっごほん、うむ。そうだな、田口も刑事の風格が出てきたが、ぶっきらぼうに険しい表情さえしなければ大丈夫だろう」


それだけ言って、その場をなんとか凌いだ。

暫く車内で過ごしていると、ちらほらと下校する生徒たちが現れた。車を停め、学校から少し離れた場所で聞き込みをする為に待機した。



便利屋の二人には、振り回されてる重昭ですが、意外と後輩に慕われているのです。

予想以上に長くなってしまい、前偏と後編に分けることになりました。重昭、頑張ります‼

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