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そうだよね。
コックさんとか、板前さんとか男の人ってイメージだし、テレビではオリーブオイル掛けてれば何でも美味しく感じるんじゃないかと疑惑のある人も男。
男の人は料理が苦手。なんて昔の事だなんて思ってたけど、料理人とか、芸能界とかじゃなく一般庶民な層では苦手なのかもね!!
まして、ここは異世界。スラムとは言えそこら中に"アレ"が転がっていた時点で日本とは大分かけ離れてる訳だし、私の物差しで計っちゃダメよね~。うん、だめだめ、絶対ダメだよね!!現実はこんなもんだよね!!
ガリ、ボリ、時々ゴリ…とまるで煎餅を食べているかの様に咀嚼する音を奏でながら、心の中で己の理想を否定をする事で己を鼓舞する。
「…無理しなくていいのよ、本当に。私自分でも料理は食べられたもんじゃないって思ってるのよ。」
どんよりした空気を発しながらマルコスが言う。
「それぞれ食感が違くて…口の中が…楽しいし、老後に備えて…歯を鍛える事は…良い事……。それに…全部香ばしくて…苦味が…アクセントになってる……感じでなかなか…良い」
「それ褒めてるの?貶してるの?」
「いやいや、精一杯褒めてるのです…。貶してる何てとんでもない…。」
実際はドライフードを食べるペット達の気分が分かるくらいには固い、素材は全て違う筈なのに全て同じ味、ほのかに素材の香りがするも焦げた臭いと味に敗北して早々に立ち去って行ってしまう。物体xは口の中に微かに感じるベーコンの味で漸く正体が判明した。
正直、料理が下手って良く漫画とかであるけど『流石にこんな人いないっしょ~簡単なものなんて不味く作る事が難しくない~?』なんて甘く見てた自分を殴りたいほどには不味い。
でも、料理が下手だって分かっていても作ってくれた訳だし、居候させて貰ってる自分が料理が不味いだ何だと文句をつけられる立場じゃない。有り難く頂こう。
何て良い事言った風にしても、マルコスに追い出されたらそれこそ飢え死にしてしまう!!と言う気持ちが一番なんですけどね!!
「そ、そう?……今までそんな事言われた事なかったわ。」
うぐ……!!若干嬉しそうにはにかんだマルコスを見て、私の良心が暴れだした…!
罪悪感を打ち消すべく、料理を食べ尽くしたのだった。
食後のお茶を入れに行くというマルコスにせめて洗い物だけはさせてください。と言ってキッチンに案内してもらうとそこは泥棒でも入られたか?!と言うほど荒れていた。
「…マルコスさん、料理って最近してなかったんですか?」
「してはいないけど、キッチンは綺麗にしてたわよ…。」
「あ~、今日だけでこうなったんですね!!うわ-やりがいある~!!」
「手伝うなんて言って後悔した?」
「ちょっとだけ。」
そう言って二人で笑った後、マルコスが敬語を止めて欲しいと言い出した。
「私が敬語使ってるならまだしも、上に敬語使われるとなんだか背中がムズムズするのよ、やめてちょうだい」
そうですよね、一回り以上も上の私がさも年下かの様に敬語で話てたらムズムズしますよね。
「分かった。もう敬語やめるね。」
「あと、私の事はマルちゃんでいいわ」
「想定外だったわ、その呼び方は。」
「良いからそう呼びなさい!!」
「はいはい、マルちゃん」
呼んであげるとすごく嬉しそうでマルコスのお尻からしっぽが見えた気がした。
洗い物を終え、2階に戻って左側の部屋を開けてみるとベッドはあるものの埃を被り、そもそもベッドに着くまでが至難の技と言うほど物で溢れていた。
「何よその目は…物置だって言ったじゃない。」
気まずそうにマルコスが言うも、使ってなさそうな物もあって物置なのも分かるけど、この洋服の山はなんですか?!
「この洋服はなに?今は着てないやつ?」
「それは…その…洗い物よ」
「こんなに貯めて着る物あるの?!」
「明日やろうと思ってたの…。」
分かります、そう言って明日は『明日やる』になってズルズル貯まっていったんですね。どうやらマルコスの部屋を見て抱いた印象は幻だった様です。
「こりゃ明日は大掃除ですなー」
「頑張ってね!!さて、これじゃ今日は寝れないから私の部屋で寝なさいよ。」
満面の笑みで他人事の様に応援され、ほんのちょっぴりイラついたが衝撃的な発言でかきけされた。
「マルちゃんの部屋で?!」
「ちょっと…なんでそんな鼻息荒いのよ!!」
「良いんですか?!」
「……ダメな気がしてきたわ」
そらそうよ!!若いイケメンと同じベッドで寝れるなら明日は5歳は若返れる気がする。こんなチャンス滅多にない。
そりゃちょっと照れる気持ちはあるけど、それよりも欲望の方が遥かにでかい。
「恥ずかしがるかと思ってたのにつまらないわね。」
「39歳のおばちゃん目の前にして何言ってんの。むしろ焦らなきゃならないのはマルちゃんの方よ」
ババアと寝る事に危機感を感じないマルコスはちょっとおバカさんだと思う。貞操が危ういのはマルコスの方なのに。
「さ…さぁ、ベッドに行こうかマルちゃん…」
「ちょっと、目が恐いわよ…!!にじりよって来ないでちょうだい!!」
私の気迫に押されてしまったのか残念ながらマルコスは床で寝てしまったのだった。
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