透視24 どうやったら倒せるんだ!?ってお話
俺の視界はゆっくりと流れる加速世界に変わる。魔眼スキル【加速視】は俺の魔眼ギフト【透視】から派生した魔眼スキルだ。
初めの頃は世界がゆっくり流れるのを見ているだけの魔眼だった。やがて思考が加速思考を覚え、更に思考が体を動かし加速世界で動ける様になった。
加速世界で俺は普段通りに動いている。加速行動を体が覚えた訳では無い。ただ結果的には時間辺りの行動回数が増えているので速く動いているかの様に見える。
♢
《観客席 レミリア》
アベルが紫色の魔眼封じの眼鏡を捨てた。
「加速視!!!」
観客席からならアベルの残像が何とか見える。あの男に襲われていた時はアベルの動きが全く見えていなかった。あれが【加速視】。あれがアベルの戦い方。
瞬きする間にアベルはウィリアムの足元で倒れた先生を腕に抱き、入場口へと運んだ。
ウィリアムもアベルを見つけて、吸血装甲から黒い四本の触手が伸び、遮蔽物を次々に壊してアベルに向かっている。あの触手も物凄く速い!
気が付いたアベルが左に走る。あれ?さっきよりも遅い?私の目にはアベルがはっきりと見える。勿論、普通よりは全然速いけど、先生を助けた時より速くは無い?
アベルがチラッと助けた先生の方を見る。血塗れになっている先生に、救護の先生達が駆け付けている。
…………アベルは優しいから、ウィリアムの注意を引き付けているんだ。
そしてきっと…………。
《観客席 リック》
は、は、速ええええええ!何だあのアベルの速さは!先生を助け出して、暫くは俺の目でも見えていたが、今は残像しか見えない。
「ありゃあ、ローランド、お前の襲歩より速いぞ!」
「知ってるよ!アベルのヤバい所は、あのスピードで自由に動けるって事だ!」
遮蔽物を右に左に通り抜けるアベルの残像。吸血装甲から伸びる触手も遮蔽物を破壊しながらアベルを追い掛けているが、アベルに当たる気配すら無い……。
「俺の襲歩は発動したらほぼ一直線だ。僅かに角度を変えられるが、あのスピードであんなに自由には動けない!」
「しかもアベルの野郎、未来を見てやがる!あんなんされたら絶対え当たらねえぞ!」
遮蔽物をジグザグに縫う様に走るアベル……の残像。そして俺達の視覚からアベルが完全に消えた!?
《観客席 レベッカ》
「れ、レベッカ……アベル君……凄いね……」
「凄いってレベルじゃ無いぞあれは!速いだけじゃ無く、ウィリアムの攻撃は未来視で見切られているんだ!」
あたしの双竜槍よりも速く複雑に動く吸血装甲の触手。其れがアベルには全く通用しない。
あたしがアベルに勝つイメージが全く湧かない。……スピードの次元が違い過ぎる……。
しかし……
♢
しかし如何したものか……。
ウィリアムの触手攻撃は躱せる事には躱せるが、俺には武器が無い。先生を助ける時に放った折れた剣を拾っても余り役には立たない。矢張りウィリアムが手放した魔法の剣を拾うべきだな。
未来視で俺が魔法の剣を拾う未来を探し出す。未来は俺の行動一つ、ウィリアムの行動一つで様々に分岐する。その幾つも有る未来から剣を拾う最適解を探し出した。
ウィリアム周辺の遮蔽物は触手によって殆どが破壊されている。瓦礫の中に立つウィリアム。頭、腕、腿には触手が刺さり吸血装甲の傀儡と化している。青く血の気の無い顔に黒化した黒い瞳に白い眼球がギョロギョロと俺を探している。
ウィリアムの正面に距離を離して姿を見せる。だいぶお怒りのウィリアムだ。
「コロロロスコロスコロコロススススッ!」
もう何を言っているのか分からないウィリアムが吸血装甲から四本と両手の二本の触手を俺に放つ。
俺は未来視で見た未来となる行動を起こす。左、左、左、と走り、触手を掻い潜り右に大きく走る。反応出来ていないウィリアムに近接して渾身の力で顔面パンチ。これで終わってくれたら良いのだが、そうで無い事は既に未来視で確認している。
吹き飛ぶウィリアムに追い掛けはせずに、ウィリアムが手放した魔法の剣を拾い、一旦遮蔽物の影に隠れる。
俺は遮蔽物の影から右目で遮蔽物を透過出来る【透視】レベル中、左目で【急所】を使う。
立ち上がるウィリアムの体に赤いポイントが現れる。頭と首……。うん、其れは分かっているんだ。でも其処は死んじゃうよね!
俺は山暮らしが長かった事もあり、物品系の鑑定スキルが無いんだよな~、って泣き言は言ってられないよな!
見る!見る!見る!【急所】でひたすら吸血装甲を見る!血眼になって吸血装甲を見まくる。何処……何処かにウィークポイントは無いのか!そして俺の中にイメージが湧く。新しいスキルが開眼する時の感覚……。
【正鵠視】?
新しい魔眼【正鵠視】を使って吸血装甲を見る。光る的の様な物が三カ所、右胸、左胸、腹部に見える。あれが吸血装甲の急所か?急所と正鵠は同義では無いが、狙うべき場所という意味では一緒だ。
右目に加速視、左目に正鵠視を使いウィリアムに接近する。吸血装甲から伸びる四本の触手。ゆっくり流れる加速世界でそれを右に交わして近接。右胸の光る的に剣を突き立てる。
右胸の装甲が砕け、赤い宝石の様な物が現れる。更に俺はその赤い宝石に剣を刺して破壊する。
「やったか!」
一瞬の油断。ウィリアムの右腕から伸びる黒い触手。流石に近接しているだけに躱すだけの時間が無い。破壊した右胸のコアは再生を始めている!?っていうかヤバい!左側には伸びた触手があり、右側からは俺を捕まえるかの如く右胸を伸ばし、かつ触手も伸びてくる。
加速視に魔力を注ぎ時間を引き延ばそうとした矢先に、俺の視界に二人の美少女が飛び込む。
美少女の空中ダブルキックがウィリアムの顔面に炸裂!「ブヒッ」と言ってウィリアムが後方に吹っ飛んでいく。
俺の前に水色の髪の双子の美少女が、ダブルキックの反動で宙に舞いクルッと空中一回転をして、シュタっと着地した。
「加勢に来ましたアベル君!」
水色髪の髪の毛に、前髪だけ左右に一房ずつの赤いメッシュを入れたソフィアさん。
「あれはヤバい。吸血装甲は禁忌のデビルアーマー」
ボソリと愛想無く言うルフィアさん。
「助かったよ。ありがとうソフィアさん、ルフィアさん」
加速視を解いて二人に御礼を告げる。加速世界では普通の会話が非常にし辛いからだが……。
「あ、アベル君……鼻血が……」
「矢張りアベルは変態。こんな時でも発情してる」
デフォルトの【透視】に戻った俺が見てしまった美少女の素肌……。でもな!発情はしてないから!!!
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