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募集  作者: Nana
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第一話

 「や、めろ」


 暗い洞窟の中、地面に落ちたたいまつの光が反射し、巨大なそいつはうごめいていた。


 「やめてくれ」


 体が動かない。勇気がなかったわけじゃない。だが疲労と痛みで動くことができなかった。


 「なんでこんなことに、守るって、約束したのに...」


 薄れゆく視界で最後にとらえたのは彼女が引き裂かれる光景だった。


 目が覚めると俺は洞窟の外で倒れていた。

 記憶がない。どうやって外に出たのかわからない。

 洞窟には昼頃入ったが今はもう夜だった。


 「あなたは...生きて」


 血を吐きながら彼女が言った最後の言葉が頭の中から離れない。

 立ち上がり目的地もなく星が光る夜空の下をひたすら歩いた。

 自分だけが生きている罪悪感や彼女を守ることができなかった自分の弱さを感じながら。

 涙をこぼしながら。


 数時間歩いた。

 森に入りしばらく歩いたところでゴブリンに遭遇した。

 自身は武器を持っているわけでもない、対してゴブリンは木と石で作られた槍のようなものを持っていた。


 「クソっ。武器があったら!」


 俺はふっと笑った。


 「あっても扱えないか」


 地面に落ちていた石を拾い上げ、投げつけた。

 当然効果はない。


 「やっぱり、ただの人間には何もできないんだ」


 モンスターを前にして走馬灯のようにこれまでの記憶がよみがえる。


 一週間前、俺はこの世界に転移した。

 学校で授業を受け、睡魔と戦っていた俺は、ぼやけた目をこすった次の瞬間この世界に転移していた。

 たまたま目的があって助っ人を探していた彼女に出会い、調子に乗っていた俺は主人公気取りで彼女との冒険を始めた。


 「ありがとうございます、私、セレナといいます!」

 「よろしく、俺はカツトだ。俺に任せろ」


 今思うと来たばかりの何もこの世界を知らない分際でよくもまああんな無責任なことを言えたものだ。

 セレナはにこっと笑って答えてくれた。

 セレナの目標は昔から読んでいた「願いのラルグ」という本に出てくる五冊の魔のラルグを集めることだった。

 ラルグを五冊集めると死んだ人間を生き返らせてくれるらしい。


 「なんでそんなもんが欲しいんだ?」

 「私には、魔法を教えてくれた先生がいました」


 いた、というセリフから、何か複雑な事情があることに察しがついた。


 「いたってことは今は...」

 「はい、授業の一環で生徒を連れて森に入ったとき、モンスターに遭遇して生徒を守るために亡くなられました」

 「立派な先生だな、もしかしてその生徒って」

 「私です。森に行って実習をしたいと言い出したのも私です」


 セレナは自分が殺してしまったという責任を感じ、ラルグを見つけ生き返らせたいと考えていた。

 俺はそんなセレナの感じていた重い責任を見て見ぬふりし、ほとんど下心で協力した。

 今思えばもっとかけてやれた言葉があったはずだ。

 そんな無責任な行動の積み重ねが彼女を殺してしまうという結果に繋がってしまった。


 今、俺の目の前にはゴブリン。

 生きる気力をなくした俺は死を受け入れていた。


 「いっそ殺してくれ」


 迫るゴブリン、あと一歩で手が届く距離まで迫られ、槍が高く振り上げられた。

 そして、ゴブリンは槍を振り下ろした。

 死ぬつもりでいた。死にたかった。

 だが、人間としての本能はそれをゆるさなかった。


 「なん、で...」


 俺の手は槍をつかんでいた。

 死の恐怖から反射的に手を挙げていた。

 刃先を握った手から血が伝う。


 「生きてる、熱い」


 痛みと流れ出る血が伝う感覚で我に返る。


 「死にたくない、死ねない!」


 叫び、槍をつかんだままゴブリンに蹴り込んだ。

 ゴブリンは槍を手放し、十メートルほど後方に飛んだ。


 「俺は、ラルグを集めてあいつを、セレナを生き返らせるんだ!]


 仰向きに倒れるゴブリンに駆け寄り、胸に槍を突き刺した。

 しばらくしてゴブリンは動かなくなった。


 セレナを見殺しにし、まんまと一人洞窟から逃げ出したあの夜から約三年。俺は二十歳になった。

 自給自足の生活を送りながら誰かに教わるわけでもなくひたすら我流で鍛錬を重ねた。

 二度と同じ過ちを犯さないという強い信念のもとに。


 「よし、今日のノルマクリア!」


 目の前には三メートルほどの大岩がきれいに真ん中で割れていた。


 「こんなんじゃまだまだ駄目だ、もっと強くならないと」


 手には木を削って作った剣を握っていた

 この三年間の鍛錬で少しは剣も扱えるようになった。


 「いったん帰って食料探しに行くか」


 深いため息をつき、岩を後にして家に帰った。


 森の中を食料を探して歩く。

 ハナリ草にタンの実、リュックに食料を詰めていく。


 「助けて!」


 声のする方に振り返ると少女が俺にしがみついてきた。


 「なんだ!」

 「お願い、助けて!」


 少女の後ろから五人の男たちが走ってきた。


 「おい、それをこっちに渡せ!」


 少女が涙目でこちらを見る。

 面倒ごとに絡まれたようだ。

 三年もの間人間と接触していなかった俺は日脚ぶりの人間に戸惑った。


 「えっと。女の子を寄ってたかって追い回すのはよくないんじゃないか?」


 男たちは腰に下げた直剣を抜いた。


 「おいおいよせよ」

 「そいつはうちの商品だ。おとなしく渡せば悪いようにはしない」


 少女はとよく俺の服の裾を握った。


 (嘘だろ)


 おとなしく泣いている少女を渡すわけにはいかない。

 仕方なく目の前の屈強な男たちに短い果物ナイフで応戦した。


 (こんな頼りない武器しかないなんて!)


 剣を振り上げながら男二人が突撃してきた。


 「そりゃ!」


 俺はナイフを横に薙ぎ払った。

 悲鳴すら聞こえず二人の男が同時に肉片と血しぶきに変わる。


 「こ、これはどういうことだ」


 (人間も岩と同じ感覚で切れるんだな)


 後ろで指揮している一人だけ服装が異なる男が腰を抜かして倒れこんだ。


 「お前たち、かかれ!」

 「い、いやだ!」


 一人の男は悲鳴を上げ走って逃げた。

 もう一人の男は焦ることなく剣を握り走りこんできた。


 「きっと何かのいかさまだ、人間があんな死に方するかよ!」


 今度は走りこんでくる男に対し、ナイフを上から振り下ろした。

 地面に肉片と血が飛び散り、蜘蛛の巣状に散乱した。


 「残りはお前だけだな、どうする?」

 「ぎゃぁー!」


 男は何も答えず、震える足をたたきながら悲鳴を上げて走り去っていった。

 俺はふぅっとため息をついた。


 「よかった、あいつらが弱くて助かった」


 少女はぽかんと口を開けて俺のことを見つめていた。

 気まずくなったのでこちらから話しかけた。


 「これで大丈夫だろう。お前、どこから来たんだ?」


 少女は目の前にいる俺が悪魔ではなく人間だと再認識したかのようにはっと我に返った。


 「私はランリの村から来ました。」

 「ランリの村...。聞いたことがないな」

 「ここからは王都の反対をずっと向こうに行ったところなので知らなくても無理もないです」

 「帰れるのか?」

 「それは...」

 

 奴隷商人の一行にさらわれて以来、商品として運ばれてここまでたどり着いたらしい。

 当然一人で帰ることなんてできるはずもない。


 「よかったら送ってやろうか?」

 「いいんですか!」


 ちょうど鍛錬の成果を試してみたいと考えていたころだった。

 少しくらいは山から外に出なきゃいけないって思っていた。


 「ああ、だが、自分の命は自分で守れ、今回はたまたま敵が弱かったから勝てただけだ」

 「は、はい!」


 少女はにこっと笑って答えてくれた。

 その反応を見て、セレナの顔が浮かんだ。

 今度は守って見せる。そんな無責任なことを言うことは今の俺にはできなかった。


 「出発の前に腹ごしらえと身支度をしたい。一度家に帰るぞ」

 「はい、一緒に行きます」


 木陰が涼しく、時々差す太陽の光が温かくて心地いい山道を家に向かって歩いていた。


 「そういえば、お前なんて名前なんだ?」

 「私の名前はヒナです、あなたの名前は?」

 「俺の名前はカツトだ。よろしくな」


 二十分ほど歩いて家に着いた。

 家というか、小さな洞窟を軽く整備しただけの空間だが雨風がしのげるので俺は満足している。

 ヒナは普通の家を想像してついてきたのでびっくりしていた。

 ひとまず家に入りヒナの分も含め二人分の料理を作った。


 「ほら、タンの実のスープだ。こんなもんしかできなくてすまん」

 「いえ、そんな。ありがとうございます」


 奴隷として生活していたんだ、きっとまともな物を口にしていなかっただろう。

 本当は腹一杯食わせてやりたかったが一人分の食料と今取ってきた物しかなかった。


 「あんまりおいしくないと思うが、腹の足しぐらいにはなるとは思う」

 「そんなことありません、おいしいです。ありがとうございます!」


 ヒナは木製のスプーンを進めた。


 (随分と小柄だが、何歳なんだろ)


 「ヒナ、お前何歳なんだ?」


 ヒナは口に入れた分のスープをごくんと飲んでから答えた。


 「多分十七歳くらいです」

 「そうか。止めて悪かったな、どんどん食え」


 はいと言ってヒナトは食事に戻った。

 俺も続けて食事を始めた。


 腹ごしらえと身支度を整え出発の時が来た。

 必要な荷物を詰めた結果リュックはサッカーボール四個分くらいになった。


 (今までこの家にはいろいろ背派になったな)

 

 振り返り、ヒナを見る。

 ぼろぼろの奴隷装束だ。


 「ヒナの故郷に行く前に服を何とかしないとな」


 目的地は一番近くのランカ村。

 セレナと最初にあった村だ。


 「それじゃあ行くか!」

 「よろしくお願いします!」


 半日ほど歩き、太陽が沈みかけているころ、山を下りて村に到着した。

 住人は四十人ほどの小さな村だが、長旅の準備をするのに必要なものはある程度そろっていた。


 「まずは寝床の確保だな」


 村には着いたがもちろん金はない。

 村の入り口まで来て野宿だ。


 「ひとまず今日は野宿だな。小さな村でもギルドくらいはあるはずだ、明日そこへいこう」


 ギルドとは登録することで仕事とそれに似あった報酬をもらえるハローワークのような機関のことだ。

 長旅をするにはある程度準備がいる。国路の通貨料もかかることだ、ある程度の金は要る。

 今日はとりあえず野宿をして明日仕事をこなし、ある程度の軍資金を入手する計画だ。


 「このあたりでいいか」


 村に続く小道のわきで薪を焚いて陣取り、動物の皮から作った寝袋を俺とヒナの分二つを薪をまたいで川の字に敷いて寝た。

 冬が明けた春の夜だがまだ少し寒い。


 「風邪をひかないようにな」

 「はい」


 寝苦しい中数分が過ぎた。

 一応女の子だ、ある程度適切な距離をとってここまで来たが。


 (近い!)


 薪をはさんで二メートルほど離して敷いていた寝袋がぴったりくっつけられていた。


 (あえて離しなのになんで移動してるんだヒナ!俺をからかっているのかヒナ!)


 脳内で煩悩と格闘していると。


 「兄さん...。」


 ヒナの腕が俺の体にまかれていた。


 (なんだ夢を見ているのか...)


 くだらない思考を巡らせるのはやめ、俺も明日に備えて寝ることにした。

 もちろん寝袋の位置を変え、ヒナとの距離を適切に開きなおして。


 (なかなか眠れないな)


 山以外の場所で寝るのは三年ぶりだ。

 普段住み慣れた洞窟以外での睡眠は落ち着かないものだ。


 「ふぅ、やっぱ寒!」


 星を眺めていた目に冷たい夜風が染みる。

 寝袋に顔をうずめ、早く寝てしまうことにした。


 ・・・


 夜が明け、体が徐々に目を覚ます。

 朝になって日が出たからか寝袋の中が熱くて狭い。


 (ん、狭い?)


 焦って寝袋を開くとそこにはヒナがいた。


 「ヒナ!なんで、え?」


 昨日はあの後すぐに寝た、ヒナに関しては俺より先に寝ていたはずだ。


 (それなのに、なんでヒナは裸なんだ!)


 俺の目の前には裸の少女。

 あと数センチ動けば色々見えてしまいそうな状況だ。


 (やばい、俺の理性が欲望の緊急アラームを鳴らしている!)


 しかし、アラームは強制終了させられた。


 「うぅん、カツトさん。おはようございます」


 なんとおヒナが起きてしまったのだ。

 欲望の緊急アラームから変態確定アラームに変わる。


 「お、おはよう...。ヒナ、これは違うんだ!」


 ヒナは何のことかわからないという顔でこちらを見つめていた。

 だがしばらくして自分の格好に気が付き、焦って寝袋で隠した。

 焦って俺も後ろを向く。


 「ごめんなさい!」

 「い、いやこっちこそ悪い!」


 つい昨日旅を始めたばかりの二人にはあまりに重すぎる試練だった。

 空気は最悪、立て直しは不可能かと思われた。


 (おいおいどうする、慌てて後ろを向いたが言葉が出ないし面と向かうことすらできない)


 後ろからは物音、おそらく服を着ているのだろう。

 なんて話しかければいいかわからず硬直状態になってしまった。


 「ご、ごめんなさい、私、脱ぎ癖があるんです」


 少女の柔肌を見てしまうという禁忌を犯したことにお叱りを受けるかと思ったが違った。


 「は?」

 「しばらくこの奴隷服一枚で過ごしてきたので...]


 ヒナの着ている服はよく漫画なんかに出てくる奴隷服そのもので布一枚だった。


 「着ていても着ていなくても同じような感覚なんので、寝ているうちに脱いじゃうんです」


 (なんだと!つまり俺はヒナを故郷へ送り届ける旅の間、毎晩少女の裸体を見ることができ、いや。見てしまうという罪深い行いをしなければならないのか!)


 心の中で神に感謝、もとい懺悔した。


 「な、なるほど。その癖は治さないといけないな」

 「はい...」


 ヒナトはしょぼんとした。


 「それじゃあ、俺の寝袋に侵入したのも寝相か何かか」

 「いえ、それは意図的です」


 (なに!)


 「なんでそんなことを?」


 この世界に転移したばかりの若いころの俺だったらきっと勘違いして舞い上がっていただろう。

 だが現実というものは残酷だ。そんなわけがない。


 「カツトさんに初めて会ったあの日、私はその優しい心と底知れない強さに一目ぼれをしました」


 (まじか、二十歳にもなってこんな少女に心を撃ち抜かれてしまうのか俺!)


 ヒナは大きく息を吸った。

 彼女の言葉の続きを聞くと完全にアウトだと感じた。

 俺は耳をふさごうとしたが間に合わなかった。


 「私をカツトさんの奴隷にしてください!」

 「...。」


 (うん聞かなかったことにしよう)


 「なんて?」


 「私をカツトさんの奴隷にしてください!」


 聞き間違いでもいい間違いでもない。彼女は俺に奴隷にしてほしいといったのだ。


 「なぜ恋人ではなく奴隷なんだ!」

 「恋人だなんておこがましい、私ごとき奴隷で十分です!」


 なんというトークだろうか。

 奴隷としての生活を送ってきたせいか、ヒナは恋人という上位の地位にに上がろうとはしなかった。


 「俺は別に恋人でもいいと思っている。ヒナは嫌なのか?」


 まだ関係は浅いが、セレナの面影からなのか、守ってやりたいと強く思わされた。

 何より俺のタイプドストライクだった。


 「は、恥ずかしいです...」


 そのヒナのかわいらしい表情にズッキューンと大きな効果音を鳴らし、俺の心は盛大に撃ち抜かれたのだった。

 ヒナとの関係は恋人(仮)ということになった。


 「それじゃあ、いろいろあったが、今日も一日頑張っていこうか!」

 「はい!」


 何をするにもまずは金を得なければならない。

 ギルドに向けて俺とヒナは足を進めた。

初めまして。今回から投稿させていただくNanaと申します。


図々しいながら小説の題名が決まらなかったんので募集したいと思います。

どうぞよろしくお願いします!


この小説は小説家になろうで投稿されている「るちあ」さんとの勝負を目的に投稿しています。

そちらの作品も読んでいただけると嬉しいです。


投稿ペースは一週間おきほどになってしまいますが、これからどうぞよろしくお願いします!


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