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タイブ  作者: 佐倉薫流
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本編5

西田は自宅に帰っていた。

今日は香川にデートを断られたらしい。

彼女は最近、香川のことで頭がいっぱいだ。

どんなことをしてでも、彼と関係を持ちたい、そんなことばかり考えていた。

しかし、当の香川は自分から距離を置こうとするばかり。

しかも、この間の占い師の話では「つまらない男だから別れなさい」と言われる始末。

彼女の落ち込みようは尋常ではなかった。


西田は携帯電話を手に取り、あるところへ電話した。


「ちょっと相談があるんだけど・・・」


そう話す彼女の表情は、尋常なものとは言いがたい。

何かこう、マフィアのボスが部下に命令するかのような、そんな口調で話をしていた。

その内容とは、恐るべきものであった…



「ふう」


佐桐は香川から来たメールをぼんやり眺めていた。

彼の質問には普通に答えたつもりだ。

ちょっとした冗談は佐桐の常套手段であり、いつものようにユーモアたっぷりのつもりであった。

しかし、香川の受け取り方は違ったらしい。

なんだかいろいろとショッキングなことが書かれているようだ。


「なんかあったのかぁ?」


佐桐は自分の冗談が、たまあに人に通じないことを知っていたので、冷静に彼の返事を眺めていた。

ただ、今回の冗談は振られたことを受けて、結構控えめだったのにと思いつつ、ちょっぴり心配になっていたのであった。


「私の冗談って結構キツイのかねぇ」


そう思いつつ、電子文字から何か感じ取れないかと、新たな訓練を始めていた。

しかし、全く持って何も感じることは無い。

電子世界とは不思議だ。

まあ、所詮は電気信号の世界だから・・・と思いつつ、電子世界に再び惹かれる佐桐。


「これだから科学はやめられないねぇ」


そうつぶやくと、香川のメールの返事は書かずに、パソコンの電源を落とした。

そして、布団に入り、深く目を閉じるのであった。




香川はコンビニで今日の夕食を探していた。

ふと、佐桐に返信したメールの内容が気になった。

彼女は自分がその気が無いことを理解している・・・

だから、そういうのを抜きでいつものようにメールで返事をしてくれた。

まあ、彼女はジョークが好きだから、いつも余計な話がついてくるが、今回は自分に気を使ったジョークを書いていた。

だけど、自分はそのジョークすら受け止めることができずに、冷たく当たってしまった・・・

ふと申し訳ないと思い、から揚げ弁当を手に取った。


「なんでも良いや」


そうつぶやくと会計を済ませて、帰り道をとぼとぼ歩いた。

月が見えない夜。

外灯だけが帰り道を照らす中、香川は佐桐の声が聞きたくなった。

たまに彼女から電話がかかってくることがあるが、彼女はいつも明るい声で話をする。

メール同様、ジョークを言いながら、いや、本題よりもジョークの方が多いが、彼女と話しているとなぜか安心する。

彼女の言葉が本音なのかそうではないのか、判断できない話術が時折不安になるが、そこが彼女の上手いところ。

とりあえず、そんな彼女のトークを、今日はなぜか聞きたかったが、自分から電話する気にはなれなかった。


いろいろと考えをはせながら一人、人気の無い道を歩いていた。

ふと顔を上げると、知らない男が3人、目の前に立ちはだかっていた。

香川はそれを避けようとするが、彼らが自分を狙っていることに気づくと、体を反転させて走った。

しかし、しばらくしたところで追いつかれ、何かを吸わされて意識が無くなった。



ふと目を開けた。

真っ暗で何も無い状態から目覚めたようで気持ち悪い。

視界がなぜかはっきりしなかったが、声だけは聞こえた。

男の声と女の声、4人ぐらいだろうか。

女の声に聞き覚えがあった。

いつも聞いている声だ。

少しずつ視界がはっきりしてくる。

体を動かそうとするが、縛られているらしい。

必死に体をゆするも、自分の体を縛っているものが解ける様子は無い。

どうやら、ワンルームマンションの一室のようにも思える。


「あら?お目覚めみたいね?香川さん」


聞き覚えのある声が香川に声をかける。


「・・・西田さん・・・これは一体?!」


重い意識をこらえながら、香川は言葉を何とか声にした。


「あなたがいけないのよ?

私が折角“お付き合いしましょう”というのに、はっきりと返事しないから」


西田は香川のをじっと見て言った。

香川は自分がこれから何をされるのか、分からなかった。

しかし、西田の狂気に満ちた目を見ると、尋常ではないことが起こると感じた。

いや、この状況であれば誰でもそう思うに違いない。


「だから、言ったじゃないですか。今はそんなつもりは無い・・・と」


香川は言葉を考えずにそのまま発した。

言ってからしまったと思った。

ここでもっと上手い言い方をすれば・・・

しかし、もう既に遅かった。


「何を言っているの?

あなたは私と付き合うの。そう決まっているの。

私から言い寄ってお付き合いしてもらえるなんて、ありがたいことなのよ?

ねえ?」


西田は周辺にいた男に同意を求めた。

男どもはみなうなづいている。


「親分の娘さんに言い寄られて断るなんて、滅相も無いことだぜ?」


男の一人が香川に言い放った。

香川は理解した。

あの時占い師が「あの子は、気をつけた方が良い・・・きれいに別れなさい」と言った言葉の意味が。

しかし、たかだか男一人で、その男を手に入れられないからといってここまでやるのは異常極まりない。

香川は深い後悔の念に駆られた。

そして、同時に怒りもこみ上げてきた。

そんな彼を気にすることなく、西田は香川に言い寄った。


「ねえ?今からでも遅くないわ。

私と付き合わない?いえ、付き合いなさい」


西田は動けない香川に近寄り、いやらしく体をこすり付ける。

彼の厚い胸板に自分の興奮した胸を押し付けた。

その感触はやわらかく、普通の男であれば興奮するであろう行為であるが、香川には「悪寒」以外に何も感じることはできなかった。


「いいや・・・やっぱりお互いのためにもそれはできないよ」


香川はやさしくも、不器用な言葉を漏らす。

もはや、むき出しの本音を出さないようにするので精一杯であった。

香川に彼女を欺くだけのしたたかさはない。


「分からない人ね。そんなところも素敵」


西田は香川の言葉を無視してそういうと、香川の唇に自分の唇を重ねた。

甘いにおいを漂わせた彼女の行為に、香川はされるがままであった。


「ここまでされてもお付き合いしてもらえないのかしら?」


唇を離し、西田は香川に再び問いた。

彼女の視線の後ろに、男達の視線も感じる。

下手なことは言えない・・・言えないが、ここで「YES」と言えばもっと大変な結末を迎えるだろう。

・・・どうしたら良い?

香川は必死に考えをめぐらせた。

(こんな時、佐桐なら上手く言いくるめることができるんだろうなぁ・・・)

ふと佐桐の声が頭に浮かんだ。

彼女は話し上手だ。

こういう状況でも軽くジョークで乗り切るだろう。

しかし、自分にそこまでの知恵は無い・・・

ああ、こんな時、佐桐のジョークの一部でも自分で言えたなら・・・


・・・ああ、彩乃。


なぜか香川は佐桐の名前を心でつぶやいた。

なぜだろうか・・・なぜか彼女に救いを求める自分に疑問を感じる。


そんな考えに思いをめぐらせる香川に、痺れを切らした西田が、香川の頬にビンタをした。


「馬鹿な男ね!本当に!!」


そういい、怒りの表情で反対側の頬にもう一発ビンタをした。

香川は痛さと怒りと、少しずつこみ上げてくる恐怖の表情で西田を睨んだ。

その目は痛さで少々潤んでいる。

その目の潤みを見た西田はふとやさしい表情になり、椅子に腰掛けたまま縛られている香川の上に馬乗りに乗りかかり、自分で叩いて赤くなった香川の頬を舐めた。


「私、悪くないわよ。良い女なのよ。

だから、黙って「うん」って頷けば良いのよ」


そういい、香川の額に唇をつけた。

しかし、香川の表情は変わらない。

いや、先ほどにも増して、恐怖の表情を浮かべている。


「私の言うことが分からないのかしら?」


香川の体に自分の体を密接させて、彼の目をじっと見つめて西田は言った。

彼女が今度は香川に唇を求めた。

しかし、香川はそれに答えようとはしなかった。

いや、理性ではなく、本能で答えることができなかった。


「・・・わかったわ」


そんな香川の気持ちを察したのか、西田は香川から離れた。

この後起こりうる状況を、香川で無くとも想像はできるであろう。

香川はそちらの事態のに臆した。


「言葉で言っても分からない場合は・・・体で分からせるしかないわね」


西田はそういうと、周りにいた男達にあごで指示を出した。

男達はその意味を理解して、身動きの取れない香川にじりじりと歩み寄った。

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