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サンキュー!!  作者: ミルク煎餅
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3

 不安に押し潰されそうになりながらさ迷う事15分。


 あの光の速さだった時の流れるスピードが恋しくなる程には人生で最も長く感じた15分だった。


 それもそうだろう。


 ヘトヘトに疲れて、コンビニで軽い癒しを受け、帰り道に壮大なスペクタクルの妄想を繰り広げ、自宅を開けたつもりが変な場所に入って(?)その先で物取りに勘違いされたとは言え、丸腰の女性に武器を突きつける人種と相対したのだ。


 あんなお金のなさそうな人でも武器を持ってるんだから、当然外にいる人も持っているんだろうと想像が付いてしまい怯えながら歩いていた。

 幸い人に会う事はなかったが、どこか視線を感じて競歩かってくらいの速さで歩いていたのでどうにか路地を抜け出す事が出来た。


「やった…やっと抜け出した!!」


 開けた道に出たからといって何の安心材料にもなりゃしないが、精神的にはかなり楽になった。

 薄暗い路地で視線を感じて怯え、ひん曲がりそうな鼻をつまみながら競歩並みのスピードで歩いていると、どんなに心を強く持とうと決意しても1分後くらいには折れかかっていたのだ。


 だが、ほっとしたのも束の間。


 確かに広い道に出て、さっきみたいに気配だけではなく人が行き交ってはいるが、行き交ってる人達は非情にも現実を叩きつけてきた。


 人々の髪は赤、緑、青、金と色とりどり。腰にはショートソードやロングソードを引っ提げている。それまでなら日本でもコスプレイヤー達の集う場所ならあり得るかもしれない。


 だが目の前を馬車が通り過ぎた時には思わず二度見をした。


 鱗肌の謎の生き物が、ダラダラと涎を垂らしながら走っていた。確かに大きさは馬ぐらいあるが、明らかに馬ではない。


 ココハ日本デハナイデスヨ

 ナンナラ地球デモナイデスネ


 脳内で棒読みの自分の声が響き渡る。


 目の前の現実に呆然とし脳が機能を停止して、ガラガラと大きな音をたてながら目の前を通りすぎる馬車(?)を何回見送っただろうか?


 気がつけば日は傾き夕暮れになっていた所で我にかえった。


 とりあえずここは日本でもなければ地球でもない。


 覚悟しろ!真理子!


 ほとんどの人が剣を引っ提げてる場所に今私はいるんだ、治安がいいとは思えない。

 そのまま夜になればどうなる?

 39歳のおばさんで襲われる心配も格段に減ったとはいえ私も女。

 治安の悪い場所で夜道をウロウロしたいとは思わない。


 何とかして落ち着ける宿を見つけなければならないが、冷静になって考えてみればあの男は諭吉さんを渡した時にお金だと認識してなかった。


 まぁそれはここが日本ではない事の材料の1つになった訳だが、あの欲にまみれた様子からすると諭吉さんには価値があったんではなかろうか?


 しまった。全部渡すんじゃなかった…。


 既に財布には札はない。小銭側をみると682円入っているのみ。

 あった所でこの場所では無一文には変わりないが交換出来たかもしれなかったのに…と後悔した。


「ちょっと、あんた!」



 鞄にあるのは化粧ポーチ、タバコ、ライター、ハンカチ、ポケットティッシュに会社のIDカード、今週使う書類に、目薬と痛み止め。

 見事なまでに仕事用のバッグだ。


「ねぇ!あんたってば!そこの変な格好してるあんたの事だよ」


 変な格好とは失礼な!高級ブランドスーツだぞ!


 と思いながら睨みつけるように振り替えると、180センチはあるだろう男がいた。


 男だと判断したのは声が男のものだったからなのだが。


 透明感のある銀色の髪を胸辺りまで伸ばしていて、切れ長の目に生える睫毛は憎しみを抱けるほどに長く、すっと通った鼻に、ぷっくりとした形の綺麗な唇は色気の中に可愛らしさも感じる。

 声をかけられなければ女性と見違えてもおかしくないほどの美形だ。


「さっきからボーっと突っ立ってどうしたのよ。私が買い物に出て、帰ってきて、交換所に行って、帰ってきて…

  ーーだからもうかれこれ3時間はそうしてるわよ?」


 指を折りながら考えてる男に色々と言われているが、

 只もう3時間も経っていたのか、という感想しか出なかった。


「あら…口がきけないのかしら。」


 そう言って心配そうに顔を覗きこまれてようやく声がでた。


「ちょ、近ッ!!…大丈夫です、きけます!ただの現実逃避というか、なんというか…」

「なんだ、口きけるの。ならよかった。で、あんた何でこんな所に突っ立ってんのよ?ここいらじゃ見かけないわね。そんな黒い髪」


 変な格好と言われた事といい、見かけないと言われた黒髪といい私は悪目立ちしていたようだ。


「何でって言われても…私が聞きたいくらいで」

「…?」

「知らない内に知らない世界にいて、知らない人に剣を突きつけられて逃げて…さ迷ってたらここにいて…」

「ふぅ~ん。ちょっとオツムが残念な子か。」


 聞き捨てならない事を言われて思わず反論しそうになるも腰にあるロングソードが目に入り黙ってしまう。


「なによ、そんな珍しい物でもないでしょ。」


 怯えた事にムッとしたのか唇を尖らせている。


「そ…そんなもの普通は引っ提げて歩きませんよ…私の世界では」


 緊張の余りに声が震える。オカマといえども元は男。不審者として目をつけられればあっという間に私の首は身体と永遠に別れる事になるだろうという事が分かるが故に緊張を隠せない。


「ふふ、そんな怯えた顔しなくても抜いたりしないわよ。私マルコス」


 そう言って手を差し出すマルコスに対して私は


 この世界でも握手の文化があるのか。


 と暢気にも考えてしまった。

ありがとうございました。

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