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タイブ  作者: 佐倉薫流
9/9

本編9

佐桐は会社で落ち込んでいた。

彼女には珍しく、遅刻をしたからだ。

しかも、電車遅延とかであればまだ納得がいくが、遅刻の原因は「朝寝坊」。

完ぺき主義の佐桐には許せない事だった。


確かに昨日はすごいことをした。

いっぺんに4人の人間の意識に中に入り込んだのだから。

しかし我ながらなかなかたいしたものだ、と感心もしていた。

しかし、こういうのは二度とゴメンだとも思っていた。

あの日からまだ間もないのに、こんなことになろうとは、自分の人生これから先どうすれば良いのだろうと、変に不安感もこみ上げてきた。


昨日の出来事で、香川の自分に対する想いを知ることができた。

しかし、彼女にとって、知ることができたのは嬉しさよりも虚しさの方が大きかった。

やっぱり、相手の気持ちが分からないからこそ人付き合いは楽しい、それがつくづく分かると共に、これから先、自分はそういう楽しみは味わえないんだという失望感でいっぱいだった。


「あー、でも、奴・・・私だとはわからないんだろうなぁ・・・」


そんなことを思いながら、昨日の書かなかった香川へのメールの返事を書いていた。




彼女は出社してこなかった。

同僚に、西田の休みの理由をもう嫌なほど聞かれたが、自分には分からない。

いや、昨日のことは思い出したくない。

そう思いながら、香川は仕事をしていた。


頬の腫れは、帰宅してから必死に冷やしていたから、今日には何とか引いた。

まだ痛みは残っているが、腫れが引いたのでよかったと思っている。

腹のパンチは帰宅してから苦しんだ。

幸い、西田の力だったのでまもなく治まったが、服の下は少々色が変わっている。

1週間ぐらいは取れないだろう。


昨日の声の主は誰だったんだろうと、香川は考えた。

正直、怖かったが、それ以上に安心感もあった。

実際に自分を助けてくれたのはあの声の主だろう。

人間、日ごろの行いが大事だなとふと思ってみたりもした。


(あの声は・・・どこかで聞いたことがあるような?)


声と言っても、音声で聞こえてくるわけではないので、その判別はできない。

だけど、あの感覚は、どこかで味わっているのは確かだ。

ただ、それがどこで感じた感覚なのか・・・分からない。

香川は自分の指から打ち込まれるアルファベットを見ながら考えていた。

そして、そのアルファベットの文字を遮るかのように、メール着信の知らせが表示された。


「・・・佐桐さんからだ」


誰にも聞こえないように小さく呟いて、メールをそっと開いた。

相変わらずどうでも良いジョークが書いてある。

本題の3倍はジョークだ。

全く。

この人は仕事をする気があるのだろうか。

クスクスっと笑いながら、香川はそのメールに返事を書く。

昨日の佐桐に書いた内容にお詫びを入れながら。

佐桐の事を考えながらメールを書いていると、どこからとも無く声が聞こえた。


・・・私のこと、覚えてる?


香川は振り向いた。

しかし、そこには同僚が黙々と仕事をしている姿しかなかった。

香川は何事も無かったかのように、自分のディスプレイに向かった。

そして、メールの返信も書き終えて、送信ボタンを押したのであった。


終わり

一応恋愛物ということで・・・

この作品は6年前にイキオイで書いたものでして、読んでいてもそんな感じがしませんか?(爆

サクッと読んでくすっと笑ってもらえれば幸いです。

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