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予約投稿失敗していたようです(;_;)
ーーゴ…ゴゴゴゴ…ゴゴォ…
情報交換も粗方落ち着いて、話過ぎて乾いた喉を潤す為にお茶を飲んだ時だった。
お茶を飲む音だけが響く部屋で、凄まじい低音が轟いた。
「…やだ、何の音……?」
マルコスが飲んでいたカップを置き、訝しげにキョロキョロと室内を見渡している。
あまりの不審気な様子に、まさか「私のお腹から鳴りました。」とは言えず、うつむいて胃を押さえると更にゴ…ゴゴ…ゴ…ゴゴゴォ…?と疑問系の低音が、まるで私に「コンビニで買ったお弁当は?」と伝えてきてるように鳴り響く。
あんな物、脅された衝撃で落として来たわ。
本気で困っていたらあのご夫婦(仮)が食べているんじゃなかろうか。
それにしても、この『あ!!お腹鳴っちゃった!!恥ずかしい!!』と思っている時ほど激しくなる現象は一種の呪いか何かだろうか?
家にいる時はお腹が空いててもほとんど鳴らないのに、外では連発する胃袋に渇を入れるとギュゴ…ゴゴ…コポ。と若干可愛らしい音に変化してくれた。
そんな事を考えながら胃の沈静化を図っているとガタっと椅子から立ち上がる音が聞こえ顔を上げると、半笑いになったマルコスと目があった。
「え?!今のマリコ?!」
「………何の音でしょうねぇ?!怖いですねー、異世界だとこんな事もあるんですねー。」
まずい!こちらも沈静化を図らねば!と早口でまくしたてるも、あんた顔真っ赤っかよ。と言われ撃沈した。
「もうこんな時間なの、気使えなくて悪かったわね。…でもこの時間じゃお惣菜屋さんは閉まってるし、食堂はもう酒場の時間で飲んだくればかりだし。作るしかないか…」
ガッカリした表情で立ち上がったマルコスを見て、咄嗟にお手伝いを申し出るも「私、キッチンには誰にも入ってもらいたくないの」と言って断られ1人で一階に降りていってしまった。
あ~私は全然気にしないタイプだけど、いるよね!
人が弄ると自分のこだわり配置とかが変わるから嫌だって人。
だから結婚している男友達の家のキッチンはお嫁さんのテリトリーを侵して良いものかいつも悩む。
ちなみに妄想の中の姑は基本的にこのタイプで、自分で嫌がって断るくせに『うちの嫁は手伝いもしないで…』何て陰口を吐き出してる場面を見てしまい、ショックを受ける私を見て旦那さんが私を庇って母親に文句を言ってくれてーー
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……って危ない危ない、また発作が始まる所だった。
ふむ、マルコスはそのタイプか。今後一緒に生活をするのであれば、気をつけなきゃダメだな。
料理はNGとしても、洗濯とか、掃除とかやって良い範囲を決めてもらわないとどこで嫌な気分にさせるか分からないもんな。
同棲なんか今までした事なかったけど、世の中の恋人同士は今まで互いに全然違う人生、生活を送って来て、考え方も感じ方も違うのにさぁ、暮らしましょう!!ってスムーズに暮らせるものなんだろうか…?と、39年も独身を拗らせるとそんな事も分からないもので、いつも不思議に思っていた。
もう一生知る事はないかもしれないと思っていたのに、まさかこんなとんでもない味わい方をするとは思わなかったなぁ。
同棲か、しかもあんな若いイケメンと。同棲……。どう…せいーー
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「もー!シワになっちゃうから、ちゃんとパンパンしてから干してって言ったでしょー!」
「ごめんごめん。1人で暮らしてる時は全然気にしてなかったから。服とかも適当に丸めてタンスに入れてたしさ。本当、マリコと暮らしてからようやくまともになれた気がする」
「そんな事言って煽てたって何も出ないんだから!!」
洋服を畳みながらブツブツ文句を言っていても、ニコニコしながら私の顔を見ているマルコスに毒気を抜かれそうになる。
「…何ニコニコしてんのよ。」
「え…?顔に出てる?」
「さっきからずっとニヤついてる!!もー!!自分でやりなよ!」
結局、私自身にもニヤニヤが移ってしまい、洋服を投げつけようとすると腕を取られマルコスに抱き寄せられた。
「……だって俺、そうやって怒られるのも好きなの。」
そう笑いながら私にキスをーー
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「マリコー!出来たから運ぶの手伝ってちょうだーい!」
「……うがあぁァ!!いい所だったのに!!」
「騒いでないで早くしてー!」
「はい。」
冷静にそう返され、漸くマイワールドから帰還する事にした私は急いで一階へ向かった。
ーーはい!本日のディナーはこちらになります!!
1品目は、丸焦げになったパンをどうにかしようと表面を一生懸命削るも削りきれず所々黒っぽくなったパン!!【ブラックブレット-芸術的な形にして-】
2品目は、一瞬でこうなってしまったのであろう。火力が想像つく、カチカチに良く焼きされた恐らく目玉焼き?!潰れた目玉が哀愁を誘う!!【メランコリーアイズ-黒い部分は胡椒と信じさせて-】
3品目は、もはや何だか分からない!!何だこれは!!芋がら?!芋がらなのか?!【◯△□-物体x-】
目の前に広がるディナーに、笑顔ながらも冷や汗が止まらない。
なんだ、なんだ…さっき人に入られるの嫌なこだわり派っぽいオーラでしたよね?!
「………。」
「………。」
「……いいのよ、無理しなくて。」
「いや!!全然!!すごい美味しそーー」
「…分かってるからっ。もう何も言わないでちょうだいっ。」
目を反らしながら悲しそうに言うマルコスに、黒焦げくらいなんだ!と言う気持ちがむくむくと沸き立ち、美味しそうだ!と言いながら勢い良くフォークを物体xに振り下ろすと、物体xはカンッと乾いた音と共に綺麗に中を舞って私の顔面にぶつかったのだった。
ありがとうございました