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タイブ  作者: 佐倉薫流
8/9

本編8

「聞こえた」


佐桐の肉体の一部が声を発した。

目を開き、宙の一点をじっと見つめる。

しかし、彼女の視界はその宙を捉えてはいない。

もはや目を閉じるのを忘れて、必死に彼の声の発信源を手繰った。

眉間には、苦痛とも取れるしわを寄せていた。

目元の筋肉が痙攣している。

額から頬に、一滴の汗が伝った。

その汗は頬から更に顎へ伝い、自分の重みに耐え切れず顔から離れた。

その滴は、彼女の太ももへ静かに落ちた。


「・・・見つけた・・・そこだな!」


そういうと、佐桐は大きく息を吸い、ゆっくりと、聞こえない低い声を出して息を吐き出した。

再び息を吸い、またゆっくりと吐く。

佐桐の呼吸はどんどんどんどん荒くなっていった。



香川はなぜか目を開いた。

ゆっくりと、ゆっくりと開いた。

そんな香川に、気味悪さを感じた男共は一瞬表情を凍らせた。

男の一人が思わず、他の男の前進を手で制した。

それほどまでに、香川の動作は不気味なものであった。


香川はゆっくりと男共の顔をうかがった。

いや、香川の意思ではない。

香川自身、意識はあるが、誰かに操られているかのように、その意思に従っているだけであった。


(男が3人・・・その奥にいるのは・・・?)

(俺の会社の同僚の女・・・ちょっとイカれた感じの女だよ)


香川は聞こえない声に自分も声を発せず答えた。


(男を何とかしなくちゃね)


聞こえない声の主はゆっくりと語った。

香川はそんな声に、恐怖心と安心感同時に感じるのであった。

とりあえず、男共を制した代表の男が実力的には一番上なのだろう。

この男を何とかすれば、この危機を回避できるかも知れない。


(あの中心にいる男に視線を合わせてくれる?)


香川は聞こえない声に従った。

指示通り、男の目を見た。

男は一歩下がったが、香川の行為を「挑発」と受け取ったのか、表情を変えて襲い掛かってきた。

香川が漠然としたなか「まずい!」と思ったが、その意識はいつの間にかはっきりしていた。

そして、はっきりした頃には、襲い掛かるはずの男の動きが止まっていた。


男は痙攣を起こしていた。

いや、今まで感じたことのない感覚に、恐怖を感じていた。

胃袋を素手で探られているようなこの気持ち悪い感覚は何だろう・・・

男は必死に抵抗を試みた。

その様子を他の男共は、不気味そうに見ていた。

そして、遠くから、西田もその異変に気づくのだった。




「・・・なかなか難しいね」


佐桐は目を開いてどこかを見つめたまま、なぜか笑みを浮かべていた。

香川の意識は捉えた。

彼が現在置かれている状況も分かった。

だが・・・

意識だけではどうしようもならない。

佐桐の呼吸が荒くなる。

肉体的にも相当堪える様だ。

抵抗する男の意識を探りながら、佐桐は一点の穴を見つけた。


「セキュリティホール発見」


そうつぶやくと、今度は固く目を閉じた。




「うぉあ?!」


違う男が奇妙な声を上げた。

そのとたん、異変を起こした男が膝をがくんと落とした。


「何があったの?!」


西田が遠くから男に声をかける。


「わかんねぇ・・・急に胃が気持ち悪くなったような・・・」

「昼間に変なもの食べたんじゃないの?!」


男の言葉に西田はヒステリックに言い放った。

男は少しムッとなったが、胃が気持ち悪いのか、その場で深呼吸を始めた。


奇妙な声を上げた男は、西田の問いかけに答える事ができなかった。

目を大きく見開き、体をもじもじさせている。

胃が痛い男が彼に声をかける。


「お前も胃の調子が悪いのか?」


彼の言葉に、その男の表情が急に変わった。

その表情は怒りに満ちていた。


「お前・・・俺の女に手をだしたな?」


彼の言葉に、男がびっくりした表情になる。


「そんなこと、今関係ないだろう!!」


その言葉が火に油を注いだのか、奇妙な動きをしていた男が更に言った。


「お前、俺の女と寝たな?

・・・お前だけは信用していたのに・・・この野郎!!」


男はもう一人の男に殴りかかった。

男のパンチがクリーンヒットして、胃痛の男は大きな音を立ててひっくり返った。

脳震盪を起こした後、男はゆっくりと立ち上がり、奇妙な動きの男に殴りかかった。

そして、男二人は大乱闘を起こし始めた。


その様子を見ていた西田は、もう一人の男に


「何やってるの!!止めなさい!!」


と命令した。

しかし、もう一人の男の様子も一変していた。

男は香川を束縛していた紐を解いた。

そして、西田の方へ向かっていき、そして彼女の腕を乱暴につかんだ。


「な・・・なにするの!!」


西田は予想もしない展開に必死に抵抗するが、所詮女性。

男の力にはかなわなかった。


「なんであんな男なんだよ?ああ?

俺、前からあんたのこと、好きだったぜ?

・・・いや、犯したいと思っていたよ」


そういうと男は下品に西田の唇を奪った。

そして、彼女自らはだけっぱなしだった胸を、乱暴に、そしていやらしく触った。


「い・・・いやぁぁぁ!!」


西田の悲鳴が部屋に響く。

拘束を解かれた香川は、今の状況にどうしたら良いのか混乱していた。

あっちでは喧嘩が始まり、こっちでは犯罪が起ころうとしている。

きょろきょろとしていると、香川の頭の中に声が響いた。


―――さっさと逃げなさい。


香川は大慌てで部屋を去った。





佐桐はこの上ないおう吐感に見舞われた。

中身が出ないように必死にこらえると、大きく深呼吸をした。

そして、そのまま仰向けにひっくり返った。

彼女の全身は汗でぬれていた。


「・・・男同士の関係も・・・いやだねぇ」


天井をうつろに見ながら、そのまま深い眠りに落ちるのであった。

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