アリクイに対する怒り
皆さんはこの動物を知っているだろうか。
鋭い爪を隠して歩き、尻尾は太く大きく全身が長い毛で覆われており、その口は異様な程に細く長くおおよそどのような生活をしているか見当もつかない有様である。
この珍獣の名前はアリクイという。
オオアリクイやコアリクイにヒメアリクイと様々な種類がいるがまあアリクイでいいだろう。
私の地元には動物園があり、遠足などでよく訪れた。ライオン、キリン、ゾウ、カバ…人気があるのはそういった動物たちであり、動物園の顔であった。いや、現在もその位置付けは変わらないだろう。
しかし私はアリクイが好きであった。動物園の顔たちに隅に追いやられたアリクイのスペースで時間を過ごすのが好きであった。あのゆったりとした動きに癒されることといったらコアラの比ではないだろう。負けてはいなかった。アリクイは確かに私の中で一番の動物であったのだ。
そういえば私がアリクイに心を奪われた一番の原因をまだ語っていなかった。
“”食生”である。
ようするに名前の通りアリを食べるその様に痺れた。肉食、草食、雑食、蟻食という文字が格好良かった。
一日に三万匹という膨大な数に心を奪われた。
登下校の道でアリを探しては百匹前後で数えるのを諦め、アリクイの途方も無い食生に夢が膨らんだ。
しかし親や周りの友人で私のアリクイに対する気持ちを理解してくれる人はいなかった。否定されて同調して均一化される。それでも私は心の中ではアリクイがまだ好きであった。
月日は経ち、私も成人をとうに迎えふとあの時の事を思い出した。アリクイが動物の中で一番輝いて見えた時期があった事を。
図書館の動物図鑑を見ていたあの時とは違い今では調べ物なんてものは携帯一つで事足りる。
アリクイと打ち込んだ先のあるページにこのような文章が書いてあった。
“動物園のアリクイのエサはアリではない。”
衝撃であった。信じられなかった。
文章の先ではアリが用意出来ないとか、栄養状態を鑑みてなど書いてあったがそんな事はどうだっていい。
幼き私が見ていたアリクイはアリを食べていなかった。騙されていた。憧れが砕ける瞬間であった。
怒りが湧いた。
あの動物はなんなのか。
アリクワズアリクイとでもいえばいいのか?
蟻食(雑食)なのか?
その長い舌を生まれて初めて使ったのはアリではないのか?そう、ヨーグルトとひき肉だ。アリでは無い。
しかしわかっている。人間のエゴだ。
勝手に名をつけ野生から遠ざけて檻に閉じ込め、それら全て彼らの望んだ事では無いとしても、怒りは収まらない。
あぁ、アリクイの名を冠するあの動物は一体なんだ。私のあの日々は無意味であったのか?
私を包むこの怒りをどこに向ければいいのか。
誰かあの動物をアリクイだといってくれ。例えアリを食べていないのだとしても。
結局のところ今現在もアリクイに対する怒りは収まっていない。いずれはこの怒りもあの時の憧れの様に小さくなっていくのだろうか。
しかしこれだけは言わせてほしい。
動物園のアリクイはアリを食べていないと。
申し訳ございませんでした。