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快晴の空に 〜幻想世界のなんでも屋〜  作者: ろこやるく
第8章 平穏の夢と夜の海
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8-6 僕と少女 [◆]

 龍斗くんが宿に戻った後、僕は海沿いの街灯が灯る道を散歩していた。

 いつもは話す機会のないようなことばかり話していたせいか、なんとなく心がざわついていた。

 なんとか落ち着けないものかと当てもなく歩いていたが、時刻は午前0時を回ろうとしていた。


「もうさすがに寝ないとな」


 踵を返し、宿に戻ろうとしたとき。


「あれ、真田?」


 目の前に、姫奈ちゃんの姿があった。


「姫奈ちゃん……どうしたんですか、こんな遅くに」

「なんか眠れなくってさ。ちょっと散歩してたの」

「僕も同じです。でももう遅いし、一緒に帰りましょう」


 姫奈ちゃんは静かに頷いて、宿に向かって僕と並んで歩いた。


「真田は実界の人、なんだよね」

「そうだけど……やっぱり、受け入れられない?」


 不安げな表情を浮かべる少女に問いかける。


「ううん、アタシは真田が実界人でも幻界人でもいいの。お母さんが実界の人だったから、別に気にならないよ」

「あれ……? てことは姫奈ちゃんは……」

「そう。実界人と幻界人のハーフなんだ。龍斗もそうだよ」

「そう、だったんですね」


 突然明かされる重大な事実に、僕は驚きを隠せなかった。

 

「小さい頃はハーフだったことで周りに色々言われてて、そういうのから守ってくれたのがアイツ――龍斗なんだ」


 幻界人と実界人は、お互いに差別的に見ていることが多い。

 そんな中で、幻界人と実界人の間の子がいたとしたら、虐めなどの対象になってもおかしくはないだろう。

 きっと、姫奈ちゃんは僕の想像のつかないような苦労をしてきたのだろうと思う。


「でも、ちょっと怖いんだ」

「怖い……?」

「アタシのお父さんは、実界人に殺されたから」


 とくり、と心臓が脈打つ。


「実界人の全員がそんな人じゃないのは分かってるんだけどね」


 少女はそう言って、あどけない笑みを僕に向けた。

挿絵(By みてみん)

「大丈夫ですよ。僕は虫一匹すら殺せないような人間ですから」

「そう、だよね」


 俯いて笑みを浮かべる横顔は、やっぱりまだ不安げだ。

 そんな少女にかけてあげられる言葉もなく、僕たちはしばらくの間一言も話さなかった。


「真田」


 宿の前に着いて、姫奈ちゃんが僕に声をかけた。


「用心棒として、ちゃんと姫宮家を守ってね」

「……ええ、心得ています」

「絶対だよ」

「はい、もちろん」


 何度も確かめる少女の横顔は、まだ幼くて。

 何かにすがるような、そんな表情をしていた。

 そんな彼女に対して何もしてあげられることはなく、むしろ罪の意識を感じていた。


 そんな行き場のない思いを引きずりながら、僕は宿の扉に手をかけた。

 そのとき。


 ――何かの視線を感じる。


 背後で何者かに見張られているような、そんな気配を感じた。


「姫奈ちゃん、先に部屋に戻っていてください」

「いいけど、何かあったの?」


 不思議そうにこちらを見上げる姫奈少女に、僕は告げる。


「用心棒としての責務を果たしてきます」


 姫奈ちゃんは察してくれたようで、心配そうに笑った。


「分かったわ。気を付けてね」


 静かに締まる扉を背に、僕は宿の庭の雑木林を凝視する。

 月光でうっすらと見える人影。

 こちらの出方を伺っているのか、一向に動く気配はない。


「そちらから来ないなら、こっちから行くしかないな」


 鞘付きの刀を構え、そっと人影との距離を詰めていく。

 雑木林の中へと踏み込もうとした時。


 人影が動き出し、本体が姿を現わす。

 容姿を視認する間も無く、こちらにナイフで襲いかかってくる。


「……っ!」


 振り回されるナイフを回避しつつ、反撃の隙を伺う。

 なかなかに素早く、こちらからの攻撃の余地を与えない。

 このままでは敵わないと判断し、一旦相手との距離を取った。


「答えてください。あなたは早川の仲間ですか?」


 問いかけるが、相手は無言のままだ。言葉を交わす気はないようだ。

 何者か分からない者を傷付けるのは気が引けるが、平穏のためなら致し方ない。


「――!」


 相手はとった距離を勢いよく詰め、ナイフを振り下ろしてきた。

 振り下ろされたナイフを咄嗟に刀で受け止め、思い切りはじき返す。


 ――はじき返せた?


 僕は速さには自信があるが、残念ながら筋力では基本的に同性に敵わない。

 しかし、珍しくこちらの腕力が勝ったことで相手が女性、もしくは幼い少年であることを見抜いた。

 これでは余計に、傷付けることに気が引ける。


「どのような事情かは存じ上げませんが、ここは手を引いてはいただけませんか?」


 出来ることなら戦闘を避けたい。そう思い、相手に声をかけるが、


「…………」


 やはり答える様子はない。

 戦わなければならないかと腹をくくったとき、突然目に刺さるような眩しい光が周囲に広がった。


「な……んだ?」


 目を開けると、先ほどの人影が消えていた。

 どこかに身を潜めた気配もない。どうやら、目くらましだったようだ。


「一体、何者だったんだろう」


 身に覚えのない女性、あるいは少年。

 一つだけ、可能性としてあるとするならば。


「……早川の仲間、かな」


 僕を狙う人間と言えば、真っ先に思い浮かぶのは早川敦士だ。

 彼の仲間ということであれば、最も納得がいく。


「より警戒が必要だな」


 いつどこで狙われるか分からない。

 姫宮家の誰かが居る時に襲われたりすれば、無関係な人たちを巻き込んでしまうことになる。


「どこにいても気は抜けなさそうだ」


 構えていた刀を腰に差し、僕は宿の中へと戻っていった。



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