結局顔なんだろ?
僕の名前は田中 太郎。デブで不細工な普通の高校二年生だ。
ここでまず最初に言っておきたいことは、僕はモテない。全くもってモテない。
自分で言うのもなんだが、性格はさほど悪くないつもりだし、勉強も結構できる。スポーツはあまり得意じゃないけど、そんなことはあまり関係ないはずだ。
なぜ僕がこんなことを長々と考えているかというと...
「放課後さ~ちょっと話あるから屋上来てくんない?」
呼び出しを受けた。お相手は、このクラスでのカースト上位のギャル、梶浦 冨凛だ。なんでも誰にも言わずに一人で来いとのことなので、恐らくは恐喝か、罰ゲームの告白だろう。
え?なぜ素直に告白されるとは考えないのかだって?僕をあまりなめるなよ。友達もおらず、休み時間することのない僕は、狸寝入りしながら周りの情報を収集する能力が高いんだ。
それで集めた情報によると、昼休みにクラスのカースト上位者でトランプをやり、負けたら罰ゲームだとはしゃいでいた。さっきのゲームでは、梶浦さんが負けていた。つまりはそういうことだろう。
それを踏まえて言わせてもらおう。これは罰ゲームだ。
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それから時間が来るまで、図書室でラノベ本を読みながら時間をつぶしていた。
「そろそろ時間か、行きたくないけど行くか...」
僕は地面に根でも生えたのかと思うほど。重い足で屋上へと向かった。
「あんさ~実は話があるんだけど~」
そりゃあそうだろ、話もないのに態々屋上に呼び出したりしない。
「なに?」
僕は端的に答えた。
「好きなんだよね。付き合ってくんない?」
ほら来た、きっとどこかであいつらが隠れてみているに違いない。さ~て、どうしようか。
ここでYESと答えれば、これからの高校生活ずっと笑いものにされる。だが、断れば梶浦さんが何を言い出すかわからない。もしもこいつ生意気だから、シメちまおうぜ。なんてことになったらこの自慢の体重を自分の首を絞めるために役立てるしかなくなる。ここは、面白みのない答えにしよう。
「梶浦さんの気持ちはすごくうれしいよ。でも、僕みたいな人間と梶浦さんは釣り合わないよ、もっとかっこいい人を選んでください」
完璧だな。面白みもないし、イジリようもない。癇に障ることも言ってないしな。
「あーね。これ実は罰ゲームなんだよね」
「えっそうなの?」
「あたりまえっしょ、あーしがあんたみたいな不細工にこくるわけなくない?」
「あはは、そうだよね」
梶浦は、あーだりぃーと言い残して帰っていった。幸いにも、仲間が隠れてみているパターンではなかったようだ。
くそ!なんだよ!結局顔なのかよ!どいつもこいつも顔顔顔!顔がすべてじゃねーだろうがよ!
田中がここまで取り乱す理由はあった。それは中学一年の冬、クラスメイトの女子に一目惚れし、告白した時だった。
「あ、あのっ好きです、付き合ってください」
「ごめんね、私田中くんとは友達のままでいたいの」
そういって振られ、悲しくはあったが、友達としてなら認めてもらえたという事実に、そして、自分の顔や、体系が原因ではないと知り、少なくない安堵を覚えたのだ。
それから数日が経ったある日の出来事。当時から友達のいない田中は、一人で下校していた。その時、公園を通りがかると、例のクラスメイトと、別の女子生徒が話をしていた。
「そうそう、あんな顔なのに私にこくる!?分不相応ってもんでしょ!」
「わかるわーあいつ自分の顔がどの程度なのかりかいしてないんじゃない?」
この時、田中は気付いた。いや、気付いてしまった。彼女は、自分の顔を付き合うに値しないと判断したのだ。友達でいたい。などという言葉は、己の身を案じての保身だったのだと。
もしも田中に一人でも友達がいて、彼女は顔で人を選ぶような人間だと、校内に広まらないようにする彼女の計算だったのだ。
くそ!なんだよ!結局顔なんじゃねぇか!顔が悪いのがそんなに悪いかよ!てめぇの性格のほうがよっぽど悪いじゃねぇか!
次の日、田中は枕を買い替えた。
そして、今に至る。
もうあんな思いはしたくない。女なんて信用するもんか。そう思い、決意を新たにすると、田中も屋上を去っていった。
それから数日した、ある日の朝。
ん?なんか下駄箱に入ってるな。これは...ラブレターか?また悪趣味な奴がいたなぁ。
え~となになに、放課後、伝えたいことがあるので、屋上に来てください。か。
差出人も書いてないし、また罰ゲームか?それとも悪戯か?とりあえず放課後まで待って行ってみるか。
そう考えているときに、田中を陰から見つめる姿があった。
放課後、屋上。
おっせーなー。誘ったほうが遅刻ってどうなんだよ。こっちはとっとと終わらせてラノベ読みたいんだよ。お、誰か来たな。
「えーいいじゃーんここでシようよ」
「だれかいるじゃん、かっくん、やっぱ家にしよ?」
なんだよただのバカップルかよ。やっと来たと思って少し緊張したのに。舌打ちしながら行くんじゃねーよちゃんと家でヤれ。
そしてバカップルが去った数分後、見慣れない女子生徒が一人、屋上の扉から顔を出した。
やっと来たか。ていうか誰だこの子。見たことないな。てことは一年か。
その女子生徒は顔を伏せながら、少し早い足取りで、田中の目と鼻の先まで一気に詰め寄った。
「近い近い近い」
「あっごめんなさい」
なんだこの子。というかどっかで見た気が...あ、思い出した。クラスの陽キャたちが話してた、一年すっげー美人って噂の、結城 梨沙か。
彼女は、この学校してまだ日が浅いにもかかわらず、学年一、いや、校内一の美少女という噂があった。
うん、確かに顔は整ってるな。だけど、僕に嘘の告白をしにくるぐらいだから、性格はとても整ってるとはいいがたいな。
「それで、話って何?」
「はっはい...えっとぉ...あのぉ...」
なんだよ、罰ゲームならとっとと告白して真に受けてるよこいつキモーで終わりでいいだろ。無駄な時間使わせないでくれよ。
「僕あんまり時間無いから、用がないなら帰るよ」
「あ、待ってください!あ、あの...実は...」
なんだよ、ほんとに帰るぞ。まぁ、ここで帰ったらこの子の周りの人にリンチされる可能性あるから帰らないけど。
「実は...初めて見た時から、先輩のことが好きです!付き合ってください!」
なんだろ、この既視感。どっかでみたことあるような...。
その時、田中は思い出した。この子の必死な姿が、中学の時、クラスメイトに告白した自分の姿に似ていることに。顔は赤く染まり、緊張のあまり声の大きさを抑えられなくなり、腰は直角に曲がっている。
でもどうせ罰ゲームかなんかだしな、考えるだけ無駄か...。いつもの感じでいいかな。
「なんで僕に一目惚れなんてするの」
あれ、何聞いてんだよ。まさか期待でもしてるのか?今更?ありえない。僕はもう、女は信用しないし、期待もしない。僕を好きになる女なんて、この世にいるはずないんだから。
「そ、それは...その...」
「答えてよ、僕のどこに一目惚れする要素なんてあるの?」
やめろって。聞いたってどうせ全部嘘なんだから。女は信用しないんだろ。いつもみたいに無難にやり過ごせよ。
「一目見た時から、先輩のことばかり目で追うようになって...」
言うな。それ以上今の僕の壁を壊すような、心のバランスを崩すようなことは言わないでくれ。
「気付いたら先輩のことばかり考えちゃって...」
今まで必死に押し殺してきたんだ。それを全て無駄にするような、これから僕の人生を変えるようなことは、言わないでくれ...。
「それで気付いたんです、先輩が好きだって」
それまではずっともじもじしていて、田中の顔を直視できていなかった結城だが、最後の言葉だけは、田中の目をまっすぐ見つめてはっきりとした口調で言い切った。
あぁ、もう駄目だ...。僕はこの子に、冷たい言葉を、突き放すような言葉が浮かんでこない。
「そっか、すごくうれしいよ。これからよろしく」
そういうと、彼女は泣きだした。何度もよかったと言いながら。
そして二人は卒業し、しばらくしてから結婚した。子供もでき、幸せに過ごしていた、
「ねぇねぇ、ママはなんでパパとけっこんしたの?」
二人の子供の祐介が聞いた。
「それはね、ママが一目惚れして、パパに告白したからよ~」
「ひとめぼれってな~に?」
まだ幼い祐介には意味が分からない様だった。
「一目惚れっていうのはね、その人を初めて見た瞬間に好きになることよ」
祐介はつまらなそうにふ~ん。よくわかんないや。というだけだった。そして、玄関のドアが開き、ただいまーという声が聞こえると、そっちへ駆けていった。
「パパ、おかえり!ねぇ、なんでママとけっこんしたの?」
「急だなぁ...そうだな、ママがパパを好きだって言ってくれたからだな」
今度はわかりやすかったのか、二人に聞いて満足したのか、そのまま何も聞かずにリビングに戻っていた。
「あの時、なんて言って僕に告白したんだっけ?」
「もう忘れました!」
梨沙は顔を赤くし、鮮明に覚えていることを忘れたと、嘘を言い、台所へと少し歩調を早くして、消えていった。
そこで太郎は少し昔のことを思い出していた。たしかあの時は...なんだったっけな...等と、しばらくぶつぶつとつぶやいてから、何かを思い出した。
たしかあの時、梨沙は、僕のことを見て、一目惚れだと言っていた...。そのあとになぜかと聞いたら、顔で自分を選ぶ人は皆、顔が整っていたって言ってたな。
自分を本当に心から好きになってくれるのは、顔で選ばれず、また、顔で選ばない人しかいないと思ったから。とか言ってたな。
「ということは、結局顔なんだろ?」
いかがでしたでしょうか!恋愛物はあまり得意ではないですが、面白かったと思っていただければ幸いです!