ある“元”ダンジョン経営者の恨み節
『当ダンジョンは閉抗しました』
そう書かれた立看板を入り口にブッ刺して、俺はようやく一息ついた。
ようやく、このクソ忌々しい不良物件から解放される。――俺の心の中には、清々しい事この上ない風が吹いていた。
俺が、このダンジョンを祖父から相続したのは3年前。相続した時は、ウハウハだったよ。
何せ、世は空前の冒険者ブーム。石を投げれば冒険初心者に当たると言っても過言では無かった。難易度Eのウチのダンジョンなら、初心者にもうってつけ……入門用として、多くの冒険者見習い達の需要を見込める……そう踏んでいた。
まったく、脳天気な……当時の俺が目の前に立っていたら、存分に嗤い飛ばしてやるところだ。
最初は順調だったよ……2週間くらいはな。
その後は――地獄だった。
毎日のように、苦情の手紙が届き始めたからだ。
曰く、
『モンスターが弱すぎて経験値が入らない』……ウチは、E難度の初心者向けダンジョンだ。経験値が欲しかったら、街向こうのシャドリクさんトコのダンジョンにでも入れ。
『モンスターが多すぎて死にそうになった』……だから、ウチはE難度のダンジョンだ。ウチのダンジョンで死にかけるんだったら、潔く野良着に着替えて畑でも耕してろ。
『ダンジョンの中が暗い。照明くらい点けて下さい』……ダンジョンは暗いモンなんだよ! 照明完備が良ければ、魔王の城にでも行ってこい。
『ジメジメして不衛生。感染症が心配』……ダンジョンはジメジメしてるもんなんだよ! 感染症云々言うんだったら、家に籠もって出てくんな!
『管理人が無愛想で暗い。将来が心配』……余計なお世話だ! つか、ダンジョン関係ねえ!
……とまあ、こんな感じだ。
どいつもこいつも、冒険者の皮被った温室育ちの坊ちゃんお嬢ちゃんばかりだった。
だが、俺は努力した。
少しでもお客様共の満足度を上げようと、色々工夫したさ。
隣のダンジョンからこっそりパクってきた強めのモンスターをダンジョンに放してみたり、わざわざ恒久照明を仕入れてダンジョン内に設置したり、毎朝ダンジョンに潜って、丹念に掃除したり、自己啓発セミナーに通って、笑顔の練習に勤しんだり……。
それでも、数字はなかなか上がらなかった……。
――で、先週、新しい手紙が来たのさ。そいつが決定打だったな。すっかり馬鹿馬鹿しくなっちまった。
え? 何て書いてあったかだって?
――『小綺麗過ぎてダンジョンらしくない。冒険者を舐めている』――だってさ。