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ヌベールの映画の旅  作者: ヌベール
映画の旅第1部
17/105

ベニスに死す



1971年のイタリア、フランス合作映画です。


主人公のグスタフ・アッシェンバッハは、今の概念で言うと、完璧なストーカーである。しかも相手や周りの人に気づかれても、それを隠そうともしない。そしてストーカーのその対象はというと、まだどう見ても十代の美少年なのだ。


当時はそれ程アッシェンバッハに奇異の目を向ける観客は多くなく、むしろ話題性を持って肯定的に受け入れられたのだと思う。


私がリバイバルを映画館に観に行った時などは、大勢の女子高生が来ていて、美少年のタジオが画面に出てくると、カメラ片手にキャーキャー騒ぐ始末であった。


しかし今の時代、アッシェンバッハに共感できる観客はそう多くないだろう。彼の気持ちは分かるとしても、彼の行動を肯定することは出来ないと思う。

隔世の感ひとしおである。


そういえばこの話、ベニスに疫病が蔓延する。コレラらしい。医学も科学も今のように発達していないこの頃、人々はどれほど不安だっただろう。


テーマ曲に使われたマーラーの交響曲第5番第4楽章はこの映画に実に合っていて、感動を盛り上げる。


言い遅れたが、アッシェンバッハはマーラーをモデルにしていて、この映画によって、マーラーが一躍脚光を浴びたようだ。


物語を紹介しよう。


ドイツの作曲家、グスタフ・アッシェンバッハは、休暇を取って、ひとりで水の都ベニスへやってくる。


彼が泊まったホテルで、彼はポーランド人の一家を見かけるのだが、その中の1人、タジオと呼ばれる少年に目を奪われる。


その日からアッシェンバッハは、美少年タジオの虜になってしまう。


アッシェンバッハは行く先々でタジオの後を追い、その後をついて行き、自分の行いをいいと思っているわけではないのだろうが、どうすることもできない。


過去を思い出す。様々な辛い出来事や、悲しい記憶が蘇る。それは北アフリカから吹き寄せる砂まじりの熱風のせいでもあった。


尚もアッシェンバッハはタジオを追う。もう自分の行動に疑問すら持っていないようだった。

タジオは、彼にとって紛れもなく美の化身なのだ。


街にはコレラが流行する。


それでもアッシェンバッハは、タジオによく見られたいがために、顔一面に白い化粧をし、若づくりをするが、既に彼の身体はコレラにおかされていた。


タジオは静かに海に入っていく。水平線に消えゆくように見えるタジオを画面は映しながら、マーラーの交響曲がそれに重なる。

そのタジオに、アッシェンバッハは手を差し伸べようとして、息絶えるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] タジオ役のビョルン・アンドレセンに関するネット記事を読みました。 彼は、この映画出演の後、かなり、酷いことになったようです。 ビスコンティ監督は、自身貴族の血を引く人物であり、耽美的な作品を…
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