5
少し長くなってしまいました。
久しく感じてなかった男としての色気をオネェ口調の男から感じてしまうという、何とも言い難い感覚を覚えて気まずげに目を反らした私をニヤニヤしながら見つめていたマルコスはおもむろに立ち上がり、お会計して頂戴!と厳つい禿げ坊主に話しかける。
「おい、マルコス。その女はこれかい?」
と満面の笑みでピースをする禿げ坊主を前に、
『………お分かり頂けただろうか。超美形オカマの前に佇む、泣く子も黙るであろう風貌をした厳つい禿げ親父が満面の笑みでピースサインをしている事に』と脳内でナレーションが流れ、恐ろしいモノを見てしまったと震える私を放置して二人は会話を続ける。
「ふふふ、今はま・だ・な・の。いずれなるといいわね」
と言ってマルコスもピースをした。
ジャラジャラと小銭を出し、ご馳走様と言って颯爽と出て行ってしまうマルコスに置いてかれまいと急いでご馳走様でした!とお辞儀をすると禿げ坊主が言った。
「ひひひ。マルコスはちっとばかし変わった野郎だけどもよ、悪ぃ奴じゃねんだ。仲良くしてやってくんな」
満面の笑みでそう言った禿げ坊主にちょっとどころじゃねぇだろと心の中でツッコミを入れつつ、ヘラっと愛想笑いをしながら頷いて店を後にした。
「んも~、早くしてちょうだい。」
「あの禿げのおやっさんが話かけてくるから……すいません…」
「あのジジイお喋りなのよ、あんな見た目しといて詐欺よね。」
苦笑いするマルコスに貴方も充分に詐欺よね~とは言えずに、なんとなく分かったけど一応気になった事を聞いてみる。
「あの、これどうゆう意味です?」
と言いながらピースをすると、マルコスはにんまりと笑った。
「あ、そうよね。マリコには分からないわよね。何だと思うの?」
「いや~…私の世界で言うとこの小指かな…なんて」
「マリコの世界の小指はどうゆう意味なの?」
「………女というか。彼女というか…。そんな意味です。」
なんか言ってて自意識過剰なんじゃないかと思いつつ言い切るとあっけらかんと
「うん、そう言う意味。へぇ~マリコの世界では小指なの。…ちょっと難しいわね」
そう言いながら小指と薬指をあげようと頑張るマルコスにとてつもなくどうでもいい話題だと思いつつも小指だけ立てるんです。と説明しながらマルコス宅に向かった。
「ここが私の店のカサンドラ。今日は色々と足りない物の買い出しに行きたかったからお店は休みの札を出しておいたんだけど。あぁ、あと従業員がいるけど今日は来ないから明日紹介するわね。」
「はぁ…でも、私こんな話マルコスさん以外誰も信じてくれないと思うんですが」
ちょっと変わってると評判のマルコスだからこそ信じてくれたんじゃないか?と疑っている私はそう言う。
「ふふ、せっかちね。でも嫌いじゃないわよ、私もせっかちだし。詳しい事は店に入ってからにしましょ」
そう言って店のドアを開けると、エステでよく嗅ぐ爽やかなハーブの様な匂いが漂う。
店の中には様々な容器に入った乾燥した葉が並んでおり、漢方屋さんのようになっている。
そこに小さなカウンターがあり、小さな椅子が置いてある。
「ようこそ、カサンドラへ。この容器に入っているのが街の外の森で採取している薬草や滋養のある生き物を乾燥しておいた物。お客の症状に合わせて調合して売っているの。他にも液体状にした物や、丸薬になっている物もある。最初は薬の種類を覚えきれないと思うし、お客の症状を聞いてもらって……文字書けないのよね。文字を覚えるまでは口頭で私に伝えるか、もう一人の従業員のハサンに伝えてちょうだい。ま、店はこんな所ね」
言ってさっさとカウンターの後ろにある階段を上がって行ってしまうマルコスの後を急いで追いかけ、かけ上ると廊下の先に小さな小窓があり左右にはドアがある。
「二階で寝泊まりしてるわ。右側が私の部屋で、左は今物置にしちゃってガラクタだらけだから後で片付けなきゃね。部屋の大きさはほとんど同じだから狭くないわよ。」
といって右側のドアを開ける。
てっきりそんじょそこらの女性より女子力の高いオカマの部屋があると想像していたが、ベッドと棚と小さなテーブルセットがあるだけの、至ってシンプルな部屋だった。
「殺風景な部屋でしょ-。本当はもっと充実させたい所なんだけど生憎忙しくてね。寝るだけで使ってるようなものなのよ。さ、座って。私、お茶を入れてくるわね。」
「あ、お構い無く。」
遠慮する私を苦笑いして、いいからと座らせたマルコスは一階へと降りていった。
現代の日本でもないような作りの部屋にソワソワしつつ見回すと、寝るだけと言っていたけどきちんと整理整頓はされてて塵1つない。壁側にあるベッドの側にある窓も透き通って毎日掃除をしてるんだろうなと伺える。
男にしては綺麗な部屋だなぁ~と思った瞬間、私の視線はベッドに釘付けになり止まってしまった。
お、男の部屋に来るなんて何年ぶりでしょうか?!
しかも今まで見た事もないようなくっそイケメン、生涯で一度でも見られたらそれだけで神様に感謝を捧げたくなるような…!!あぁ……あぁぁぁ……もうダメだ!!
**********
「少しは落ち着いた?」
「えぇ、取り乱してしまってごめんなさい。」
「そんなマリコも可愛いかったけどね。」
そう言ってニコッとするマルコスにドキっと胸が高鳴る。ババァが何浮かれてんだ。と、己を諌めつつマルコスが持ってきたお茶に口をつける。
少し熱くてふーと冷ます為に息を吹きかける私の口を凝視されてる事に気がついた。
「綺麗な唇だね、今すぐ食べちゃいたいくらい…」
そう言いながらマルコスは私の唇を指でなぞる。
あまりに色気のある視線と感触に当てられ、思わず私もマルコスの唇を見てしまう。
唇をうっとりするように見つめていたマルコスの唇が、視線に気がついたのか、ゆっくりと弧を描き舌舐めずりをした。
「ふーん、マリコも同じ考えなんだ。」
そう言って椅子から立ち上がると、その唇は徐々に私の唇に近づいてきてーー
**********
「お待たせ~!今日は奮発してたまーに森に生えてれば幸運!ってくらいの葉を丹念に蒸らして煎って乾燥させたゴンザレス茶にしたわよ~!」
ハッッ!私は一体何をしていたんだ!!
「あらま、またボーっとしちゃって。マリコ?」
と、また顔を覗きこまれ、今の今まで脳内無双をしていた私は思わず唇に視線がいってしまい顔を真っ赤にして仰け反ると、バランスを崩して大きな音を立てながら椅子ごと後ろに倒れてしまった。
「なにやってんの…この子は。」
そう言って呆れるマルコスの手を借りて立たせてもらうのだった。
ありがとうございました。