表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/22

SUB-chapter19-A: ヨナの目覚め

時系列はchapter18直後です。

ヨナの視点となります。

読み飛ばしても本編は問題なくわかるようになっています。

【ヨナ視点】

イリスがマルコと呼ばれる貴族の男に連行されてしまった。私は自分の無力さが恨めしい。イリスと出会うまで奈落を変えたいと願うだけで何もできなかった私が、彼女と出会って変われた気がした。何もできない私でも、現実を変えることはできるのだとそう思っていた。


でも今は違うとわかる。私はなんて愚かなんだ。イリスと一緒に夢を実現していると思っていたが、結局のところすべてはイリスの力なんだ。イリスが私の夢を少しずつ実現してくれただけで私は何もしていない。


それは薬草を栽培に始まり、ポーションを創り、それらから得たお金で奈落は大きく変わった。そこに私は必要なかったのだ。きっと私がいなくてもイリスは同じことをしただろうし、できただろう。じゃあ私は一体この夢のために何ができるのだろう。奈落を良くしたい。そう思い。それを可能にするために皇帝になりたいと思った。でも、私は口だけで何もできないし、イリスみたいな特別な力もない。


もし私に力があればイリスが守れたのに。そもそも、私がでしゃばらなければイリスがあの場で目立つこともなかったのだ。ならば、今回の一件すべて私のせいじゃないか。


あれからそんな考えに紋々としていた。それでもおばあちゃんもイリスもいない今。住民たちはおばあちゃんの孫である私に意見を求めてくる。こんな私に何ができると言うのか。


家の中で円になるように人々が集まっている。そしてみんなが思い思いの言葉を紡ぐ。


「イリス様を助けに行くべきだ! あの方のお蔭でこの奈落は生まれ変わったんだ。」


「イリス様のお蔭で儂は生きられておる。この命イリス様に捧げるのに何の躊躇もないわ。」


「息子はイリス様とヨナ様がもらってこられた食料のお蔭で元気になりました。だから、どうか助けに行ってくれませんか。」


「いや、ダメだ。マルコという貴族と争えば帝国を敵に回すことになる。そうなればこの奈落は潰されるだろう。帝国の軍勢を退けるほどの戦力がない。」


「そうだそうだ。イリス様もそういった争いを起こさないために、自らを犠牲になされたのだぞ。」


「犠牲って! 縁起でもないこと言わないで!! 」


思わず叫んでしまった。イリスを助けようと言う者と、イリスを助けないという者。この2つに意見が分かれている。前者は、イリスへの恩から助けたいと考えており、後者はイリスを助けることによって帝国と戦争になることを恐れているようだった。わたしとしてはイリスを今すぐにでも助けに行きたい。でも、それを叶える力がないのだ。力のない私が今奈落を飛び出してもイリスを救うことはできない。その事実が私の心を重くしていくのだ。


「す、すみません…… 。」


住民の1人が謝罪した。別に謝ってほしいわけじゃない。気まずくなったわたしは席を立つと家を出た。


太陽が地平線に沈み始めていた。イリスが連れ去られる前は太陽は頭上にあったから、もうそんなに時間がたってしまったのかと気持ちが焦りだす。

外の風にあたりながら気持ちを静めようとするが、収まるどころか強くなっていく。


「嬢ちゃん。ちょっといいか。

嬢ちゃんはどうしたいんだ?」


背後から声がした。振り向けばシルヴァさんが立っていた。


「わからない。私に力があれば今すぐにでも助けに行きたい。でも私にはそんな力がない。おばあちゃんみたいに恩寵(ギフト)を持っていればよかったのに。」


そう。おばあちゃんは恩寵(ギフト)を持っている。その昔迷宮(ダンジョン)攻略の経験もあるらしく、異能(アイオン)も持っているらしい。おばあちゃんのように恩寵(ギフト)異能(アイオン)を持っていればわたし1人でもイリスを助けられたのに。


「そうか。確か嬢ちゃんは恩寵(ギフト)を持ってないのか。でもな。特別な力がなくたって。イリス様を助けることはできるぞ。ほら。」


シルヴァさんが自身の背後を指さした。そこには、先ほど話し合いをしていた住民たちが見える。力がなくてもみんなで力をあわせれば、イリスを助けることもできるだろう。でも、それをすればマルコとかいう貴族の男を兵士が警護している。その兵士たちと戦闘の素人である奈落の住民がぶつかればどうなるか予想することは簡単だ。


「でも! 助けに行ったら犠牲者が出るかもしれないし。それに! 帝国が攻めて来たら対処のしようがないなら、イリスを助けてもすぐその後には死が待っていることになるじゃない!! 」


イリスを助けるときに帝国の貴族と戦うことになる。そうなれば、帝国に反乱したと思われても文句が言えない。最悪帝国から攻められれば奈落はすぐにでも陥落するだろう。そうなれば、イリスを一時的に助けれてもすぐに全員死ぬことになるだろう。


「そうだ。でも人の上に立つ者ならば、決断することも必要な力だ。奈落の住民を捨てるのか、イリスを捨てるのか。これはそういう選択肢だ。」


「そんなの私に決められないよ…… 。うぇええええええええええええええええん。」


おばあちゃん助けてよ。わたしはどうしたらいいの? わからない。イリスを助けたいのに助けられない。しかもわたしのせいでこうなったのだ。そんな気持ちがあふれてとまらない。


「泣くな! 泣いても何も解決しない。それに悩んでいる今この瞬間もイリス様は苦しんでいるのだぞ。貴族に捕らえられた奈落の住民がどうなるのかはお前も知っているだろう。」


頬に痛みが走った。シルヴァさんの骨と皮だけの手が見えた。ぶたれたのだと理解しても涙はポロポロ止まらなかった。


「俺から言えるのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そのことを胸に焼き付けてよく考えることだな。」


シルヴァさんは苦虫を噛み殺したような表情で会議に戻っていった。わたしはその場で横になって涙がつきるまで声をあげて泣いていた。


===========================================


いつの間にか眠ってしまったようだ。白い床に白い空。白で世界を塗りつぶしたような場所にハッとなった。ここはどこだろう? そう考えていると目の前に1人の女性が現れた。


「おはようございます。あなたがヨナちゃんですね。」


その澄んだ声と容姿に視線が釘付けになる。彼女が何もない場所から急に現れた疑問が吹き飛ぶほどに綺麗な人だった。金髪の髪はどこかイリスの髪色と似た雰囲気を感じる。背中から見える翼を見れば奈落の神殿にある石像の天使様のような姿だった。


「あなたは…… だれ? 」


神聖な場所にいるのだと気が付くと緊張で声が震えた。


「私はゴモリー。そうねぇ。簡単に説明すると、イリスちゃんの母親ってところかしらね。」


「イリスのママなの? 」


イリスは奈落の近くにあった山奥で出会った。イリスはどこから来たのか問いかけたことは何度もあったが、答えてはくれなかった。なぜなのか今ようやく理解した気がする。確かにこの場所から来たのだとしたらわたしたちに説明のしようがないだろう。


「似たようなものね。それより、ヨナちゃんはどうするつもりなの? 」


ゴモリーと名乗る天使がそう言った。この質問は『イリスを助けに行くか』どうかについて聞かれているのだと直感した。


「わからない。どうすれば良いかわからないの。」


「じゃあ、話を簡単にしましょう。あなたに力があってイリスちゃんを助けられるなら、イリスちゃんを助けたい? 」


「もちろん! でも…… 。」


力があったならイリスを助けたいに決まっている。今すぐにでも向かいたいほどだ。でも、力がないから困っている。


「わかっているわ。現実はそう簡単じゃない。迷えるヨナちゃんに1つ助言をしてあげる。

アンナ・ハインリッヒ。あなたのお婆様ね。彼女は預言者(ソーサラー)という恩寵(ギフト)を持っているわね? 」


「うん。」


「ヨナちゃんが今この空間にいるのは、お婆様と同じ預言者(ソーサラー)という恩寵(ギフト)の力なのよ。だから、あなたも力は持っているの。ただ、目覚めていないだけ。」


「おばちゃんと同じ力がある? でも、預言者(ソーサラー)は神様からのお言葉をもらう力。神様の意向や助言をもらえて、その発動は神様次第でいつかになるかわからない。って。()()()()! 」


驚いた。自分もおばあちゃんと同じ力があることに。と同時に落胆した。この力は神様の言葉を聞くことはできるが、この状況で役に立つ力とは到底言い難いからだ。もっと戦闘に役立つ力がほしかったというのが正直なところだ。


「そうよ~。じゃあ、そんな私から言わせてもらえばヨナちゃんには()()が足りないのよ。」


「夢を実現する覚悟ならあるつもりだったけど…… 。」


アーサーと出会い。ただの夢を実現するためにどうすれば良いのか。イリスと一緒に考え続けた。そしてそれらを実行してきたから、そういった覚悟はあると思う。


「ないじゃない。イリスちゃんとヨナちゃんは奈落を良くしたいのでしょう。そのために行動したわ。でもね。その結果帝国の秩序は崩れつつあるわ。

これを見て。帝国は奈落という下層階級を作ることで、市民の不満を抑え込んでいたのよ。

自分たちより貧しい人間がいれば自分たちはあの人たちよりマシと思えるのが人間みたいね。奈落と言う場所を作ることで、レオ・バスティーユのような暴君の圧政であってもその不満は抑圧できるってわけね。現政権に歯向かえば自分たちも奈落に落とされるってね。

でもね。言い方は悪いけどイリスちゃんとヨナちゃんが奈落を良くしたせいで、奈落に落とされる恐怖は前により減ったわ。だから現政権に対する反乱の機運はかつてないほど高まっているわ。」


空間に絵画のようなものが表示されて、その絵画の中で人々の暮らしや会話が聞こえてくる。それらは映像と呼ばれるもので、その映像から人々の不満が皇帝に向きつつある現実を知ることができた。


「わたしたちがやってきたことは無駄なの!? 」


「違うわ。立派なことをしたと思うわ。でも、何かを救うってことは何かを救わないってことなのよ。あなたちは奈落を良くしたいと思ったけど、それは()()帝国を良くしないということなのよ。」


「む、むずかしい。」


奈落の生活が良くなればそれで良いと思っていた部分は正直ある。皇帝になることができれば、今後第二の奈落を作る可能性をなくすことができるから、それですべて解決すると思っていたがそんな単純な話ではないようだ。だが、この問題をどうすれば良いのか。その解決策が浮かんでこない。どうすれば良いのだろうか。


「そうね。ヨナちゃんの選択はどっちを選んでも正しいし、ある面では正しくないのよ。だからこそ、あなたが心からしたい方を選ぶことが大事なのよ。」


ゴモリーがそう言うと、徐々に世界が歪み始めた。それはまるで世界に霧がかかったような徐々に意識が遠のいていくような感覚。


「ま、待って!! まだ…… 。まだ聞きたいことが!! 」


そう叫ぶがどんどんゴモリーとの距離が離れてゆく。


===========================================


目を覚ますとわたしは会議をしていた家の目の前で立っていた。立ったままあの白い世界に行っていたようだ。太陽を見れば先ほどと同様に地平線に太陽があることから、さほど時間は経過していないようだ。

ゴモリーと話したことが少しだけわかったことがある。私が何をしたいのかそれに正直になろうと思った。


「ごめんなさい。声を荒げたことも。会議中に飛び出したことも。」


家に戻ると頭を下げて言った。


「仕方ないさ。あなた様にとって大事な人が立て続けに連れ去られたのだから。」


怒鳴ってしまった人がそう言った。


「そうだ。俺がヨナ様ぐらいのときには難しい話なんて聞いちゃいられなかったぐらいだぜ。それに比べりゃヨナ様はちゃんとしてる。」


「お前と比べたらヨナ様に失礼ってもんだろ。」


「おい!! てめぇにだけは言われたくねぇわ。」


「ぶふっ。あはっはっ。」


住民たちのそんな掛け合いが面白くて噴き出して笑ってしまった。これから伝えようとしていることにちょと緊張していたが、そんな気持ちを吹き飛ばしてくれた。やっぱりわたしはこの奈落も大好きだ。だから、奈落ももっと大好きなイリスも両方救う道を絶対見つけると心に堅く誓った。


すると、心の奥底から1つの言葉が浮かんだ。絶対防御(アイギス)。それは光の壁を結界のように張ることで中にいる者を守る力だと理解した。恩寵(ギフト)が開花した際はその能力を自然と理解できると言うがこういうこだったのか。


「ヨナ様も落ち着かれたようだし、会議の続きを始めようか。」


シルヴァさんがそう言うと改めて会議が始まった。話題は先ほどと同様の話題が繰り返される。

だが、今は自信を持って言える。今しがた目覚めた恩寵(ギフト)であれば今後の戦略に大いに役立つことを、そしてイリスを救うのに必要になると。


「わたしはイリスを助けに行きたいと思う。」


わたしがそういうと周囲が一瞬ざわついた。


「ヨナ様お気持ちはわかりますが、イリス様を助けるということは帝国と…… 。」


住民の1人がそう言った。


「わかってる。でも、戦いましょう。だって、帝国は私たちを見捨てたんだよ。この奈落の状況を見ても助けてくれなかった。そんな帝国から救ってくれたのはだれ? イリスでしょ?

それに、帝国と戦うことも決まったわけじゃない。最後まで戦わないように動いてそれでダメなら戦おうよ。


それに何より、みんなイリスを助けたいからこんなに話合って悩んでる。だったら助けてからこの先のことを考えていこうよ。イリスと一緒に。」


みんなを説得できるかはわからない。でも、わたしは思いのたけをすべてぶつけるつもりで言った。どんな反応が返ってくるのかと恐る恐る周囲を観察すれば意外とみんな静まり返っていた。その静寂を破ったのはシルヴァさんだった。


「帝国との戦う可能性について根本問題は解決していないぞ。」


「1つ私に策がある。これを見て。」


先ほど開花したばかりの力を使ってみる。心の中で絶対防御(アイギス)を使おうと念じると、わたしを囲うように光の壁が展開された。この壁はみんなにも見えているようで驚きの声があがる。


「これは―― 。恩寵(ギフト)か。ほぅ。これは以前似たような魔法を見たことがあるぞ。結界魔法のような力か。」


シルヴァさんが驚愕に口をあけている。ついさきほどまで恩寵(ギフト)がないと言っていたのに、急に開花したのだからびっくりするのは無理のないことだ。


「そうみたい。今さっき使えるようになったから詳しくは試せてないけど、今回の救出にも今後の戦略に使えると思うの。」



「確かに。これがあれば奈落の守りを堅くできるだろう。それに、イリス様は不可能と言われた薬草栽培を俺らに広めてくれた。彼女がいれば何か妙案があるかもしれない。今この悩んでいる時間さえ惜しい。ならば行こうか。イリス様救出に! 」


シルヴァさんがみんなに向けて言った。

住民たちもわたしの力を見て希望を見出したようで、顔色がよくなったように見える。嬉しそうに隣の人と肩を組んでいる。


「「「おう! 」」」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ