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快晴の空に 〜幻想世界のなんでも屋〜  作者: ろこやるく
第10章 兄妹と化け猫
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10-5 化け猫退治の作戦

■■■


 午後四時。一行は宿に着きレストランで遅めの昼食を済ませた後、部屋に集まっていた。

 大きなテーブルの左右に二人がけの長椅子が二つ並んでおり、四人はそこに腰掛けていた。


「いやあ、お腹いっぱいにゃね」

「鈴音、お前食い過ぎとちゃうか? 腹めっちゃ出とるやん」


 隆一はアイスコーヒーの入ったグラスを片手に、隣に座る鈴音の腹部を指差す。


「うっさいわクソ兄貴。そんなんにゃから彼女できへんのにゃ」

「黙っとけ。彼女の一人二人くらい出来たことあるわ」

「マジかにゃ。兄ちゃんが元カレとか可哀そう」

「お前最低か?」


 カラカラとグラスを回しながら、隆一は顔をしかめる。顔をしかめられた鈴音は、キッと隆一を睨み付けた。

 そんな二人にどうどう、と両手を挙げて落ち着かせようとする姫奈。


「まあまあ……で、もう少ししたら化け猫の居場所に向かうわけだけど、どういう作戦でいく?」

「せやなぁ、とりあえずは化け猫を説得してみるところからやな」


 隆一は、腕を組んで天井を見上げながら考える素振りを見せる。


「問題は、説得に失敗した場合やなぁ」

「説得に成功しない気がするのはオレだけか?」


 龍斗の言葉に、「確かに」と頷く隆一。頷いてから、顎に手を当てて俯く。


「そうね……強引に呪いをかける時点で、話の通じる幻獣とは思えないわね」


 考え込む隆一に向かって、姫奈は言った。


「……となると、力づくっちゅうことになるかなぁ」


 数秒の沈黙の後、隆一は溜息に似た呼吸と共にそう口にした。


「力づくって、具体的にどう動くにゃ?」

「例えば、俺と龍斗坊っちゃんで化け猫を取り押さえて脅しをかける、とか」

「化け猫の動きを人間の筋力で物理的に封じるのは無理がある気がするにゃ」

「それもそうか……難しいな」


 再び、部屋が沈黙する。


「魔法で動きを封じる、っていうのはどうかしら」

「魔法で? そんな魔法を使えるメンバーここにおるんかいにゃ?」


 鈴音は、三人の顔を見回す。そこにいるのは、多少の剣術を心得た兄と少年少女だ。

 どう見てもそんな高等魔法を扱えそうな人材がいるようには思えない。

 鈴音が首を傾げたとき、向かいに座る少女が口を開いた。


「アタシ、一時的に動きを封じるくらいならできるよ」

「え、マジにゃ?」

「マジでか。姫奈嬢ちゃんやるなぁ」


 信じられないといったような表情を姫奈にむける飛鳥兄妹。

 そんな二人に対して、姫奈は語る。


「嘘だと思うなら、実際にやってみてもいいわよ」


 にっこりと笑って言う姫奈。姫奈の視線は、隣に座る龍斗に向けられていた。

 実際にやってみる――それは、誰かに魔法をかけるということだ。

 すなわち。


「オレは勘弁だぞ。お前の魔法なんかかかりたくないからな」


 龍斗は片手を自身の顔の前にやり、姫奈の視線を遮る。

 「ふーん」と声をあげ、姫奈は鈴音と隆一へ片手を添えて言う。


「じゃあ龍斗は、鈴音さんや隆一さんを被験者にしろって言うの?」

「……分かった。オレがやる」


 意地悪な笑みを浮かべる姫奈。龍斗はそんな姫奈の視線を遮る手を仕方なく下ろした。


「じゃあ、いくよ」

「え、今すぐ? ちょっと待っ――」


 龍斗が言葉を言い終わる前に、姫奈は彼の肩にそっと触れる。

 姫奈は、触れた少年の肩へと魔力を流し込んでいく。

 自身の全身を巡る熱が片手に集まっていく感覚に、少女は軽い疲労感を覚える。

 数秒後、姫奈は龍斗の肩に触れたままゆっくりと深呼吸をして、尋ねる。


「……ふう。どう龍斗、動ける?」

「……っ……」


 声をかけられた龍斗は、魔法をかけられる前と同様の姿勢を保ち続けている。


「へぇ、すごいにゃん。龍斗クンがほんまに動かなくなっとるにゃ」


 鈴音は斜め前に龍斗に手を伸ばし、ぺたぺたと身体を触る。


「や、やめてください……」

「お、声は出るんやな。これはおもろいな」


 隆一はそう言って、向かいに座る龍斗の頭をわしわしと撫でまわす。


「……オレが身動きとれないからって弄るの勘弁してください」

「本当は構ってもらえてはまんざらでもないくせに」

「んなわけないだろ……! 姫奈も早く解いてくれ!」


 姫奈は面白いものを見るような目で龍斗を見る。

 対する龍斗は、頭を隆一に向けたまま姫奈に魔法を解くよう訴える。

 傍から見れば、龍斗が隆一に怒っているように見えてしまうだろう。


「分かったわよ。今解いてあげる」


 姫奈がそう言うと、龍斗に伸びていた飛鳥兄妹の手が引っ込む。


 姫奈は瞼を閉じて、大きく息を吸う。

 熱が龍斗の肩から、少女の身体へと流れていく。

 次第に流れてくる熱は少しずつ冷めていく。


「お……動けるようになった」


 手の平を握ったり開いたりして、龍斗は自身が自由に動けるようになったことを確認する。


「これは使えそうにゃね、姫奈ちゃんすごいにゃ!」


 鈴音は猫耳をぴこぴこと動かしながら、感激の声をあげた。


「でもこの魔法……相手に触れないと使えないところが難しいわね。化け猫の隙をついて背後を狙うとか、そういう作戦が必要になるかも」


 腕を組んで考え込む姫奈。その斜め向かいの隆一も、同じような姿勢で思案する。


「……俺と龍斗ぼっちゃんで化け猫の気を引くか……?」

「うーん、それはちょっと危険な気がするわ。いきなり敵意丸出しで挑んでもやられるだけだと思う」


 「確かに」と隆一は頷いて、再び考え込む。

 そのとき鈴音は、隆一の隣で落ち着かない様子で尻尾をぱたぱたと揺らしていた。


「なんやねん、鬱陶しいなぁ」

「うちな、ええこと思いついたにゃ」

「は……?」


 隆一はどうせろくな事を言わない、と言いたげなしかめっ面で鈴音を見る。


「これなら多分上手くいくで。ま、うちに任せてにゃ」


 鈴音はそう言うと、自信ありげに親指をぐっと立てて見せた。


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