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サンキュー!!  作者: ミルク煎餅
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 都合良く女言葉でなくなっていたマルコス(偽)を脳内から叩きだし、ようやく落ち着きを取り戻した頃。


 対称的に落ち着く素振りを見せないマルコスの呆れ混じりの視線を意識しないように、ゴンザレス茶を飲む。


「あ、美味しい」


 土臭そうなイメージを抱いていただけに、鼻から抜ける桃の様なフルーティーな香りに驚いた。


「そうでしょう?私が手間隙掛けて作ったお茶だもの、当然」


 ふふん、とでも言い出しそうな顔で自慢気に見てきて少しばかりイラっとした。


「で、マリコの設定なんだけど。森で魔物に襲われてて私が助けだしたけど、残念ながら荷物も名前以外の記憶も無くしていた可哀想な子。捨て置く事もできなかった優しい優しい私は、森にあるかもしれない記憶の手掛かりを一緒に探してあげる約束をし、家まで連れてきてあげたって訳よ。という事で、荷物は私が預かるわ。見られたら困るしね。」

「私には判断つかないんですけど、それは信憑性がある作り話なんですか?……って魔物?!!!!」

「そう魔物。なんの為に剣なんて持ってると思うのよ」


 言われてみれば、何も人を攻撃する為だけの物じゃないけど魔物って発想はなかったわ。

 え…外出たくないんですけど。


「私生き物を殺すなんて出来ませんよ、精々魚と小さめの虫くらいしか!!」

「でも殺らなきゃ殺られるの。まぁここの近くの森に出る魔物なんて知れてるわ。じゃなきゃ街なんて作れないでしょ?」


 と笑われたが、今じゃ野犬すら見かけない上に、野生の動物なんぞ帰宅途中、私の前を一心不乱に走り過ぎ去ったドブネズミくらいしか見かけない都心での生活で殺るだ殺られるだの話は想像もつかない。


 たかが知れてようが、チワワに吠えかかられてビビった経験のある自分には到底勝ち目はないと思った。


「…本気で嫌そうね。ま、追々慣れてけばいいわよ。で、さっきマリコの世界とやらの話を聞かせてもらったから私もこの国について教えてあげる」


 ーー冒険者達で賑わう街、クリーク。


 それが今私のいる街の名前らしい。

 街からしばらく行った所にはダンジョンと呼ばれる魔物の巣窟があり、ダンジョンには尽きる事のない資源や魔物を倒した時に手に入るドロップ品、ごく稀に宝箱から貴重な品が取れるので命知らずの冒険者達が一攫千金を夢見てやって来て、その冒険者達が集まる事に商機を見た逞しい商人達や宿の経営者が集まりそこそこ良い賑わいを見せてるという。

 そして手数料は取られるが、その品物とお金を換金してくれる国営の交換所と言うのがマルコスが今日お店を休んだ理由だ。


「急いで手を加えたい薬草とかもあったりするから、帰りに交換所に寄らないでいたらドロップ品が溜まりに溜まっちゃってね。ハサンも休んでないし、丁度良いと思って。」


 すぐお金に変えなくても大丈夫って事は流行っている店なんだろう。接客何て学生時代のアルバイト以来してないけど大丈夫かな…と若干不安になりつつ続きを促す。


 そんなに人口もなかったクリークの街が栄えたのはダンジョンが13年ほど前に"産まれた"からなのだとか。


「昔は本当ただの田舎だったのよ、この街。でもダンジョンが産まれてからというものどんどん人が増えてってね。街が大きくなった事は良いことだけれど、治安も悪くなるし冒険者と共に怪我人も増えてね。そんなクリークは嫌だー!なんて言って姉がこの店を開いたのよ。」


 元々は祖母がやっていた薬屋だったが、祖母が亡くなると同時に閉めたらしい。両親は良い匂いばかりではない薬草が大っ嫌いだったそうで継ぐ気はさらさらなかったとか。


「ま、やりだした姉が不幸にも亡くなってしまってね。私が跡をついだって訳。だから祖母の代からの馴染みのお客からこの街に根を下ろしてなさそうな冒険者達まで薬を求めて来るからなかなかのものなのよ、この店」


 心底嬉しそうに笑うマルコスに、お店への愛が伺えて何だか可愛く思えてしまった。


「ま、こんな所ね、この街については。街の案内は明日ハサンがお使いに行く時にでもしてもらってちょうだい。私は明日調合にかかりっきりになってしまうと思うから。」


「分かりました。」


「ん~じゃ、今度はマリコの番ね。マリコはいくつ?何をしてた人なの?……何で森にいるパン・ギーみたいな顔で見てくるのよ。」


 これは立派な素顔でそんな顔をした覚えは全くないが、人に年齢を聞かれるのに苦手意識を持つくらいには歳をとった私は顔をしかめてしまった。


「……ぅ」


「は?」


「さんじゅう…きゅぅ…だったかもなー?なんつって…」


「え?39歳?!……いい歳はしてるだろうと思ってたけど結構いってるのね」


「やかましいわ!そういうマルコスさんはい、いくつ?」


「私?私は24歳よ。」


 うへぇ!!!一回り以上下?!

 マルコスが産まれた時には、どこそこ高校の誰々先輩がカッコいいんだってー!きゃー見に行こー!って友達ときゃぴきゃぴ騒いで、無駄足を踏む毎日を送ってたわ!


 確かにお肌に艶があるなーファンデ浮いたりしないんだろうな。とか、目尻にシワ全くない!アイライナーも一発で引けそうでいいなー。とか思ってはいたが、一回り以上下だとは…!


 お互いを知る為の詳しい自己紹介は私のお腹がぐるぐると音を轟かすまで続くのだった。

ありがとうございました。

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