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無知  作者: 蒼井碧
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序章 はじまりの日

はじめて作品を作り、投稿サイトにアップするということで期待と不安でいっぱいです。

おかしな点など、ご指摘大歓迎ですので是非お願いいたします。

私は世界を知りません。

なぜって、それは私は家から1歩も外に出たことがないのだから。



平成57年5月4日その日は春という言葉には似つかわしくないとても暑い1日だった。

この日に私は自宅で誕生した。

予防接種とかはドラッグストアで手軽に入手可能な時代になっていたからなのか、私は全てを母にしてもらった。

「なにをするにも人の力を借りたくないの」と母はよく言っていた。

だからだろうか、私は保育園にも行かなかったし、もちろん小学校なんかも行かなかった。

なぜそんなことが許されるのか、私にもわからない。

そもそもそんなものが存在すると知ったのは何年か後のことだ。

言葉や小学校レベルの勉強は母から教えてもらったこともあり、なかなか自信がある。

運動こそしなかったが、母が栄養を考えて食事を作ってくれていたから肥満になることはなかった。



私はこの頃までこの家を世界の全てだと思っていた。そして、たった2人の世界の住人だと、そう思っていた。



ときどき母がいなくなることがあった。最初は悲しくて寂しくてたくさん探しまわった。だけど母がみつかることはなかった。

そして泣きつかれて眠ってしまい、起きると母が夜ご飯を作っている。

そのことに、きずきはじめてからは母を探す事はなくなった。



小さい頃から絶対に踏み入れてはいけない部屋が存在した。母が言うには、そこに足を踏み入れると子供の体とパクチラトレドスレという母が作った極秘化学物質と科学反応をおこして、死んでしまうという。死ぬまでいかなくても、大火傷、皮膚の腐敗化などが起こる可能性が十分に考えられるという。


私はそれが怖くて、絶対にその部屋に入ることはしなかったし、近づくことさえしなかった。


そして母がその部屋に入っていくときは、怖くて、悲しくて、頭がおかしくなってしまいそうな気さえした。

だけど、母はいつもと変わらずに笑顔で帰ってくる。その変わらない母の笑顔をみると、安心してパクチラトレドスレなんて、存在しないかのように、すべて嘘のように思えてしまう。


そして、その日はやってきた。

それは私が15歳になる年であった。


いつものように母はどこかへ消え、私は部屋で本を読んでいた。

すると、たまに耳にする不快な音が聞こえてきた。気にせず本を読み続けていると、その音は次第に早くなり、音が止んだと思えば、次は微かに扉を叩く音が聞こえる。

普段こんなことは起こらないし、起こったとしても、母がなんとかしてくれる。私はなにもできず、ただただ恐怖心に打ち勝とうとするのに精一杯だった。

それが5分から10分ほど続いた。

すると次は

「佐伯さん!佐伯さん!逃げて!!」という、母の声ではない、知らない声が聞こえてきた。

それも、母に入ってはいけないと言いつけられていた部屋から。

[逃げて]という言葉の意味は私にも理解できた。だが私は、なぜ逃げなくてはならないのか理解することができなかった。


すると、次第に部屋の中に白い煙が立ち込んできて、視界が悪くなった。

息も苦しい。なんだか、部屋が暑い。

そこで初めてなぜ逃げなくてはならないのかを理解した。

だが、私には逃げる術がなかったのだ。

それは、私が逃げられる場所がなかったからだ。

視界を遮り、呼吸を困難にさせる白い煙の中、意識がだんだんと遠のいてゆく。


そこで私に一つの考えが浮かんだ。

それはあの、踏み入れてはいけないと言われている部屋に入るということだ。


母はパクチラトレドスレは子供の体に反応すると言っていた。

私はもう15になっていたから、子供と大人の間という考えが芽生え始めていた。


そもそも、子供と大人の境界線とはなんなのだろうか、最近はそんなことさえ考えていた。


どうせ死んでしまうのなら、1度くらい言いつけを破ってみたいという感情に駆られる自分もいた。


そして私は決断をした。


あの部屋に入るという決断だ。



白い煙のせいで視界が悪く、意識が朦朧とする中やっとの思いでたどり着いたあの部屋の前。


やはり前にすると足がすくんでしまいそうなほどの震えを覚えた。

勇気を振り絞って扉を押すーーーーー



そこはもう火の海であった。


目の前に飛び込んできた炎に驚いて、腰を抜かしてしまった。

初めて目にした私の体の倍ほどに燃え盛る炎を前に、私はなす術なくただただ唖然としていた。


すると、銀の布に身を包んだ男が2,3人寄ってきた。

「生存者発見!すぐに救助に移る!」

今まで耳にしたことないほどの大きな声。それも母の声とも自分の声とも似ても似つかない低く野太い声だ。それに驚いているうちに、その男に体を抱えられその奥にあった重い扉のその先の部屋へ運ばれようとしていた。

「やめろ!離せ!」

私は必死に抵抗したが、運動をしてこなかったせいか男の体はびくともしない。

そしてついに、男がその重い扉を開いた。


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