1.再会はハードボイルド?
こんばんわ
一度書いたものを練り直し、練り直し不足のまま世の中に放流してみました
SNS『ア・ライブ
世界を展開するネットワークサービス機関である。
生活の総ての事をこの世界で賄う事が出来るという、まるで死角を見出だすことのない仮想空間である。
家に居ながら、買い物、仕事、他人とのコミニュケーション、医療等を受ける事が可能となっていた。
どんっという衝撃音が身体に激しく伝わり、今まで地面に伏せていたのか、泥をつけた顔を起こして周囲を見渡す。
辺り一面、青空と果てしない草原が広がっている。
・・・見慣れない・・・風景だ・・・でも、どこか知っている気がする。
寝惚け眼で辺りを見回す青年ーーグルマリは、目の前に広がる光景に困惑する。
確か、仕事から寄り道をせずに自宅に帰りつき、細々な事を済ました後、すぐにパソコンのスイッチを入れたのだ。
目的は、[ア・ライブ]の中で最近見かけた新規のゲームである。剣と魔法が存在するというごくありふれた少々古臭い感じのものであったが、自由度は高く、まったりと現実的な日常を思わせてくれる世界が広がっている。
背中に広く大きな天使の様な翼を持つグルマリは、考え込んでいたが、やがてはたっと思い出す。
「あ・・・仕事・・・」
緩慢と体を起こすと、無造作に後頭部をガシガシ掻きながら大きく伸びをする。
「やベー・・・インしたまま寝ちまっていたか。」
のっそりと立ち上がるとまた伸びをして、更にはあくびに移行する。
「動かないと、遅刻・・・」
ふと言葉がとまる。
頭の中で警鐘が鳴るのを感じた。
ここは俺の部屋じゃない。
これは俺の体じゃない。
じゃあ、これは一体どういう事なのだろうか?
動揺を通り越し、頭に冷たいものが走る。
「パソコン弄る以外、何やってたっけか」
無意識に歩みを進めながら、昨日の事を思い起こそうとする。然し、特にへんな事をした記憶も無く・・・
「鏡が無くてわかんないけど、これゲームのキャラっぽいよな」
現実的に背中についてる筈のない天使のような翼がハタハタと小さく羽ばたくのを感じ、はあっとため息をつく。
「俺、まだ寝てんのかな」
どんっ!!
先程、意識を取り戻すきっかけになった大きな音と、それに乗じて大勢の人々の悲鳴が聞こえてくる。
「な、何だ?!」
訳もわからずも、無謀にもその場に行ってみると、文字通りの大混乱の光景に遭遇した。
剣や銃を携えた強面の男達が徒党を組んで、旅行者らしき人達を襲っているのだ。
旅行者が乗っていた馬車は強面らの攻撃でずたぼろになり、馬車を引いてたであろう馬は逃げ出しており、馬車の中いた乗客は強奪者から逃げようともがいている。
この場面を見たとき、ゲームのイベントかと思ったが、鼻に来る火薬のにおい
血の鉄のにおいが、これは現実だと教えてきて全身が震えた。
グルマリが、呆然と立ち尽くしてその場を傍観していると、強面のひとりが彼の方へ全力で向かってくる。
素から怖い顔に卑げた笑顔を張り付かせ、剣を振り回してくるのだ。
「え、ちょっ、マジか!!!」
驚いて攻撃を避ける事が出来ず、肩を窄め咄嗟に目を閉じた。
だが、斬られた感触はいつまでやって来ず、代わりに一陣の風が吹き、怒声が鳴り響いた。
「動け!!」
その怒声に押される様に、腕を下ろし状況を見ようと目を開くと、誰かが自分を庇うように立ちふさがっている。
ふたり、いた。
ともに長身で、全身に軽く緊張感を漂わせている。
ひとりは烏の濡れ羽の様な黒い色の長髪の人物、今ひとりは、太陽光に照らされ輝く金色の短髪の人物であった。
知っている人物だった。いや、知っているキャラクターと言った方がいいだろう。
「…シノさん、コモロさん…」
普段はパソコンのモニターを通して見るふたりが、何故か今、肉眼でハッキリと見えているのだ。
「え、何が、どうなって…」
戸惑いを見せるグルマリに、シノは大声で指示を出す。
「話は後だ! 先ずは目の前の事に集中しろ」
その声が合図となったのか、シノの横いたコモロは片手を強面らに差し向ける。そして、しっかりとした口調で攻撃呪文を唱えたかと思うと、炎が強面らめがけて解き放つ。
いきなりのコモロの攻撃に、グルマリは驚いて彼を見つめる。
その視線に、コロモはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて澄まして言う。
「攻撃を仕掛けてくる方が悪いんだよ。 」
「何だか、コモロさんの方が悪人に見えて仕方ないんですが…。」
「おや、人聞きの悪いことは言わないで欲しいな。」
「軽口は後にしろ! 次、来るぞ‼ 」
シノの怒声に、再び緊張が走る。
目の前の強面男達は、コロモの攻撃魔法に用心しつつ、各々武器を振り回してこちらへ押し駆けてくる。
「これって、因果応報?」
「それってどういう意味?」
再開しそうになる軽口の叩き合いを打ち消そうとするように、シノが大剣を振り上げ強面男達を一挙に薙ぎ払った。
「…強行突破だな。」
「そうだね、これ以上騒ぎを大きくするのも何だしね。」
「いや、充分大きくなってるでしょ?」
グルマリがこっそりチクリと言った言葉が予想以上大きく響いたらしく、コモロはにっこりと綺麗な笑みを浮かべ、細く繊細な指先でグルマリの両頬を左右に伸ばすように引っ張る。
「茶々を入れてるのは、この口かな?」
「あひゃひゃ。」
いきなり口元を引っ張られて妙な声が出た。
引っ張られた口も痛くてヒリヒリする。
そんなコモロの両腕をシノは有無を言わずガシッと掴み、グルマリの口から手を離れさせると、そのまま引き寄せ強面男達から方向転換して走りだし、グルマリも遅れまいとヒリつく頬を擦りながら走り出した。
ありがとうございました。またお会いしましょう