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快晴の空に 〜幻想世界のなんでも屋〜  作者: ろこやるく
第8章 平穏の夢と夜の海
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8-4 僕と少年 [◆]

■■■


「で、隆一さんは港町に戻ってしまったと?」

「ええ。手伝ってくれると思ってたんですが……奴に期待した僕が馬鹿でした」


 宿で夕飯を食べた後、僕と龍斗くんはいよいよ金幸魚の捕獲のため浜辺にやってきた。

 隆一にもこの依頼のことは話していたのだが、結局夕方には港町に戻ってしまった。


「少し殴りたい気持ちもありますが、それは今度にしましょう」

「そうっすね。今日はとにかく金幸魚の捕獲に集中するということで」


 時刻は夜の22時。当たり前だが海は真っ暗で何も見えない。

 浜の街灯と手元の携帯の光だけが頼りだ。

 ミヤコさんの話によると、金幸魚は夜になると波打ち際にやってくるらしい。

 そして夜は金色に発光しているので、見つけるのは容易だとか。

 ただし、一つだけ注意点があった。


「金幸魚は夜になると凶暴で噛みついてくるらしいから、そこだけは気を付けないとね」

「そうっすね。せっかくの楽しい一日を怪我で終わらせたくはないな」


 金幸魚は、昼間は深海を優雅に泳ぐが、夜になるとかなり凶暴になるそうだ。

 その顎は非常に強く、噛みちぎるまで離れないらしい。


「巨大な魚というわけではないようですが、慎重にいきましょう」


 僕と龍斗くんは、ゆっくりと波打ち際に近づいていく。

 すると、少し向こうの方で金色の光が見えた。


「宗治さん、向こうに――」

「危ない、離れて!」


 龍斗くんが近づこうとした瞬間、その光は水面を飛び出して彼へと襲い掛かってきた。

 噛みつかれる直前で、龍斗くんはなんとかそれを避ける。


「わっ……コイツすごい跳ぶな」

「ええ。あんなヒレですからね」


 波打ち際でせわしなく動き回る金幸魚。

 よく見ると、泳いでいるのではなくヒレで歩き回っていたのだ。

 そのヒレはまるで人間の二本脚のようだ。


「なんだこれ、気持ち悪……これを捕まえるの?」

「気持ちは死ぬほど分かるけど、ここは修行と思って耐えるんだ」

「そ、そうします……」


 高級魚の二足歩行に引き気味な少年は、玉網を構えて金色の光を目で追う。

 僕も同様に、別の金幸魚を狙っていた。

 だが、意外にも歩き回る速度が速く、なかなか捕まらない。


 ――これは、あの手を使うしかない。


 玉網の代わりに、腰に差した刀を構えた。


「宗治さん、一体何を……?」


 目を瞑り、静かに深呼吸をして意識を集中させる。

 未来の自分の挙動を想像し、金幸魚の気配を察知する。

 そして、僕は自分に暗示をかける。


 ――“その挙動は必然であり、約束されている”と。


「――っ!」

挿絵(By みてみん)

 水しぶきは少なく、わずかな水の壁とともに金幸魚が宙に舞い上がる。

 鞘付きの刀に叩き出された金幸魚は水を張ったバケツへすとんと入っていった。


「……さ、さすが宗治さんです」

「龍斗くんも修行を積めばできるようになりますよ」

「い、いや、どうだろう」

「どうだろうって、そんな弱気な」


 うーんと唸って、少年は言いづらそうに言葉を紡ぐ。


「前々から思っていたんですけど……宗治さんの意識を集中させるそれ、少し人間離れしてる気がする」

「……ど、どういうことですか?」


 龍斗少年から放たれた言葉は意外なもので、僕は思わず訊き返す。


「いや、だって……普通、どう考えたって無理じゃないですか」

「無理って……龍斗くんだって、鎌鼬の時にちゃんと気配が読めたじゃないか」

「気配を読む話じゃなくて、気配を読んだ後の動きです」


 気配を読んだ後の動き。つまり、攻撃を仕掛けるときの動きだろうか。


「攻撃する時の速さとかが、絶対に真似できないって思うんです」

「そう、かな」


 僕は納得がいかず、少年に告げる。


「確かに僕は速さには自信がある。でも、ただ得意なだけであって、別に特別ではないと思うよ」


 人にはそれぞれ得手不得手がある。

 苦手な人から見れば、確かに真似のできないものもあるだろう。

 だけど、人間離れしているというのはちょっと言いすぎな気がする。


「龍斗くんもこれから頑張れば、僕以上にできることが出てくるはずですよ」


 向上心の強い彼のことだ、きっと一時的に自信喪失をしてしまったのだろう。

 僕はそう捉えた。


「宗治さん、後ろ――!」

「え――」


 ふと振り返ると、大きめの金幸魚が僕の目の前に飛び込んできた。

 反射的に刀を構え、金幸魚を叩こうとしたとき。


「この……っ!!」


 龍斗少年が僕を突き飛ばし、背丈に合わない模造刀で金幸魚を叩き落とした。


「……よそ見厳禁っすね」

「そうだね、ありがとう」


 くるりと振り向き、彼は誇らしげに笑った。



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