14. 昔話の行きつく先
いつもお読み頂きましてありがとうございます。
もう1話で完結です。もう少しお付き合い頂ければ幸いです。
「ねぇ、その後勇者と魔王はどうなったの?」
「うん。早く教えてよ、ジュリア叔母さん!凄く気になる!」
自分の親友が散歩から戻ってくるまでの時間潰しに語った勇者と魔王の話の続きをねだる双子を前にジュリアは苦笑した。
「………続きね………」
そんな事はわざわざ言うまでもなく……自分の目の前にいる双子達がその結末だ。だが、まだ子供の域の双子にそんな事を言える訳もなく、自分の前にいる双子を眺め、ジュリアは嘆息する。
“いつ見ても本当にそっくりだこと……”
そう、今自分の目の前に居る子供達は自分の知る勇者と魔王それぞれにそっくりな顔をした男女の双子だ。
黙り込んだ自分を頬を膨らませて見上げる男の子の方の名をリフィドと言い、身に纏う色彩は勇者とそっくりだが、顔立ちは魔王と全く同じだ。そして性格も親友にそっくりだ。
その横で恥ずかしそうに自分を見上げる女の子の方の名はセアリアと言い、魔王とそっくりな色彩をしているがこちらの顔立ちは勇者と全く同じだ。そして性格は父親である勇者に似て優しい。
この双子の姿が生まれた時、2人の生き写しではないかと言わんばかりの姿に神を信じていないジュリアでさえ、何か自分では理解しがたい力が働いていると思ったぐらいだ。そんな2人も生まれてから20年を経過し、今ではすっかり10歳ぐらいの子供にまで育った。いまだ自分の話の続きが気になるのか、自分の座るソファーの両側を占拠して抗議の目を向けてくる。
『ね~、ジュリア叔母さん。早く』
「はいはい」
多少の高低差があるもののユニゾンのかかった声に肩を竦めながらもジュリアは嘆息する。
ーあれからもう25の月日が経つのだ
「ジュリア、紹介するわ。私の勇者で……大切なセフィよ」
そう、リディアールから正式に紹介されたのは親友の背を押してから数日後。
「…………どうも」
喜色満面な親友とは裏腹に緊張した面持ちで自分に頭を下げる相手にジュリアは少し同情した。顔合わせの場所となったカフェテリアに親友とその天敵である勇者が共に姿を現した事で周りは凄まじい騒ぎだ。
「あんたが勇者セフィなのね……」
そんな騒ぎを無視し、遠くからしか見ることのなかった勇者をマジマジと見れば、その右腕に抱きついていた親友が頬を膨らませる。
「ジュリア、セフィは私のだからね」
「安心して、リディの恋人を取るような趣味は私にはないから」
周りの騒ぎを更に激しくする一言を放つ親友の疑念をすっぱりと一刀両断し、ジュリアは勇者に視線を移す。
「それにしてもあんたも大変ね」
そう、話しかければ周囲の騒ぎを気にしていたのか、居心地悪そうにしていた勇者が自分に向かって苦笑する。
「まぁ……慣れないことは慣れないな」
その言葉にジュリアはそれはそうだろうと思う。誰もに敬われる魔王と違って、今では勇者はこの世界で1番の不穏分子だ。その反応に頬杖をつきながら、意地悪く問いかける。
「こんなの序のうちよ。リディアールと一緒に居ようと思うなら、これからもっと大変なことがあるわよ」
そう、皮肉を口にすれば顔色を変えて反論しようとしたリディアールを目で制し、勇者の反応を伺えば思慮深い瞳が自分を見つめる。
「ああ、貴方の言う通りだと思う。俺がリディの隣に立つことは歓迎されないだろう」
その反応にジュリアは意外な気分で目を瞬く。自分の知る勇者は今よりも幼い顔立ちで、魔王を見かければその命を奪おうとしていた相手だ。自分の考えが伝わったのか勇者は微かに困ったようは表情を見せる。
「あの時の俺の事はどうか忘れて欲しい。リディ…………いや魔王がいなければ俺は全てが上手くいくと思っていたんだ」
その言葉にジュリアは無言を貫く。魔王の右腕という天命を受けて産まれた自分でさえも、その役割にうんざりとする時がある。そんな自分よりも過酷な天命を受けた相手の言葉を一笑に付すことは出来なかった。そんな自分を前にして、勇者は傍らで心配気に伺っているリディアールに向かって微笑む。その笑みから親友の選んだ青年の人柄が伝わってくる。リディアールに一つ頷いた勇者が再び自分に視線を戻す。
「俺とリディが一緒に居る為には多くの苦難があると思う。でも、俺はリディがずっと笑っていられるなら、充分だ」
そう、口にする勇者が魔王に向ける優しい視線に胸焼けを感じながらもジュリアは呆れたように肩を竦める。
「なら、好きにしなさいよ」
その言葉が背を押したのかは分からないが2人は周りの騒ぎを他所にまるでこの姿が勇者と魔王として正しいと言わんばかりに寄り添うようになるも……
ーその後、勇者と魔王が共に生きる『魂の伴侶』となるまでは数年かかることとなる。