2-2 不器用少年の頼みごと [◆]
昼下がり。町はそこそこ賑わっていた。
しかし、この暑さのせいか出歩く人はいつもより少なかった。
おつかいのために姫宮家を出た龍斗と姫奈は、目的の場所へと目的の物を購入しにいく。距離的にはそう遠くなく、往復には10分もかからない。
二人は炎天下の暑さを耐え凌ぎ、無事に帰還した。
「おかえりなさい、暑かったでしょう」
居間ではリリアンが机に分厚い本とノートを広げ、何か書き写していた。
「ただいまー、何か勉強?」
「薬の調合の勉強です。皆さんがお体の調子の悪い、万が一の時のためにと思いまして」
そう言うリリアンのノートには、症状別に材料やらその用法用量やらがびっしりと書かれていた。
リリアンは机に広げていたノートや本をまとめ隅の方にやると、姫奈から麦茶の入った容器を受けとった。台所から持ってきた二つのコップに麦茶を注ぎ、帰宅した二人の前に差し出した。
「みなさんお揃いですね」
宗治は居間にやってくると、テーブルを囲む三人の輪の中に加わった。
「宗治さん、いつも部屋から出てくるの遅くないか?」
「僕は朝に弱いタイプなので……」
龍斗の問いに対してへらっと笑う宗治は、何とも頼りなげで強そうには見えない。
が、龍斗はそんな彼に二度も救われている。
そのため宗治のことを見直したのか、以前ほどのあからさまに拒絶するような態度で接することはなかった。
――もっとも、少年が元々持っているぶっきらぼう加減が治ることはなさそうだが。
「その平和ボケしたような顔がなんか癇に障る」
「すみません…」
小学生くらいの少年に謝るほどに優男な真田宗治だが、剣術の腕前は確かなものであった。
それは、盗賊の一件から龍斗も認めており、尊敬するべきであると考えている。
しかし、龍斗の中でどこか尊敬しきれない感情が渦巻いていた。
「相性が悪いというか、何というか……ねぇ」
二人のやりとりをはたから見ていた姫奈は、そう呟いた。
龍斗は尊敬すべき相手を尊敬しきれない自分にジレンマを抱いていた。しかし、龍斗自身宗治の何が気に入らないのかよくわからないでいた。
自分より強い宗治に嫉妬しているわけでもない。
頼りなげな振る舞いが気に食わないわけでもない。
だが、龍斗は宗治に対して何か引っ掛かるものを感じていた。
それでも、それを克服しようとする努力の第一歩か、龍斗は宗治にある頼み事をする。
「宗治さん、ちょっと頼みたいことがあるんですけど」
はい?と宗治は少年のいう癇に障る表情で返事をする。
その表情にいらっとくる自分の感情を抑えつつ、龍斗は言う。
「……練習、付き合ってもらえませんか」
――あのプライドの高い龍斗が真田に稽古を頼むなんて。
姫奈は、龍斗の顔をちらっと見る。
今にも爆発しそうな感情を必死に抑え込む少年の顔を見て、思わず吹き出しそうになる。
「分かりました。僕でよろしければ」
そんな少年の思いも知らずに、宗治はにこにこと愛想良く笑う。
「…………」
龍斗のいらつきは限界値に達しそうなところだった。
——戦ってるなあ。
姫奈は、そんなある意味自分に厳しい少年の忍耐力に感心する。
「どうも……」
少年は絞り出すように感謝の意を伝える。心の底から沸き上がる感情を押し殺すその声に、少女の肩は震えていた。




