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真珠綺譚

 さあさあどうぞ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!

 白髪のじいがこの露店にて商いまするは、どれも粒よりの宝石いしでござい。

 紅玉ルビィ蒼玉石サファイア緑柱石エメラルド……露店なれども値は高価、その分価値は折り紙つき! 虹を凝固かためてばらかしたような、光の彩のこの木台から、あなたは何をお選びなさる? さあさあ買った買った! 今ならくず宝石いしをとりどりに詰めこんだ、可愛い小瓶もさしあげましょう!

 ……ええ? お客さん、今なんとお言いだ? このじいのはめている、真珠の指輪がほしいとな!? いやいやそいつは勘弁だ、こればっかりは売れはしねえ!

 いやいやだめだ、どれだけ金子かねを積まれてもこればっかりは売らねえぞ! 気安く指にはめたと見えたか、これは俺のお宝なんだ! この老爺三十のとしからはめ通した、大事の大事の指輪なんでい! てめえのようなぶくぶくのおたふく指にはめられてたまるもんけぇ、とっととけぇれ!




 ……あーあ、今日はまったくひでぇ目に遭った。あれからお客もぷっつり寄らなくなっちまったし、早めに切り上げて帰ってきたが……。

 お? なんでぇ紅葉もみじ、そうけげんな顔をするねぇ。早帰りにゃあ訳がある。実はな、おめぇにもらった指輪をほしいとぬかす客がいてな、怒鳴りつけて追い返したらそれから客足がぱったりだ。

 お前の指輪のための早帰り、そう目くじらを立てるねぇ。

 ……しかしお前の腕は確かだね。二十歳はたちやそこらの「ど」のつく貧乏所帯の中で、職人のお前がこしらえた模造品イミテーションの真珠の指輪、それが成金ぎんぎんのお客の目に留まるたあねぇ。あのばばあ、最後まで本物モノホンの真珠と思ってやがったぜ!

 ……何でえ? 『本当を明かせば丸く収まったのに、馬鹿なひとだね』? はは、お前こそ馬鹿を言うねぇ! 『死んだ女房の形見です』なんて、こっずかしくて言えるけぇ!




 そう言って白髪の老人は、仏壇の前で高笑いした。

 小さな仏壇の正面で、白黒の写真に写るご婦人は――日本髪の黒々とした、二十三、四の美しい夫人は、つぶらな瞳を緩ませて柔らかな笑みを浮かべていた。(了)

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