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chapter20: 奈落の反旗

ようやく俺が落ち着きを取り戻したところを見計らって、ヨナたちが説明してくれた。俺を助けるために奈落の住民たちが協力してくれたらしい。ただ、そうなると正式に国と対立してしまうためその話し合いは揉めに揉めたらしいが、そこをヨナが取りまとめてくれたそうだ。その功績からこの救出作戦の中心人物としてヨナがとりまとめているそうだ。あのヨナが人を動かすような存在になってしまったことに喜びと寂しさを覚える。どこか遠い存在になってしまったような気さえする。


「もう心配したんだから。こんな無茶はもうしないでよ!! 」


ヨナがそう言った。その表情は今にも泣き出しそうなほど感極まっていた。それでも必死に感情を抑えようと拳をぎゅーっと握り締めている。


俺は、聖救神愛(エプリオールハイレン)で自分の身体を治した。痛みが引いてゆく。右手も以前と変わらない白い肌に戻った。


「嬢ちゃんたち悪いな。もうちょっとゆっくりさせてあげたいが、敵さんも体勢を立て直しつつある。すぐに撤退するぞ。」


俺とヨナは顔を見合わせてから、シルヴァさんの方を向いて頷いた。


===========================================


マルコの部屋を後にして奈落のみんなと合流するため館を移動する。みんなは館を中心に放射状に展開しているようで、それぞれの持ち場で戦っているようだった。戦いなのだと嫌でもわからせられる。血の匂いや人の悲鳴が聞こえる。誰も傷つけずになんとかすることができない現実に胸が痛むが、だからといって自分にはどうすることもできない。考えても答えがでないことに悩んでいても仕方がない。今更亡くなった人を復活させる手段がないように、今できることには限界がある。ならば、最善を尽くすよう努力するのみだ。


「お前たちどうだ。外の様子は? 」


ようやく奈落の住民たちが集まる場所に移動すると、シルヴァさんが言った。ちょうど館内の玄関にあたる場所だった。玄関の扉を盾に人が入ってこないように応戦しているような状況で、素人目にも苦戦しているのがわかった。


「予想外にあいつらの立て直しが早かったせいで、囲まれてしまってます。」


「腐っても正規軍ってことか。」


シルヴァさんが恨めしそうに言った。そうして顎に手を当てて考え込んでいる。この状況を打破できなければ全滅もあり得る。俺のためにみんなが来てくれたのだから、できることをしようと近くにいた負傷者に聖救神愛(エプリオールハイレン)で治療していく。


「逃げるのが難しいならいったん立て籠もろう。みんなをひとところに集めたら、私の力でみんなを守るからそのまま固まって一転突破はどうかな。」


ふと、ヨナが言った。私の力? ナニソレ? と負傷者を治療するためしゃがんでいた俺はヨナを見上げた。ちょうどシルヴァさんも『ちょっと考えさせてくれ』と検討中の様子だったので、ヨナが教えてくれた。


どうも俺と別れた後恩寵(ギフト)と呼ばれる力に目覚めたらしい。恩寵(ギフト)は、神より与えれられる。生まれ持ったスキルのことで、持っている人は2つ以上もっているが持っていない人もいる。ヨナの能力は周囲を光の壁で守ることができる能力と神様の言葉を聞くことができるらしい。


ちなみにマルコが言っていた異能(アイオン)は、異世界からやってきた人間やこの世界にある迷宮(ダンジョン)と呼ばれる神様が用意した試練をクリアした人間が得られる特殊な力らしい。恩寵(ギフト)は先天的な力で、異能(アイオン)は後天的な力だそうだ。異能(アイオン)恩寵(ギフト)を見分ける方法は、俺には難しい内容だった。ヨナたち現地人からすると恩寵(ギフト)は、魔法で再現可能な能力で、異能(アイオン)は魔法で再現できないような神の奇跡に近い力を使えるとのことだった。


「ヨナちゃんいい案だと思うが、そんな広範囲に使えるのかい? 」


俺とヨナが話しているうちに、シルヴァさんも考えがまとまったようで言った。


「短時間なら大丈夫だと思うし、何とかもたせてみせるよ。」


気合いな部分がだいぶ多そうだが、ヨナの提案が一番の打開策のようでシルヴァさんも『それなら問題ない』と言っていた。

シルヴァさんの号令で散り散りになっていた奈落の住人たちが徐々に集まりだした。


そして―― 。


「みんな集まったね。絶対防御(アイギス)


ヨナがそう叫ぶと俺たちの周囲が光の膜のようなものに包まれた。それは円形に取り囲んでいる。


「みんな! このまま扉を開けたら私について来てね。敵が攻撃してきても私の力で守れるから心配しないで!! 」


「「「おう!! 」」」


ヨナの呼びかけにみんなが答えた。そして、ヨナが先頭になって歩いていく。館の扉をあけると、無数の矢が飛んでくる。


「なんだ。あいつら一点突破するつもりか。いい的だな! 」


「って。なんだアレ。矢がはじかれてやがる。」


「剣も通らないぞ! 」


「なんだこれは…… 。」


マルコの館を取り囲む兵士たちが動揺している。矢を放っても光の壁に阻まれて空中でその方向を変えてしまう。遠距離攻撃がきかないため、接近しようとするも光の壁にぶつかり近づけない。邪魔な壁を取り払おうと剣で切ってみれば弾かれてしまう。


兵士たちの間で混乱が見られる。敵が逃亡しようとしているにも関わらず、自分たちの攻撃は当たらないのだから困惑するのは当然だろう。そんな状況を見かねた後方の指揮官と思われる兵士が言った。


「ま、魔法だ。魔法を撃て!! 」


「やったか。」


「なっ。きいてないだと。」


火の玉や光線のような攻撃が俺たちに降り注いだ。だが、それらすべてが光の壁のお蔭で俺たちの行軍に何ら影響はない。ただ、ヨナの足取りが徐々に遅くなっているのが気にかかる。その表情を見れば、普段のヨナであれば軽く踏破できる距離にも関わらず、汗を流し疲弊しているように見える。


「ヨナ。大丈夫? 」


「だ、だいじょうぶ。だよ? 」


ヨナの恩寵(ギフト)は魔力を消費する。俺の異能(アイオン)も魔力を消費するが、使いすぎれば頭がクラクラして身体が極端にだるくなる。それでも力を使い続ければ、やがてプツンと意識が途絶えてしまう。

今のヨナの状態は魔力を失った時の症状と酷似しているように思えた。ヨナは明らかに無理をしているとわかるほど息も絶え絶え(たえだえ)になっている。それでもヨナが『大丈夫』と言っているうちに進むほかない。このままヨナが力尽きてしまえば、俺たちの大半は生きて奈落に帰れないだろう。それほどに敵の数が多すぎるのだ。


「進軍のスピードが遅くなっている。効いているはずだ。そのまま攻撃し続けろ!! 」


敵の指揮官も馬鹿ではないようで、俺たちの状況を察して先手を打ってくる。


「うぅっ。」


攻撃の弾幕があつくなるほどヨナがつらそうに顔を歪めた。光の壁が徐々に明滅を繰り返しはじめ、いよいよ限界がきたようだ。この光の壁が消えてしまえば、俺たちにできることはこのまま一転突破を狙うしかない。多数の犠牲が出るだろうが、この包囲網を突破するにはそれしかない。

その時だった―― 。どさっと音がする。ヨナ崩れ落ちる音だった。それと同時俺たちの動きは一瞬止まってしまった。この機を逃すまいと指揮官が号令をかけようと手を振り上げている。


「そこまでだ! 」


突然轟く声に俺たちだけでなく敵の指揮官も驚いて硬直した。そしてすぐに声の主へと視線を巡らせた。


「アーサー!! 」


声の主はアーサーだった。アンナさんの依頼で上の町に手紙を届けたことがあった。その宛先の人こそ、アーサー・ゴドロワ・シャルルマーニュだった。俺とヨナの夢を叶えるために必要な信念を、その夢を叶える具体的な道を考えるきっかけをくれた人だ。


「同じ国の仲間同士で争って何の意味がある? 双方矛を収めるがいい。」


アーサーの声に敵の兵士たちにどよめきが生まれた。その動揺はこちらも同じくで奈落の住民たちの中からも困惑の声が沸き上がった。それほどの有名人物なのだろうか。


「そいつらはマルコ様を殺した。反逆者だぞ。

アーサー。反逆者の味方をするというのか。」


指揮官が言った。


「先に手を出したのはマルコと聞いたが? 」


アーサーはどこから話を聞いたのか、俺たちの状況を把握しているようだった。


「マルコ様は陛下のご命令通り動かれたまでよ。陛下の勅命に逆らう蛮族共に正義などあるものか。」


「これを聞く限りマルコ様にも非があるように聞こえるがそこら辺はどうなんだ? 」


シルヴァさんが俺とヨナに聞けるようにこっそり教えてくれた。

アーサーが手に持っている貝殻のようなモノは音を記録する魔法道具があって、ボイスレコーダーと同等の機能をしてくれていたようだ。実はこんな事態になる可能性を予見していたアンナさんから録音できる魔法道具を預かっており、それを使って奈落の平場で起こった事の顛末を録音していたそうだ。その情報をアーサーに手紙で伝えており、今回の救出作戦の協力を仰いでいたらしい。


ボイスレコーダーの機能を持った魔法道具をアーサーが起動すると、声が聞こえてくる。その内容は、奈落の平場でマルコが行った一連の横暴な顛末だった。しかし、この証拠を聞いても指揮官の意見は変わらなかった。


「陛下の勅命であればこんな出来事は些末(さまつ)なことよ。 」


「帝国の法律に当てはめても今回の件は行き過ぎた行為だったと思うが…… 。もはや話し合いの余地はないか。」


「正義は我らにある!!! 奈落の住民は絶対に逃がすな!!!!! 」


その言葉と共に魔法に矢が飛んでくる。無数の攻撃は豪雨のように俺たちに降り注いだ。


破刃(はじん)


そう言うと、いつの間にか俺たちと敵のちょうど中間地点にアーサーが移動しており、大きく剣で振り払ったように見える。すると、凄まじい暴風が吹き荒れる。その風が吹き止むころにはすべての矢と魔法は消滅していた。


「アーサー貴様。帝国を裏切るつもりか。」


「お前たちが法も意に返さないと言うならば、俺は彼女らに助力しようじゃないか。それに俺は()帝国騎士団長なのでな。今はしがない一般市民さ。」


そう言うとアーサーは敵の兵士たちに注意を払いながら俺たちの方に後退して近づいてくる。ある程度兵士たちと距離をとった。


慟哭烈風(どうこくれっぷう)


縦の一閃、横の一閃。突きの三連撃だった。俺の目から見ても遅いその動作は空間に斬撃を残している。最後の突きと同時に今まで斬撃がすべて重なるように風圧となって敵に襲いかかる。風を固めた鉄球をつめた大砲を撃ったような衝撃音と共に、敵が吹っ飛んでいく。その威力を前に兵士たちがパニックになって逃げ惑っているぐらいに強烈な破壊力があった。


「今のうちだ! 切り抜けるぞ!! 」


アーサーがそう叫んだ。今のアーサーの一撃で敵は戦線が崩壊している。今の状況では俺たちを攻撃することができなさそうである。指揮官でさえ呆然としているよう状態だ。俺はヨナの肩を抱えながらみんなと一緒に奈落に向けて走り続けた。

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